その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

文字の大きさ
上 下
179 / 179

魔王、襲撃する8

しおりを挟む
(上手くいったみたいだね)

 目を見開く国王を確認したクゥことクリスは気づかれないようにそっと息を吐く。
 クリスが今回城を襲撃した理由の1つに、勇者が人間であるとことがある。
 クリスが命を狙われる理由に、クリスが魔族であることが挙げられる。
 だが、そのことを知っている人間はおそらく少数だろう。
 ならば大勢の人間に勇者が人間であると誤解させれば、今後狙われる可能性が低くなるのではないかと思った。
 だからこそ魔法をほとんど使わず兵士たちを相手にし、帽子への攻撃をあえて見逃して、魔族の特徴である角がないことを示したのだ。
 ちなみに、角は変身魔法で一時的になくしている。
 ジョセフのように自由に姿を変えられるわけではないが、クリスも変身魔法は使える。
 とはいっても短い時間、髪の色や目の色などを変えるくらいなので、ほとんど使ったことはない。そのため、日中に密かに練習していた。
 それが幸をそうして、なんとか本番で角を消すことができたのだ。

『クリス様、無事に移動は完了いたしました。もう、戻られても大丈夫です』
『わかった』

 ジョセフからの魔法を通じた連絡に短く答える。クリスは目の前の兵士の剣を飛ばし、みぞうちに蹴りを入れた。
 そして軽く後ろに跳んで、夜空の前に立つ。

「さて、これから僕は魔王の元に行く! できれば邪魔しないで欲しいな!
 それでは、さよなら!」

 片手を振り上げて優雅にお辞儀をし、勇者は自分が開けた穴から去って行ったのだった。




 勇者が居なくなった大広間は途端にしんっと静けさに満ちた。

「な、なんだったんだ、あの者は……?」

 カズトは呆然として呟く。夜会に招待した者たちも戸惑っている。
 夢か幻かとも思ったが、穴から吹き抜ける夜風と倒れた兵士たちのうめき声が現実だと知らせてくる。
 ふと、外からいくつもの物音や声がすることに気がつく。
 なんだろう、と不審に思っていると、廊下の方からバタバタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。

「た、大変です!!」

 扉を無遠慮に開けたのは、門番の1人である。
 礼儀のなっていない門番をカズトが咎める前に、門番の口から衝撃的な内容が飛び出した。

「勇者を一目見ようと、民衆が城門に押し寄せてきてます!!」
「なっ……どういうことだ!?」

 カズトは目を限外まで見開く。

「なんでも勇者と城の兵士が戦っているところが、いろんな壁に映し出されていたとか……」

 話している門番もよくわかっていないらしく、しきりに首を傾げている。

 実は、クリスが戦っている様子は、クリスがマイクに持たせていた魔道具――遠視装置によって撮影されていた。
 それを転映装置という、壁に撮影したものを映し出す魔道具によって、何ヶ所もの壁に映し出していたのである。
 ちなみに、それらの道具はクリスがポケットに入れっぱなしにしていたもので、なんで入れていたのか本人も忘れていた。とりあえず、ここ100年くらいは心当たりがないそうだ。

 ――閑話休題。

「な、ななんだと!?」

 カズトは顔が真っ青になった。
 先ほどの戦いが映し出されていたということは、勇者が魔族でなく人間かもしれないことも、カズトが勇者を殺そうとしたことも広まっている可用性が高い。
 魔族ならともかく、人間の勇者を殺そうとしたことは、最悪、国際問題にもなる。
 ここの広間に集まった者だけに知られたなら、口止めするなりしてなんとかなったかもしれないが、不特定多数の者となるとさすがに手に負えない。
 どうすればいいか冷や汗をかきながら、頭を悩ませていると、再び廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。

「た、大変です!!」

 今度は側近が慌てて入ってきた。
 今度はなんだと、カズトに緊張が走る。

「各所で獣人が居なくなっていると報告がきました!!」
「なっ…………!?」

 予想もしてなかった事態に、カズトは絶句した。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

まゆぞう
2023.01.10 まゆぞう

年明けからの更新祭り!ありがとうございます!

やはりクリスの強さハンパねぇ~
マイクはますますいい人認定\(^o^)/
これからのストーリー展開、楽しみにしてます

解除
まゆぞう
2022.10.29 まゆぞう
ネタバレ含む
そこら辺の人🏳️
2022.11.02 そこら辺の人🏳️

 2度も感想をありがとうございます!(ノ˶>ᗜ​<˵)ノ
 私が書くの遅いため亀更新となりますが、今後ともよろしくお願いします!(*・ω・)*_ _)ペコリ

解除
まゆぞう
2022.08.17 まゆぞう

魔王さまの独特の判断基準に目からウロコというか、へぇーそんな考え方もあるのかーと。
いつヨハンに魔王という事がバレるか、ヒヤヒヤドキドキしながら読んでます。

解除

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。