その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、襲撃する3

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「魔族の寿命は500くらいでしょ? なら、老人に決まっているじゃない」

 平然と言うハナンに魔族の2人は微妙な顔をする。 

「えーっと、僕らの世界だと、魔族は1000年くらい生きるんだよ」
「成長もここの魔族よりゆっくりだしな」

 ハナンは大きく目を見開いてから頷く。

「そういえば、勇者は異世界の魔族だったわね。けど、400超えているなら、十分年寄りじゃないの」

 未だに年寄りを撤回しないハナンに魔族の男は渋い顔をした。

「あのなぁ、俺らの世界では500までは若いって言われるんだぞ」
「あたしから見たら、おじいちゃん以上に年寄りなのよ」

 1歩も譲る気のない2人にクゥは「まぁまぁ」と宥めてからハナンの方に仮面のような笑顔を向ける。

「それで、僕が異世界の魔族って知っているということは、君は僕を狙ってきたということでいいのかな?」

 ハナンは自分の迂闊な発言に舌打ちした。

「……たまたま知っていただけよ」
「僕のことを知っているのは人間の地位の高い者ぐらいだけど、その者たちが僕についてあえて広めるとは思えないよ。君はどこで聞いたんだい?」

 クゥの表情は微笑んでいるが、目が笑っていない。誤魔化すことは難しそうだ。
 それならば一思いに襲いかかろうかと思うが、先ほどあっさりナイフを取られたことから考えると成功率は低い。警戒している今はさらに難しいだろう。
 ハナンは大きくため息をつく。こうなったら居直るしかない。

「そうよ、あんたを殺しに来たの。それの何が悪いの?」
「……獣人もやっぱり、魔族と敵対しているのかい?」

 なぜか痛そうな顔をしながら、クゥは聞く。
 ハナンの目が点になった。

「別にそういうわけじゃないわよ」
「……じゃあ、勇者に恨みがあるとか?」

 ハナンは頭を掻きむしる。

「うーん……なんというか、正直、あたしや他の獣人たちにとって、勇者とか魔王とかどうでもいいのよ」
「どうでもいい?」

 目を見開くクゥにハナンは頷く。

「癪だけど、魔族は獣人のことは眼中にないから襲ったりしないのよ。だから、獣人は魔族に対して恨みとかないわけ。
 むしろ人間に対して思うところがあるから、人間の味方代表みたいな勇者にはいい感情がないのよ。
 まぁ、世界が滅びるのは嫌だから魔王の味方はしないけど、勇者の味方ってわけでもないわね」
「……だから『どうでもいい』なんだね」

 クゥがゆっくり頷いて納得する。そして首を傾げた。

「じゃあ、何で僕を狙ったんだい?」

 もっともな疑問にハナンは再び大きなため息をつく。

「人間の偉い奴に頼まれたのよ。勇者は人間がなるべきだって。バカバカしい」

 ハナンが吐き捨てると、クゥは顔を顰めた。

「バカバカしいのに君は僕を殺しに来たのかい?」
「仕事だからよ。それに、私が断ったり失敗すると、他の獣人に何をされるかわからないしね」

 クゥの顔はさらに険しくなった。

「脅されているってことかい?」
「違うけど、何かされる可能性がことは確かよ。以前も反抗した奴とその家族や友人が見せしめに殺されたことがあったし」

 しかも八つ裂きやさらし首、磔などの残虐な方法で。あの光景を思い出すと、今でもハナンは震えてしまう。
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