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魔王、襲撃する8
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(上手くいったみたいだね)
目を見開く国王を確認したクゥことクリスは気づかれないようにそっと息を吐く。
クリスが今回城を襲撃した理由の1つに、勇者が人間であると誤解させることがある。
クリスが命を狙われる理由に、クリスが魔族であることが挙げられる。
だが、そのことを知っている人間はおそらく少数だろう。
ならば大勢の人間に勇者が人間であると誤解させれば、今後狙われる可能性が低くなるのではないかと思った。
だからこそ魔法をほとんど使わず兵士たちを相手にし、帽子への攻撃をあえて見逃して、魔族の特徴である角がないことを示したのだ。
ちなみに、角は変身魔法で一時的になくしている。
ジョセフのように自由に姿を変えられるわけではないが、クリスも変身魔法は使える。
とはいっても短い時間、髪の色や目の色などを変えるくらいなので、ほとんど使ったことはない。そのため、日中に密かに練習していた。
それが幸をそうして、なんとか本番で角を消すことができたのだ。
『クリス様、無事に移動は完了いたしました。もう、戻られても大丈夫です』
『わかった』
ジョセフからの魔法を通じた連絡に短く答える。クリスは目の前の兵士の剣を飛ばし、みぞうちに蹴りを入れた。
そして軽く後ろに跳んで、夜空の前に立つ。
「さて、これから僕は魔王の元に行く! できれば邪魔しないで欲しいな!
それでは、さよなら!」
片手を振り上げて優雅にお辞儀をし、勇者は自分が開けた穴から去って行ったのだった。
勇者が居なくなった大広間は途端にしんっと静けさに満ちた。
「な、なんだったんだ、あの者は……?」
カズトは呆然として呟く。夜会に招待した者たちも戸惑っている。
夢か幻かとも思ったが、穴から吹き抜ける夜風と倒れた兵士たちのうめき声が現実だと知らせてくる。
ふと、外からいくつもの物音や声がすることに気がつく。
なんだろう、と不審に思っていると、廊下の方からバタバタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「た、大変です!!」
扉を無遠慮に開けたのは、門番の1人である。
礼儀のなっていない門番をカズトが咎める前に、門番の口から衝撃的な内容が飛び出した。
「勇者を一目見ようと、民衆が城門に押し寄せてきてます!!」
「なっ……どういうことだ!?」
カズトは目を限外まで見開く。
「なんでも勇者と城の兵士が戦っているところが、いろんな壁に映し出されていたとか……」
話している門番もよくわかっていないらしく、しきりに首を傾げている。
実は、クリスが戦っている様子は、クリスがマイクに持たせていた魔道具――遠視装置によって撮影されていた。
それを転映装置という、壁に撮影したものを映し出す魔道具によって、何ヶ所もの壁に映し出していたのである。
ちなみに、それらの道具はクリスがポケットに入れっぱなしにしていたもので、なんで入れていたのか本人も忘れていた。とりあえず、ここ100年くらいは心当たりがないそうだ。
――閑話休題。
「な、ななんだと!?」
カズトは顔が真っ青になった。
先ほどの戦いが映し出されていたということは、勇者が魔族でなく人間かもしれないことも、カズトが勇者を殺そうとしたことも広まっている可用性が高い。
魔族ならともかく、人間の勇者を殺そうとしたことは、最悪、国際問題にもなる。
ここの広間に集まった者だけに知られたなら、口止めするなりしてなんとかなったかもしれないが、不特定多数の者となるとさすがに手に負えない。
どうすればいいか冷や汗をかきながら、頭を悩ませていると、再び廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。
「た、大変です!!」
今度は側近が慌てて入ってきた。
今度はなんだと、カズトに緊張が走る。
「各所で獣人が居なくなっていると報告がきました!!」
「なっ…………!?」
予想もしてなかった事態に、カズトは絶句した。
目を見開く国王を確認したクゥことクリスは気づかれないようにそっと息を吐く。
クリスが今回城を襲撃した理由の1つに、勇者が人間であると誤解させることがある。
クリスが命を狙われる理由に、クリスが魔族であることが挙げられる。
だが、そのことを知っている人間はおそらく少数だろう。
ならば大勢の人間に勇者が人間であると誤解させれば、今後狙われる可能性が低くなるのではないかと思った。
だからこそ魔法をほとんど使わず兵士たちを相手にし、帽子への攻撃をあえて見逃して、魔族の特徴である角がないことを示したのだ。
ちなみに、角は変身魔法で一時的になくしている。
ジョセフのように自由に姿を変えられるわけではないが、クリスも変身魔法は使える。
とはいっても短い時間、髪の色や目の色などを変えるくらいなので、ほとんど使ったことはない。そのため、日中に密かに練習していた。
それが幸をそうして、なんとか本番で角を消すことができたのだ。
『クリス様、無事に移動は完了いたしました。もう、戻られても大丈夫です』
『わかった』
ジョセフからの魔法を通じた連絡に短く答える。クリスは目の前の兵士の剣を飛ばし、みぞうちに蹴りを入れた。
そして軽く後ろに跳んで、夜空の前に立つ。
「さて、これから僕は魔王の元に行く! できれば邪魔しないで欲しいな!
それでは、さよなら!」
片手を振り上げて優雅にお辞儀をし、勇者は自分が開けた穴から去って行ったのだった。
勇者が居なくなった大広間は途端にしんっと静けさに満ちた。
「な、なんだったんだ、あの者は……?」
カズトは呆然として呟く。夜会に招待した者たちも戸惑っている。
夢か幻かとも思ったが、穴から吹き抜ける夜風と倒れた兵士たちのうめき声が現実だと知らせてくる。
ふと、外からいくつもの物音や声がすることに気がつく。
なんだろう、と不審に思っていると、廊下の方からバタバタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
「た、大変です!!」
扉を無遠慮に開けたのは、門番の1人である。
礼儀のなっていない門番をカズトが咎める前に、門番の口から衝撃的な内容が飛び出した。
「勇者を一目見ようと、民衆が城門に押し寄せてきてます!!」
「なっ……どういうことだ!?」
カズトは目を限外まで見開く。
「なんでも勇者と城の兵士が戦っているところが、いろんな壁に映し出されていたとか……」
話している門番もよくわかっていないらしく、しきりに首を傾げている。
実は、クリスが戦っている様子は、クリスがマイクに持たせていた魔道具――遠視装置によって撮影されていた。
それを転映装置という、壁に撮影したものを映し出す魔道具によって、何ヶ所もの壁に映し出していたのである。
ちなみに、それらの道具はクリスがポケットに入れっぱなしにしていたもので、なんで入れていたのか本人も忘れていた。とりあえず、ここ100年くらいは心当たりがないそうだ。
――閑話休題。
「な、ななんだと!?」
カズトは顔が真っ青になった。
先ほどの戦いが映し出されていたということは、勇者が魔族でなく人間かもしれないことも、カズトが勇者を殺そうとしたことも広まっている可用性が高い。
魔族ならともかく、人間の勇者を殺そうとしたことは、最悪、国際問題にもなる。
ここの広間に集まった者だけに知られたなら、口止めするなりしてなんとかなったかもしれないが、不特定多数の者となるとさすがに手に負えない。
どうすればいいか冷や汗をかきながら、頭を悩ませていると、再び廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。
「た、大変です!!」
今度は側近が慌てて入ってきた。
今度はなんだと、カズトに緊張が走る。
「各所で獣人が居なくなっていると報告がきました!!」
「なっ…………!?」
予想もしてなかった事態に、カズトは絶句した。
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やはりクリスの強さハンパねぇ~
マイクはますますいい人認定\(^o^)/
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2度も感想をありがとうございます!(ノ˶>ᗜ<˵)ノ
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