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魔王、襲撃する5
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――その次の日の夜。
ショタレーン王国では国王の誕生日を祝う舞踏会が行われていた。
豪奢な大広間には貴族や裕福な商家の者たちが着飾り、音楽に合わせて踊ったり休んで談笑している。
ショタレーン国王――カズトはそれを玉座から眺めながら、時おり祝辞を言いに来る者たちをあしらっていた。
その中の1人の男が、笑顔を貼り付けて近寄ってきた。
「陛下、誕生日おめでとうございます」
「うむ」
特に親しい者でなかったため、何も言わず鷹揚に頷くと、男が小声で話しかけてきた。
「それで、例の勇者に刺客を送ったそうですが……」
カズトは横目で男を睨むが、仮面のような笑みは崩れそうにない。
「……たかが刺客ごときにやられるようでは、魔王を倒すなど夢のまた夢であろう? 余は単に勇者としてふさわしいか試したまでのことだ」
「なるほど、賢明でございますな」
男は追従するように大きく頷く。
「後でそれについてたっぷり話してやるから、ここでは黙っていろ」
カズトがひと睨みすると、男は満面の笑みで去っていった。
カズトは小さくため息をつく。どこであのことが漏れてしまったのだろうか? そしてあの男を黙らせるにはどれほどの金や地位が必要だろうか?
まぁ、もしも問題になったらあの獣人のせいにすれば良いし、あの男も適当な罪でも付けて死罪にでもすればいいだろう。
そう結論を出した時、ドンッと大きな音が広間に響いた。
「な、なんだ……!?」
驚いて周りを見渡すが、音の元凶はわからなかった。
再びドンッと音がした時、談笑していた者の1人が壁を指す。
「あ、あれ!!」
カズトを含めその場にいた者たちが指された場所を見やると、驚きで目を丸くした。
壁には大きなヒビが入っていたのだ。
「な、何なんだ……!?」
騒めく群衆を他所に、再びドンッという音とともに、壁が外から崩された。
「きゃー!!」
「いやー!!」
招待客たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。
そんな中、粉塵の中に夜空に背を向けて立っている者がいた。
その者は若草色のカーディガンに赤い帽子を被った黒髪の若い男だった。
男は帽子のツバに手を添えて持ち上げると完璧な笑みを浮かべた。
「どーも、勇者です!」
(ほ、本当に壊しちゃったよ……!?)
見つからないように物陰に隠れながら、ハナンは愕然とする。
――少し時は遡る。
ハナンたちは城の敷地内に侵入することに成功していた。
「で、どうやって中に入るつもり?正面から入るの? それとも他に入口を探すとか?」
少しだけ考えてクゥは考えを述べる。
「こういう時はインパクトが強い方がいいと思う。だから壁を壊して入ろう」
「……は?」
何かの冗談かと思い、ハナンはスルーしかけた。
だが、そんなハナンを尻目にクゥは壁を探った後、拳を握って構える。
「え、ちょっと、ちょっと!?」
「危ないから避難して」
「ほら、こっち来い!」
唖然とするハナンを慌てたマイクが引っ張って、クゥから距離をとらせる。
それを確認してから、クゥが肘を曲げた腕を後方に引いた。
そして前方の壁に向かって腕を素早く伸ばす。
ドンッと轟音とともに壁に大きなヒビが入る。
「ひぃいいい!?」
悲鳴を上げて震えるハナンとは対象的に、クゥは首を傾げる。
「うーん、やっぱり一撃じゃあ開かないか……」
再び腕を振りかぶり、轟音が周囲に響く。
震えるハナンの耳をマイクがとっさに抑える。
「大丈夫だ、音が大きいだけだ。それに、いざ危険になったら、なんとしてでも俺がお前を逃がすから」
「わ、わかっているわよ! 怖くはないし、逃がしてもらわなくても自分で逃げるわよ!」
安心させようとするマイクに、ハナンは涙目になって震えながらも強がる。
「そうか……なら良かった」
マイクは微笑んで頷くが、決してハナンの耳から手を話そうとしなかった。
「……もう1回かな」
クゥが数瞬ヒビを観察してから呟く。
そして3度目の轟音と共に穴が開き、瓦礫が飛び散る。
マイクが素早く障壁を築いて、ハナンを瓦礫から守った。
穴からはきらびやかに着飾った人間たちが驚いた顔で固まっている。
そんな中をクゥは躊躇いもせずに進み出た。
ショタレーン王国では国王の誕生日を祝う舞踏会が行われていた。
豪奢な大広間には貴族や裕福な商家の者たちが着飾り、音楽に合わせて踊ったり休んで談笑している。
ショタレーン国王――カズトはそれを玉座から眺めながら、時おり祝辞を言いに来る者たちをあしらっていた。
その中の1人の男が、笑顔を貼り付けて近寄ってきた。
「陛下、誕生日おめでとうございます」
「うむ」
特に親しい者でなかったため、何も言わず鷹揚に頷くと、男が小声で話しかけてきた。
「それで、例の勇者に刺客を送ったそうですが……」
カズトは横目で男を睨むが、仮面のような笑みは崩れそうにない。
「……たかが刺客ごときにやられるようでは、魔王を倒すなど夢のまた夢であろう? 余は単に勇者としてふさわしいか試したまでのことだ」
「なるほど、賢明でございますな」
男は追従するように大きく頷く。
「後でそれについてたっぷり話してやるから、ここでは黙っていろ」
カズトがひと睨みすると、男は満面の笑みで去っていった。
カズトは小さくため息をつく。どこであのことが漏れてしまったのだろうか? そしてあの男を黙らせるにはどれほどの金や地位が必要だろうか?
まぁ、もしも問題になったらあの獣人のせいにすれば良いし、あの男も適当な罪でも付けて死罪にでもすればいいだろう。
そう結論を出した時、ドンッと大きな音が広間に響いた。
「な、なんだ……!?」
驚いて周りを見渡すが、音の元凶はわからなかった。
再びドンッと音がした時、談笑していた者の1人が壁を指す。
「あ、あれ!!」
カズトを含めその場にいた者たちが指された場所を見やると、驚きで目を丸くした。
壁には大きなヒビが入っていたのだ。
「な、何なんだ……!?」
騒めく群衆を他所に、再びドンッという音とともに、壁が外から崩された。
「きゃー!!」
「いやー!!」
招待客たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。
そんな中、粉塵の中に夜空に背を向けて立っている者がいた。
その者は若草色のカーディガンに赤い帽子を被った黒髪の若い男だった。
男は帽子のツバに手を添えて持ち上げると完璧な笑みを浮かべた。
「どーも、勇者です!」
(ほ、本当に壊しちゃったよ……!?)
見つからないように物陰に隠れながら、ハナンは愕然とする。
――少し時は遡る。
ハナンたちは城の敷地内に侵入することに成功していた。
「で、どうやって中に入るつもり?正面から入るの? それとも他に入口を探すとか?」
少しだけ考えてクゥは考えを述べる。
「こういう時はインパクトが強い方がいいと思う。だから壁を壊して入ろう」
「……は?」
何かの冗談かと思い、ハナンはスルーしかけた。
だが、そんなハナンを尻目にクゥは壁を探った後、拳を握って構える。
「え、ちょっと、ちょっと!?」
「危ないから避難して」
「ほら、こっち来い!」
唖然とするハナンを慌てたマイクが引っ張って、クゥから距離をとらせる。
それを確認してから、クゥが肘を曲げた腕を後方に引いた。
そして前方の壁に向かって腕を素早く伸ばす。
ドンッと轟音とともに壁に大きなヒビが入る。
「ひぃいいい!?」
悲鳴を上げて震えるハナンとは対象的に、クゥは首を傾げる。
「うーん、やっぱり一撃じゃあ開かないか……」
再び腕を振りかぶり、轟音が周囲に響く。
震えるハナンの耳をマイクがとっさに抑える。
「大丈夫だ、音が大きいだけだ。それに、いざ危険になったら、なんとしてでも俺がお前を逃がすから」
「わ、わかっているわよ! 怖くはないし、逃がしてもらわなくても自分で逃げるわよ!」
安心させようとするマイクに、ハナンは涙目になって震えながらも強がる。
「そうか……なら良かった」
マイクは微笑んで頷くが、決してハナンの耳から手を話そうとしなかった。
「……もう1回かな」
クゥが数瞬ヒビを観察してから呟く。
そして3度目の轟音と共に穴が開き、瓦礫が飛び散る。
マイクが素早く障壁を築いて、ハナンを瓦礫から守った。
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