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しおりを挟む「大隈、今の年配の女性と何話してたんだ? 何か話し掛けられてたよな?」
蒲田の言葉に、理仁自身も曖昧に言葉を返す。
「いや、ライターを貸してくれって言われて……貸したんだけどな……その後何か不思議な事を言われたような……何だっけ……?」
「ええ? お礼とかそんなもんじゃないのか?」
「確かに礼は伝えられたが……何だっけかな、気を付けろ、的な? 事を言ってたような気がする……?」
理仁は、確かに先程の年配の女性にしっかりと声を掛けられていたのだが、最後の言葉が小さく上手く聞き取れなかった。
理仁自身の意識も、こちらにやってくる蒲田と昂太に向けられていたからだろうか、と釈然としない気持ちを抱いていると、先程から静かにスマホをいじっていた昂太が突然大声を上げた。
「──っ、! ああーっ!!」
「うおっ!」
「……っ」
昂太の大声に、理仁も蒲田もびくり、と肩を跳ねさせると何事だ? と不審なものを見るような視線で昂太を見詰めた。
「さっきの! あの年配の女性っす! どっかで見た事あるなぁって思ってたんす!」
「へえ? 有名人か?」
昂太の言葉に、興味津々と言った様子で蒲田が言葉を返すと、昂太は先程まで一生懸命いじっていたスマホの画面を理仁と蒲田へと向けた。
「あのお婆さん、今SNSでバズってる占い師ですよ! 何か結構当たるみたいで、予言? 助言された言葉はかなり信憑性が高い? らしいっすよ!」
「──へえ? 大隈何に気を付けろって言われたんだ?」
理仁は、昂太から見せられたスマホの画面をまじまじと見詰める。
スマホの画面には、確かに先程この喫煙室に居た年配の女性が映っており、ホームページの一部分だろうか。謳い文句のような文字が目立つように派手にその女性の顔の横に表示されている。
「いや……、何か気を付けろ、みたいな事を言ってるのは聞こえたんだが……他が聞こえなくってだな……分からん」
「えぇ!? 理仁先輩大丈夫っすか……!? あの占い師の言葉、結構当たるみたいっすよ!?」
「覚えてねえんだから仕方ないだろ……。やめろやめろ、不安を煽るな」
昂太の言葉に、ちょっぴりだけドキリ、と心臓が跳ねた理仁は嫌そうな表情を浮かべて昂太に抗議めいた言葉を掛ける。
「そうだぞ、昂太。大隈は意外と気にしいなんだから不安を煽るなよ」
「蒲田……俺は別に気にしいじゃない……」
「そうか? 意外と繊細だと思うけどなあ」
からかい混じりに笑顔で告げてくる蒲田に、理仁は肩から力を抜くと握り締めた拳で軽く蒲田の肩を殴る。
蒲田は理仁からの攻撃を受けて「いてぇ!」と大袈裟に声を上げるとカラカラと笑いながら煙草の火を灰皿に落として喫煙室の出口の方向を指差す。
「まあ、今はそんな不確定な情報を気にするよりも観光楽しもうぜ!」
「た、確かにそうっすね! 理仁先輩、変な事言ってすみませんでしたっ、観光行きましょう!」
「あ、ああ……」
理仁は二人の陽気な態度に呆気にとられながらも深く考え込んでしまう事を中断してくれた蒲田と昂太に心の隅で感謝して、二人に続いて喫煙室を出て行った。
三人は取り敢えず宿泊施設から出てくると、そこで何処に向かうか決めていなかった、と気付いた。
「──そう言えば……、二人は何処か行きたい所あるのか?」
理仁はくるり、と二人に向かって振り返るとそれぞれの顔を見ながら問い掛けるが、蒲田も昂太も特に行きたい場所は無いようでふるふると首を横に振った。
「いや……特に何も決めて無かったな……」
「俺は観光地ってだけでテンション上がっちゃって、何も考えて無かったっす!」
「──なら、飯でも食いながら観光出来そうな場所を探すか……」
理仁は深い溜息を吐き出すと、コートからスマホを取り出して「箱根 飯屋」で検索し、三人でああだこうだ言いながら入る店を決めた。
折角観光地に来たのだから、と普段あまり食べる機会の無い湯葉丼と言う料理を食べられる店に入り、まったりと食事を楽しみながら何処を巡ろうか、と話す。
「まあ、観光するって言っても、今日は行けて一箇所くらいだな。あまり遠出すると夕食の時間に間に合わないし、しっかりと観光したいなら明日の方が良さそうだな」
理仁がスマホを操作しながら蒲田と昂太に告げると、二人もうーん、と声を出しながら自分のスマホの画面を食い入るように見詰めている。
「わー、滝とかあるんすね! 冬だと寒いかな、寒いっすよね……うわー、でも絶対テンション上がりますよ……」
「ふーん、寺とかが多いんだな……俺は結構自然とか好きだからこう言う場所を散策するのも良いけどなぁ」
昂太と蒲田がそれぞれ自分の意見を告げると、自然と二人の視線が理仁に集まる。
理仁は二人の視線を受けながら唇を開いた。
「──俺は重要文化財に興味がある」
「ははっ! 全員見事にバラッバラだな!」
「うー……っ、ほんとっすね。興味がある所がバラバラっす!」
三人はお互い視線を合わせて「仕方ない」と呟くと、誰からともなく握りこぶしをテーブルの上に差し出した。
意見が別れた時には、こうしてしまうのが一番早い。
ジャンケンで買った者の行きたい場所に行く。
とてもシンプルで、直ぐに決着が着くこの行為で、三人は目的地を決める事にした。
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