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 アレクの言葉に、フィファナは言葉を失ってしまう。
 それ程の罪を犯しながら、その罪を男爵家に押し付けたと言うのであればタナストン伯爵家の罪は重い。

 アレクが指差す場所を見て、アレクの言葉を聞いてフィファナは自分の口元を覆ってしまう。

「タナストン伯爵家が男爵家を陥れた事はほぼ事実だろう。だからこそ、ラティルド男爵家を貶めていた決定的な証拠が必要だ……。リドティー伯爵。先程、タナストン前伯爵と伯爵夫人に会った、と言っていたが詳細を聞いてもいいか?」
「はい、勿論です殿下。フィファナからの手紙でタナストン家にはもう一人女性が居ると聞き、その詳細を確認する為に夫妻を訪ねました」

 トルソンはヨードの両親と会うため、行動を起こしたのだが始めは夫妻が何処に居るのか分からなかったそうだ。
 人も、金も使い二人の居場所を突き止めた時には心底驚いたようで、何故罪人が送られるような極寒の地で暮らしているのか、実の両親がこんな生活をしている事をヨードは知っているのか、と色々心配になったらしい。

 だが、実際夫妻に会い、時間を掛けて話を聞き出した所、夫妻を追いやったのは他ならぬヨード本人で。
 ヨードはフィファナと婚姻が決まり、伯爵位を継いだ後一番始めに指示をしたのが両親をその場所へ送る事だったらしい。

 その話を聞き、アレクは何とも言えないような表情を浮かべて呟いた。

「──妹のように可愛がっていたリナリーの家を貶めた事を許せなかったのか……殺す事は出来なかったが、自らの手で両親に罰を与えた、と言う事だな……。だが、罰を与えたと言う事はヨード・タナストンは自分の両親がどんな罪を犯したか、全貌を知っている、と言う事か。それを国に報告せぬ事がどれだけの罪になるか……」
「だからこそ、タナストン伯爵は開き直りフィファナと離縁しない、と言い出したのでしょうな」
「私、ですか……」
「ああ、そうだ。離縁してしまえば、自分一人だけが最悪処刑されてしまう。だから何の罪も無い人間を最早人質、だな……人質にして、無関係の人間を巻き込み、処刑したいのならばしてみろ、とあの男はあの時我々にそう言ったのだ」

 フィファナの呟きに答えたトルソンの言葉に、フィファナはついつい表情を歪めてしまう。

「──それ、は……控え目に言っても、最低な行いですね……」

 あっさりとそう口を滑らすフィファナに、先程からアレクは何かを気にしているようで。
 何かを聞きたそうにしているアレクに気付いたフィファナは、顔を向けて「何かございますか?」とアレクに問い掛けた。

「……いや、その……。タナストン夫人は……夫であるヨード・タナストン伯爵を……少なからず想っているのでは……、と……。夜会で夫人とお会いした時に伯爵を探し回っていただろう?」
「──あっ」

 アレクの気遣うような視線を受けてそこでフィファナははっとする。
 そう言えば、あの邸に居る時からアレクからは気遣う視線を度々向けられていた。
 夜会では夫を心配し、探す妻と言う様子をアレクに見せていたのだからそう思われても仕方ない。

 それに、もしかしたら先日使用人を邸に向かわせてくれた時にヨードと自分の姿を見た使用人が何か勘違いして報告をしてくれたのかもしれない。

 アレクはそれだけでは無く、夜会の日にヨードとリナリーが夜会の庭園でこっそりと会っていた姿を見てしまっているのだ。
 詳しくは語らなかったが、もしかしたらフィファナが悲しむ、と心配してくれているのかもしれない。

 その事に一瞬で思い至ったフィファナはアレクに向かって至極あっさりと、平時の様子で口を開いた。

「ご心配には及びません、殿下。お気遣い頂きありがとうございます。元より、夫とは婚約期間も殆ど交流も無く、婚姻後も殆ど接していないため、そのような感情は一切抱いておりませんわ」

 けろり、と至極あっさりと答えたフィファナに、今度はアレクがキョトンとしてしまう。

「い、一切……?」
「ええ、はい。一切ございません。私達の婚約と結婚は政略的な物ですので。ただ義務的に婚姻関係に至っただけです」
「そ、そうか……」

 フィファナの言葉を聞き、アレクはこんな話の最中だと言うのにも関わらず、緩んでしまいそうな頬を必死で隠し、咳払いをして誤魔化す。

「んっ、んん……っ。それならば、良かった……。タナストン伯爵を想っていたら、貴女が傷付くと思っていたからな……」
「ありがとうございます、殿下。現状、私もお父様──失礼致しました、リドティー伯爵と同じ気持ちで、一刻も早く夫と離縁したいと考えておりますので」
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