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 その後の宴会は、それはもう理仁に取っては面倒くさい宴会だった、の一言だろう。

 喫煙室で昂太から話されたお隣さんの事について、蒲田からひたすらからかわれ、詮索され、酔っ払った昂太が美人だった、美人だった、と蒲田に話して終いには理仁に絡み酒をしてくる始末。





「──ああっ、くそ重い……っ!」

 理仁は、日付が変わった頃にお開きになった宴会で、潰れて寝こける昂太を蒲田と何とか抱え、移動しながらやっとの事で自分達の部屋がある階へと戻って来た。

「全く……昂太は酒に弱い癖して自分の限界値を未だに把握していないのか」
「ここまで潰れる事は無かったんだが……悪いな、蒲田。手伝って貰って助かる」
「いやいや大丈夫だ。こいつからは大隈が今気になっている女性の情報を貰ったしな。その代金にしては安いもんだろう」

 にやにやと嫌な笑みを浮かべる蒲田に、理仁は昂太を抱えて歩きながら、昂太を反対側で支えて歩く蒲田の尻を無言で蹴った。



 カードキーを差し込み、取り敢えず理仁の部屋に戻って来た三人は、ぐっすりと寝落ちてしまっている昂太を適当に畳に転がして一息ついた。

「蒲田、まだ飲み足りないんなら冷蔵庫にビールが入ってるから好きに飲んでてくれ」
「ああ。有難く頂くが……大隈は?」
「俺はちょっとエントランスに一服しに」

 理仁の言葉に、蒲田は「おう」と返事をすると冷蔵庫へと向かう。
 理仁はカードキーとスマホをポケットに入れると、冷蔵庫を開ける蒲田の背中を視界の隅に入れながら扉を開けて部屋の外へと出て行った。



 部屋の外に出ると、途端に廊下が静まり返っており、理仁は若干の寒気を感じて肩を震わせたがそのままエレベーターの方向へと向かう。

 先程まで、散々隣人の話をしていたからか、理仁は琴葉の事を思い出してしまった。

「そう言えば、暫く顔見てなかったけど……元気にしてるんだろうか……」

 最後に会った時に、しゃがみ込んでいた小さな背中を思い出してしまい、理仁はふるふると首を横に振る。

 悲しそうな、辛そうな表情をしていた気がするが、ただの隣人である自分がそこまで踏み込んでいい事ではないような気がする。
 ただ、映画鑑賞が趣味と言う事が一緒で、時たま顔を合わせた時に話したりする程度だ。

「相談、とか……されてんなら別だけど……別にそうでは無いし、な……」

 理仁はぽつりと小さく呟くと、やって来たエレベーターに乗り込んでエントランスの一階のボタンを押した。



 ──チン、と小気味よい音を立ててエレベーターが一階に到着すると、扉が開く。
 理仁はエレベーターから降りると、喫煙室へと真っ直ぐに向かいながら、室内に殆ど人影が無い事を確認してそのまま喫煙室の扉から中へと入った。

 宴会が終了した直後だからだろうか。
 喫煙室には同じ会社の人間の姿は見当たらず、他の宿泊客だろう。
 年代も様々な人達がぽつりぽつりと灰皿の周りに立って、煙草を吸っている。

 理仁は特に何も考えずに視線を巡らせて、そこで昼間話し掛けられた年配の女性がまた喫煙室に居る事に気付いた。
 向こうも理仁に気付いたのだろう。にこり、と笑顔を浮かべて軽く頭を下げて来たので、理仁も軽く頭を下げる。

(──確か、あのお婆さん……飯沼が言ってたけど占い師? なんだよな……?)

 しかも結構当たると評判らしい。

 そんな人物が、自分に対して何に気を付けろ、と言っていたんだっけか、と理仁は考え始めるが、どうしても言われた言葉が思い出せない。
 何だったか、と理仁が一人で深く考えている内に喫煙室に居た人達は吸い終わったのだろう。
 一人また一人と火を消して外へと出て行く。

 気付けば、昼間と同じように理仁とその年配の女性だけが喫煙室にぽつりと残り、人が居なくなった所でその年配の女性が徐に再び理仁に話し掛けて来た。

「──ライターを貸してくれたお兄さん。階段のイメージが強くなってるから、気を付けるんだよ」
「えっ」

 理仁がびっくりして瞳を見開くと、その占い師の女性はにこり、と再び笑顔を浮かべると、吸っていた煙草の火を消して「じゃあねぇ」と理仁に声を掛けてから扉を開けて出て行ってしまった。

 室内にぽつりと残された理仁は、占い師の女性から言われた言葉を自分の唇で呟いて、不思議そうに首を捻ったのだった。
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