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幕間 魔王の友人3
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――また、クリスについてすぐの日のお昼前のこと。
「……なんでお前、勇者の鍛錬に付き合っているんだ?」
何度も注意喚起の絵で見た聖剣を携えている少年がなぜかクリスたちの元に来た。そして彼の相手をするクリスを見て、マイクは唖然とする。
「うーん、メイの鍛錬のついでに頼まれて、まっいっか、と思ってね」
「まっいっか、じゃない阿呆! 」
のんきなクリスをマイクは怒鳴りつける。
そしてなるべく周りに聞こえないように密着して小声で怒鳴る。
「国の脅威、しかも自分の命を狙っている奴の鍛錬に付き合う馬鹿がどこにいるんだ!」
「大丈夫だよ。簡単にはやられないから」
「そういう問題じゃない!」
そもそも自分を倒そうとする勇者を鍛える利点などどこにもないのだ。それどころか害悪しかない。
頭を抱えて悩んでいると、ふと隣に誰かが近寄る気配がする。
顔を上げて見てみると、件の勇者がそこに立っていた。
「うわっ!? な、ななななんだよ!?」
マイクは驚いて飛び上がって後ずさる。
「え、なんでそんなにびっくりしているんだ?」
勇者ヨハンはマイクの驚きように首を傾げる。
「まぁいいや。なぁ、お前、俺たちの世界の魔族だろ? なら、一緒に鍛錬しないか?」
笑顔で無邪気に頼むヨハンにマイクはギョッとする。
「む、むむむむ無理無理無理無理!!」
大袈裟に後退しながら首を横に振るマイクに、ヨハンは目を瞬かせる。
「そんなビビらなくても普通の鍛錬だぞ?」
「無理だってば! こっちは剣なんて握ったこともないんだぞ!」
「へ?」
ポカンとするヨハンの肩を、クリスが指で軽くつつく。
「ヨハン、マイクはごくごく普通の一般市民で、わざわざ剣とか武術とかの鍛錬をする必要のない魔族なんだよ」
「え、お前たちって普通に剣の鍛錬とかしているわけじゃないのか?」
クリス以外だと、ジョセフしか自分の世界の魔族について知らないヨハンは驚く。
「基本的にうちの国は、勇者の襲来以外は平和だから、兵士でもない者は武術の鍛錬なんてしないよ」
それにもしも何かあったとしても、魔族は魔法があるため、わざわざ武術の鍛錬なんて必要ないのだ。
「うん? じゃあ、お前はなんで鍛錬しているんだ? 兵士じゃないんだろ?」
ヨハンに当然のことを聞かれて、クリスは一瞬言葉に詰まる。
「……家の方針で鍛錬が義務付けられているんだよ」
クリスは何とか嘘ではない答えを出した。
「へぇ、大変だな」
単純なヨハンはあっさりと納得した。
「……なぁ、1つ聞いていいか?」
マイクがヨハンから距離を取りながら恐る恐る聞く。
「なんだ?」
「お前、俺たちの国の王を倒すつもりなのか?」
ヨハンは一瞬目を見開き、言葉に詰まる。
そしてうーん、と腕を組んで首を傾げながら唸る。
「……最初はそのつもりだったけど、色々話を聞いて倒すのはどうなんだろうなと思っている。けど……」
反対側に首を傾けて苦虫を噛み潰したような顔をする。
「全く相手にされなかったことは悔しいから、勝ちたいという気持ちは確かにあるんだ」
今度は目を上に向けて唸る。
「でも、倒すのは正しくない気がするし、俺には誰かを殺す覚悟も、自分が死ぬ覚悟もない」
1度目を閉じてからマイクをまっすぐ見る。
「だから勝負はしようと思うけど、倒すことはしない。できれば勝ちたいけどな」
ヨハンの出した答えに、マイクは目を大きく見開いた。
「倒さない? 勇者なのに?」
「うん! それが1番いいと思うんだ!」
力強く頷いたヨハンを、マイクはポカンと見る。
「お前、変わった勇者だな」
マイクの素直な感想に、ヨハンは口を尖らせる。
「俺よりクリスの方が色々おかしいだろ」
「それもそうだな」
「ちょっと、どういう意味だい!?」
思わず笑い合う2人に、おかしいと認定されたクリスは軽く叫んだ。
「……なんでお前、勇者の鍛錬に付き合っているんだ?」
何度も注意喚起の絵で見た聖剣を携えている少年がなぜかクリスたちの元に来た。そして彼の相手をするクリスを見て、マイクは唖然とする。
「うーん、メイの鍛錬のついでに頼まれて、まっいっか、と思ってね」
「まっいっか、じゃない阿呆! 」
のんきなクリスをマイクは怒鳴りつける。
そしてなるべく周りに聞こえないように密着して小声で怒鳴る。
「国の脅威、しかも自分の命を狙っている奴の鍛錬に付き合う馬鹿がどこにいるんだ!」
「大丈夫だよ。簡単にはやられないから」
「そういう問題じゃない!」
そもそも自分を倒そうとする勇者を鍛える利点などどこにもないのだ。それどころか害悪しかない。
頭を抱えて悩んでいると、ふと隣に誰かが近寄る気配がする。
顔を上げて見てみると、件の勇者がそこに立っていた。
「うわっ!? な、ななななんだよ!?」
マイクは驚いて飛び上がって後ずさる。
「え、なんでそんなにびっくりしているんだ?」
勇者ヨハンはマイクの驚きように首を傾げる。
「まぁいいや。なぁ、お前、俺たちの世界の魔族だろ? なら、一緒に鍛錬しないか?」
笑顔で無邪気に頼むヨハンにマイクはギョッとする。
「む、むむむむ無理無理無理無理!!」
大袈裟に後退しながら首を横に振るマイクに、ヨハンは目を瞬かせる。
「そんなビビらなくても普通の鍛錬だぞ?」
「無理だってば! こっちは剣なんて握ったこともないんだぞ!」
「へ?」
ポカンとするヨハンの肩を、クリスが指で軽くつつく。
「ヨハン、マイクはごくごく普通の一般市民で、わざわざ剣とか武術とかの鍛錬をする必要のない魔族なんだよ」
「え、お前たちって普通に剣の鍛錬とかしているわけじゃないのか?」
クリス以外だと、ジョセフしか自分の世界の魔族について知らないヨハンは驚く。
「基本的にうちの国は、勇者の襲来以外は平和だから、兵士でもない者は武術の鍛錬なんてしないよ」
それにもしも何かあったとしても、魔族は魔法があるため、わざわざ武術の鍛錬なんて必要ないのだ。
「うん? じゃあ、お前はなんで鍛錬しているんだ? 兵士じゃないんだろ?」
ヨハンに当然のことを聞かれて、クリスは一瞬言葉に詰まる。
「……家の方針で鍛錬が義務付けられているんだよ」
クリスは何とか嘘ではない答えを出した。
「へぇ、大変だな」
単純なヨハンはあっさりと納得した。
「……なぁ、1つ聞いていいか?」
マイクがヨハンから距離を取りながら恐る恐る聞く。
「なんだ?」
「お前、俺たちの国の王を倒すつもりなのか?」
ヨハンは一瞬目を見開き、言葉に詰まる。
そしてうーん、と腕を組んで首を傾げながら唸る。
「……最初はそのつもりだったけど、色々話を聞いて倒すのはどうなんだろうなと思っている。けど……」
反対側に首を傾けて苦虫を噛み潰したような顔をする。
「全く相手にされなかったことは悔しいから、勝ちたいという気持ちは確かにあるんだ」
今度は目を上に向けて唸る。
「でも、倒すのは正しくない気がするし、俺には誰かを殺す覚悟も、自分が死ぬ覚悟もない」
1度目を閉じてからマイクをまっすぐ見る。
「だから勝負はしようと思うけど、倒すことはしない。できれば勝ちたいけどな」
ヨハンの出した答えに、マイクは目を大きく見開いた。
「倒さない? 勇者なのに?」
「うん! それが1番いいと思うんだ!」
力強く頷いたヨハンを、マイクはポカンと見る。
「お前、変わった勇者だな」
マイクの素直な感想に、ヨハンは口を尖らせる。
「俺よりクリスの方が色々おかしいだろ」
「それもそうだな」
「ちょっと、どういう意味だい!?」
思わず笑い合う2人に、おかしいと認定されたクリスは軽く叫んだ。
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