その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王の友人7

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 ――次の日の昼前のこと。

「メイ、ちょっとついて来てくれないかい?」
「はい、わかりました」

 クリスはメイとともに皆と少し離れたところに移動した。
 周囲を障壁で囲んだクリスを見て、メイは首を傾げる。

「皆に内緒の話なのですか?」
「うん。メイに伝えたいことがあるんだ。他の皆に聞かれると、ちょっと騒ぎになりそうなことだからね」

 クリスは苦笑してから真面目な顔でメイに向き合う。

「メイ……」

(え、えっと、なんて言えばいいだろう?)

 メイを見つめながら、クリスの頭の中は混乱していた。昨夜セリフを考えたはずなのに、全部頭から飛んでしまっていた。
 しばらく沈黙が続くが、メイは辛抱強く待ってくれている。

「……今日の夕食、何がいい?」

 沈黙の末に口から出てきた言葉は、盛大に話題を間違えたものだった。

(なんでだー!?)

 クリスは内心頭を抱える。
 言いたいことと全く違うし、そもそも選択肢が肉か果物しかない。パンもあったが、既に食べ尽くしてしまった。
 クリスの問いを聞いたメイはしばらくポカンとしていたが、なぜかハッとしてから顔が青ざめる。

「クリス様、まさか、料理をしようと思っているのですか?」

 メイの恐れ慄く様子に、クリスは慌てて首を横にブンブンと振る。

「いやいやいや、違うから!」
「ほ、本当ですよね? 本当にしないのですよね?」
「う、うん、しないよ」

 なぜかものすごく念を押されて「そんなにまずかったかなぁ?」と疑問に思いつつ、クリスは首を縦に何度も振る。
 ようやく信じてくれたのか、メイはあからさまにほっとすると、クリスをまっすぐ見る。

「それで、本当の用件はなんですか?」

 さすがに、これが本当の用件ではないと見当がついたらしい。
 メイの真摯な目を見て、クリスは本題を思い出す。
 信じてもらえるだろうか? 信じてもらえたとしても、今までの関係が終わってしまうかもしれない。それがクリスにとっては恐ろしい。
 だが、これからも彼女と一緒にいるためには、伝えない訳にはいかない。
 顔を少し伏せて呼吸を整える。
 再びどう伝えようか悩んだが、首を振って雑念を取り払う。
 余計な言葉はいらない。ただ、事実を伝えよう。
 それでどうなるかは、その時考えよう。
 覚悟を決めて、クリスはメイの目をまっすぐ見返した。
 そして口を開く。

「実は、僕は魔王なんだ」
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