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 ジャンケン、と言う公平でシンプルな勝負に買ったのは昂太で。
 負けてしまった理仁と蒲田は残念そうに自分の手元を見詰め、昂太は嬉しそうにガッツポーズをする。

「まあ……。滝も自然溢れる場所だからいいかな……」
「──くそっ、負けると地味に腹が立つな……」

 蒲田は負け惜しみを、理仁は不服そうな表情を浮かべて呟く。
 そんな中、勝者の昂太は自分のスマホを操作して目的地までの時間と、経路を調べ始めた。

「あっ! この滝ここの店から意外と近いっすよ、徒歩で十五分くらいっす!」

 昂太が見せて来た経路図が表示されたスマホの画面を理仁と蒲田は確認しながら、その滝の画像等をスマホの画面をスワイプして確認して行く。

「へぇ。確かに大自然溢れるいい場所っぽいが……これが冬じゃなけりゃあなぁ……」
「秋頃に来てたら紅葉も丁度良くて景色も良さそうなんだけどな……」
「もー! 理仁先輩も、蒲田先輩もそんな事言ってないで早く行きましょう! 夕食の宴会の時間に間に合わなくなっちゃいますよ!」

 席を立った昂太に理仁と蒲田は腕を掴まれ促されると、「はいはい」と言いながら店を出て行った。




 三人で話しながら歩いているとあっという間に目的地である滝の観光地に到着し、理仁と蒲田は感嘆の声を上げながら滝を見上げた。
 昂太は到着するなり「映えっす!」と言いながらあちらこちらの写真を撮っていて二人を置いて写真撮影に熱が入っている。

「あー……こう言う大自然の中に居ると、普段のストレスやらなんやら吹っ飛んで行くよなぁ」

 ぽつり、と呟いた蒲田の声音がいたく真剣で、理仁は自分の隣に立って滝を眺めている蒲田にちらりと視線を向けてから唇を開いた。

「──まあな……。しょうもない事で悩んでる自分が馬鹿馬鹿しく思えて来るよな」
「……なに、大隈悩みでもあんの?」
「いや……別にねえけど……お前こそどうなんだよ。ストレス感じてんのか?」
「あー……まあ、あれだな……。後輩指導って大変だよな……」

 蒲田はちらり、と写真撮影に夢中になっている昂太に視線を向けてから迷ったように唇を開いた。

「お前んとこの後輩は、同性だし、まあちょっと騒がしい奴だけど良い奴じゃねえか」
「騒がしいし、ミスも多いけどな」

 蒲田の言葉に、理仁は苦笑しながら言葉を返す。

 だが、蒲田が言う事も尤もだ。
 先輩、先輩と懐いてくれている自覚は理仁自身にもある。
 仕事でミスを連発するのは頂けないが、それも入社して半年以上経った今ではミスも少なくなって来ており、成長して来てはいる。
 それに、慕ってくれている後輩は指導している本人からしたら可愛く思えるものだ。

「まあ、ミスが多いのは……新人時代のご愛嬌だろ……。俺んとこは女の子でなぁ……。世間話でこう、上手くコミュニケーションを取ろうとしても上手く出来ないし、飲みになんか誘ったら今はセクハラだパワハラだ何だって言われやすいだろ?」
「──あー……蒲田んとこは女性社員か……難しいよな……ミスしたからって、強く怒れないし、加減がなぁ……」
「そうなんだよなー。繁忙期が終わったからまあ、少し気が楽にはなったが、繁忙期は忙しすぎてまともに指導してやれて無かったし、うちの部署はノー残業推進してるし、女の子だからあまり残業で遅くなると帰りが心配だし……」
「……帰りまで心配しなくてもいいんじゃないか……? 大人なんだし、そこは自分でちゃんとするだろ……」
「そうか、そうだよな……」

 後輩の指導の仕方について、本当に煮詰まっていたのだろう。
 蒲田は深く溜息を吐き出すと自分の前髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。

 理仁が蒲田の背中を気遣うように叩いてやると、蒲田は「さんきゅー」と弱々しく理仁に言葉を返した。



「理仁先輩! 蒲田先輩! 写メ撮りましょ、写メ!」

 理仁と蒲田がしんみりとした雰囲気で滝を眺めていると、一頻り写真を撮って満足したのか昂太が満面の笑顔で二人の元へ戻って来る。

「──は、? 写メ?」

 突然何を言っているんだこいつは、と言う表情で理仁が昂太に視線を向けるが、先程まで落ち込んでいたような、悩んでいたような雰囲気だった蒲田は瞬時に気持ちを切り替えたのだろう。
 昂太の提案に「おっ、いいじゃん!」と明るい声を返している。

 理仁が切り替えが早いな、と感心している内に昂太はスマホのカメラを起動させると、二人の間辺りに腰を落として中腰になると迫力のある滝を背景に内側のカメラに切り替えると「撮りますよ~、タイマー二秒っす!」と声を上げてシャッターを押した。

 何枚も写真を撮って満足したのだろう。
 昂太は笑顔で「お二人にも送りますね!」と声を掛けると素早い動きでスマホを操作して行く。

 理仁と蒲田のコートのポケットから通知を知らせる高い音が連続で鳴って、昂太が宣言した通り一緒に撮った写真を二人に送っているのだろう。

「理仁先輩、蒲田先輩! 上の方に神社もあるみたいなんで行ってみましょうよ!」
「あーはいはい」
「せっかくだし、行ってみるか!」

 昂太の案内に二人は頷くと、時間一杯この観光地を楽しんでから宿泊施設へと戻った。
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