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しおりを挟むフィファナのしっかりとした言葉に、トルソンとアレクは胸を撫で下ろし、今後の動き方を打ち合わせ始めた。
「ならば、今後リドティー伯爵は夫人とタナストン伯爵の離縁を進めていくように……。離縁する理由となる証拠はタナストン伯爵家が犯した罪の証拠としようか」
「かしこまりました、殿下。全てを暴く事は必要となりますでしょうか?」
「──いや、疑わしい、と言う証拠があればそれだけでも良い筈だ。そのような黒い噂を持つ家だと知らなかったのは真実だろう。その事を全面に出し教会に申請を。王家も此度の事件についてタナストン伯爵家が関わった証拠を調べる。その際に得た情報は共有しよう」
「何から何まで……感謝致します、殿下」
「礼には及ばない。無実の男爵家に罪を着せたのであれば、タナストン伯爵家にはしっかりと罪を償って貰わねばならんからな」
トルソンとアレクの話が一段落つき、二人は用意された紅茶に口を付ける。
二人の話を聞いていたフィファナは自分の顎に手を当て、考える。
自分があの邸から出てしまっては、伯爵家の事を調べる事がし辛くなってしまうのではないか。
自分があの邸に居たままの方が色々と都合が良かったのではないか、と考える。
(けれど……今更あの邸に戻る事を……お父様はきっと許して下さらないわね……。それに殿下にも危険だと止められそうだわ)
フィファナの考えを読んでいるのだろうか。
カップから口を離したトルソンが「そうそう」と言葉を紡ぎ、フィファナに視線を向ける。
「フィファナ。タナストン邸に戻る事は許さんぞ……。我々に罪を知られたタナストン伯爵は邸にフィファナが戻った瞬間、閉じ込めて離縁出来ないよう何か画策するかもしれんからな」
「──うっ。……分かりましたわ、お父様。一瞬だけ私が戻るのも手では、と思いましたが……あちらには戻りません」
トルソンの言葉にフィファナは溜息混じりに答えるが、そこで「あっ」と声を出してしまう。
フィファナは慌てたように自分の口元を抑えており、その様子にトルソンも、アレクも不思議そうな表情を浮かべている。
先程までの混乱ですっかり忘れてしまっていたが、フィファナは数日後にあの邸に戻らねばいけない理由があるのだった。
「申し訳ございません……、私……学友達をお茶会に招待しておりました……。タナストン伯爵家で、数日後にお茶会を開催する予定なのです……」
フィファナの言葉に、トルソンとアレクはぎょっとしてフィファナに視線を向けた。
◇◆◇
そうして迎えたフィファナが予定したお茶会の当日──。
フィファナはタナストン伯爵家に戻っていた。
「──フィファナ! 夜会ぶりね、今日はお招きありがとう!」
「エラ! こちらこそ、今日は来てくれてありがとう」
フィファナは友人のエラががばり! と抱き着いて来る事を笑顔で受け止めた。
エラの後ろには彼女の夫であるハリー・アサートンもいて、フィファナに手を振りながら近付いて来た。
ハリーは何処か緊張した面持ちでフィファナの目の前までやって来て、口を開いた。
「お招きありがとう、フィファナ嬢。エラも今日のこの日を楽しみにしていたんだ」
「ふふ、良かってです。楽しんで行って下さいね、アサートン侯爵」
「ははっ、学園の時みたいにハリーと呼んでくれて構わないよ」
「あら、嫌だわ。侯爵様を気軽にお名前で呼べません」
くすくすと笑うフィファナにハリーも笑みを返しながら、ちらり、と背後を気にしつつ自分の頬をかいた。
今日のお茶会に招かれた人達は皆、学園時代の友人達だ。
フィファナと交流があり、とりわけその中でも仲が良かった者達だけが招かれている。
招かれた者達は殆どが夫婦揃って参加しているのだが、その皆全員、緊張した様子で引き攣った笑みを浮かべている。
そして、その皆の視線の先には一人の男性が居て。
ハリーはその男性を一瞬だけ視界に入れた後、勢い良くフィファナに顔の向きを戻した。
「何故っ、この国の王族──……っ、王弟殿下がいらっしゃるんだ……!」
ハリーの切羽詰まったような声音に、フィファナは眉を下げて曖昧に笑って誤魔化した。
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