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 美人なお隣さんの女性には彼氏が居た。

 理仁は「あーあ」と小さく呟くと、ガシガシと自分の後頭部をかきながら部屋へと入って行き、冷蔵庫から缶ビールを取り出すとそれを持ったままリビングのソファへと腰を下ろし、テレビの電源を付ける。

 リモコンで動画配信サービスのチャンネルに合わせると、トントン、とボタンを押して目当ての映画を画面に映し再生する為に決定ボタンを押す。

 何度も見た冒頭のシーンがぱっ、と映し出され、理仁は缶ビールを傾けながらその映画に集中した。





 映画を見始めて、気付けばテレビの画面にはエンドロールが流れ始めてそこで理仁はハッと映画に見入ってしまっていた事に気付き、飲みかけだった缶ビールの中身を喉奥へと流し込む。

「──うえっ、ぬるっ」

 キン、と冷えたビールが常温になってしまっていてその味の悪さに理仁は軽く片目を瞑ると、ソファから立ち上がる。

 途端に、自分の腹から空腹を知らせる音が鳴り、咄嗟に腹を押さえる。

「見始めると、飯食うのも忘れるんだった……」

 冷蔵庫の中に、食材はあっただろうか、と理仁は台所に行くと流しに空になった缶ビールの缶を起き、ぱかりと冷蔵庫を開ける。

 卵が数個と、賞味期限が迫ったベーコンのパックが数個ある事を確認すると、理仁はそれらを冷蔵庫から取り出し、フライパンを用意する。

 フライパンに軽く油を垂らして火を付ける。
 弱火でフライパンを熱している間に卵を割り、器に入れて軽く菜箸で混ぜ合わせた。

「味噌汁飲みてぇな……」

 ぽつり、と呟くが味噌が無い。
 戸棚に確かインスタントの味噌汁があった筈だ、とゴソゴソと棚を漁り、インスタントの味噌汁を取り出すとお湯を沸かす。

 フライパンが温まった所で、ベーコンを投入して弱火で焼いて行く。
 その間に食パンを取り出し、トースターにセットしてボタンを押す。

 じゅうじゅうと弱火で焼かれているベーコンから食欲をそそるいい匂いがし出して来て、理仁はふんふんと鼻歌を口ずさみながらベーコンにしっかりと焼き目が付いた所で卵を流し入れた。

 卵を投入した事で、じゅう、と大きく音が鳴り、菜箸で軽く卵をベーコンに絡めるように掻き混ぜると、弱火でじりじりと焼いた後に少しだけ火を強めた。
 待っている間にトースターからパンが焼ける香ばしい匂いがし始めて、理仁は出来上がったトーストを取り出すと食器棚からプレートを取り出してそれにぽいっと乗せる。
 フライパンの火を止めて、ベーコンと卵が丁度いい塩梅で絡んでいるのを見ると満足そうに口元を緩めてフライパンからプレートへとそれを移す。

 沸かしていたお湯も沸騰し、理仁は味噌汁用のお椀にインスタントの味噌汁を開封するとお湯を注いだ。
 ふわり、と鼻腔を擽る味噌の良い香りに、再び理仁の腹からぐう、と音が鳴り理仁は上機嫌でプレートとお椀を持ってリビングへと戻った。




 少し遅い朝食を口に運びながら、理仁はこの後はどうしようか、と考える。
 映画も見てしまったし、気になる映画もこの間見尽くしてしまった。

「食材と……、あ、クリーニング取りに行かなきゃだった。それ行って、服でも見にぶらぶらするか」

 一人暮らしだと、独り言がついつい多くなってしまう。
 理仁が発した言葉は、誰に聞かれるでも無く一人しかいない部屋に響いて消えた。







「あれっ! 理仁先輩じゃないっすか!」
「……げっ」

 理仁が朝食を終え、クリーニング店へ預けていた物を取りに最寄りの駅へと向かうと、何故この駅にいるのか。
 会社の後輩である晃太に出会ってしまった。

 休日に仕事関係の人間と会いたくないんだよな、と考える理仁とは違い、晃太は真逆の考えを持っているのだろう。
晃太は理仁を見付けると嬉しそうに笑顔を浮かべて駆け寄って来た。

「えっ、理仁先輩の家ってこの近辺なんですか!? 知らなかったです!」
「──飯沼は何でここに……?」
「ここの駅、最近新しいゲーセン出来たじゃないですか? 俺ゲーセン好きで、新しい店が出来ると良くふらふらと見に行っちゃうんですよね」
「……そんなの出来たか?」

 クリーニング店に向かいながら歩いていると、自然と晃太も理仁の隣に並び共に歩きながら説明してくる。

 ゲーセンなんて、何年も行っていないし、興味が無かった理仁は「へえ」と適当に相槌を打ちながら足を動かす。

「それにしても、理仁先輩って普段はコンタクトなんですか? 眼鏡してるって珍しいですね!」
「あーうん。飯沼は視力いいのか?」
「俺、両目とも1.5です!」

 休日に、会社の人間と会って何がそんなに楽しいのか、晃太は嬉しそうに笑顔を見せながら理仁へと言葉を返す。

「理仁先輩、今日暇なんですか?」
「──見て分からないのか? クリーニングを取りに来てる。その後は食料の買い出しすんだよ」
「って事は暇なんですね! そしたらゲーセン行きましょうよ!」
「待て待て待て、暇じゃねえって、話を聞いてくれ」

 理仁が呆れたように晃太に視線を向けてそう告げるが、晃太は理仁の抗議など気にしていないようで何処吹く風だ。

「理仁先輩が居れば女の子に声掛けやすいし、ナンパしましょう、ナンパ!」
「──はあ? お前、この間の同期の女子はどうしたんだよ?」
「あー……あっさり振られました」

 振られた事をケロリ、と口にする晃太に理仁は呆れてしまう。

 自分も、二年前はこんな感じだったのだろうか、と考えるが、晃太が無鉄砲で騒がしいだけだろう、と瞬時に考え直す。
 自分が新入社員の頃は、もう少し落ち着いていた筈だ、と考えていると晃太がクリーニング店の看板を指さして笑顔で話し掛けて来る。



「クリーニング受け取ったら、ロッカーに預けてゲーセン行きましょう!」
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