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しおりを挟む理仁から語られる後輩と言う男性の話は面白く、琴葉はついつい笑い声を上げてしまう。
「ふふっ、ご、ごめんなさい……っ、被害に合っていらっしゃる大隈さんは大変なのでしょうけど……っ、その方っ、面白いですね」
「そうですね──、傍から見たら面白い奴かもしれません。直接関わる俺はたまったもんじゃないですけどね」
一見、冷たそうな印象を受ける理仁だが、こうして話をすれば意外と話しやすく、また話題も豊富で様々な事柄への知識も深い。
映画の趣味が合うだけでなく、こうして話していると話し方や、間合い、話のテンポなどがとても心地よく、琴葉はついつい時間を忘れて話に没頭してしまう程だ。
「今日も、駅前で運悪く後輩と遭遇してしまって……ビールに釣られてこんな時間まで楽しく時間を過ごしちゃいましたよ……今日は色々と買い物をしたかったんですけどね」
「ふふ、とんだ休日になってしまいましたね?」
「ええ、本当に」
二人で笑い合いながらスーパーへと入り、理仁と琴葉はカゴを持って並んで歩く。
休日のスーパーなので、家族連れも多く、通路は普段よりも人が多い。
店内は軽快な音楽が流れており、やはり普段よりも多い店員達が客に向かって声を出している。
理仁と琴葉はお互い特に何処に向かうでも無く歩き、品を見ていたが二人が購入しようとしている商品の売り場が同じなのだろう。
ほぼ同じタイミングで足を止め、売り場を覗く互いにまた笑いが込み上げて来てしまう。
お互いがカゴに入れる品物も自然と視界に入ってしまい、理仁と琴葉は顔を見合わせながら唇を開く。
「鍋ですか」
「お鍋ですか」
二人が全く同じタイミングで同じ言葉を口にした事で、二人は向き合って笑ってしまう。
「鍋って楽だし、失敗が無いからついつい楽な食事に逃げちゃうんですよね」
「分かります! お鍋にすれば、洗い物も多くないし、一人分だったらささっと作れちゃいますしね」
「──……そうなんですよね」
理仁は、琴葉の言葉に僅かにぴくり、と眉を反応させるが直ぐに笑顔を浮かべて同意する。
(一人分、だと、か……)
理仁は琴葉の部屋から出てきた男性の姿を思い浮かべてちらり、と隣を歩く琴葉を見下ろす。
(今日の夕飯の事だけの事を言ってるのか……それとも普段から鍋は一人分を作ってる、と言う意味か……)
琴葉のカゴの中身を確認すると、その中には女性の一人暮らしに適量な分の食材しか入っておらず、理仁はその事に無意識に胸を撫で下ろしていた。
食材を買い込む事はしない性格なのだろう。
そうすると、必要な時に必要な分だけをスーパーに買いに来るタイプなのか。
理仁も同じタイプで、女性の琴葉よりも男性の理仁の方が多くを食べる為に琴葉よりはカゴに入れている食材は多いが、それでも成人男性の一食分程度だ。
食材を買い込んでも、仕事で遅くなれば外で済ませて来たり、軽く食べる程度で終わらせてしまう事もざらなため、理仁は食材を無駄にしないようにしている。
(て、事は……あの男性は今日は藤川さんの部屋に戻らない、って事なのか)
理仁がそのような事を考えている内に、商品を選び終えたのだろう。
琴葉が不思議そうな表情で理仁に話し掛ける。
「大隈さん? 私、会計に行きますが……大隈さんはまだお買い物して行きますか?」
「──っ、いえ! 俺も終わったので、会計行きます」
理仁ははっ、とすると急いで琴葉の後に続いた。
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