その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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幕間 魔王の友人2

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「何馬鹿なことを言っているんだ、あいつ」
「本当にそうよね」

 サーニャも同意して頷く。

「というか、そういうことなら、お前はクゥに味方してここに加わった訳じゃないのか?」
「ああ。俺が人間の村を燃やしていたら、あいつが怒って拘束されたんだ。
 ……ん? そういえば、あいつ、なんで俺を連れて来ているんだ?」

 バルトは訳がわからず首を傾げる。

「わからないのにクゥについて行ったのか?」

 さすがにマイクが呆れると、バルトはきまり悪そうに頬を掻く。

「魔王からの命令は勇者を探して殺して来いだったから、ちょうど良かったんだよ」
「……確かにちょうどいいな」

 バルトがついて来た理由はわかった。だが、クリスがなぜバルトを自分の命をだしにしてまで連れているのかわからない。
 それは後で直接聞くことにして、マイクはふと、気になったことを聞く。

「お前、なんでいつも素手でクゥに襲いかかっているんだ?」

 通常、魔族は基本的に魔法で戦う。身体強化によって肉弾戦を行う者もいるが、普段から格闘などの鍛錬をしている者はほとんどいないため少数派だ。
 特にこの世界の魔族は魔法に頼りきっている者がほとんどで、わざわざ身体強化魔法を使う者はほぼいない。ごくたまに剣を振るう変わり者がいる程度である。
 マイクの疑問に、バルトは顔を盛大に顔をしかめる。そして袖を捲りあげてマイクに手首の腕輪を見せる。

「こいつのせいで魔法が使えないんだよ!」
「……ああ、拘魔具か」

 マイクは納得する。拘魔具は魔法を使えなくするための魔道具だ。確か、付けた者しか外せない機能もあった気がする。

「おまけにこれを外せと言ったら、今度は魔力を吸い取るやつを付けろと言いやがったんだぞ!」
「……それってこれか?」

 カンカンに怒るバルトに、マイクは自分が付けている制御具を見せた。

「そうだよ、それ……ってお前、付けているのか!?」

 バルトがマイクの制御具を指指して目をむく。

「俺のいた国では、魔族はこれを付けることが義務付けられていたんだよ」

 マイクは簡単に説明する。魔力の強さや制御力によって数や種類は変わるが、通常ヒオン国では、魔族は1つか2つは付けている。

「これって魔力を吸い取るんだろ? 大丈夫なのか?」
「吸い取るって言っても大した量じゃないし、むしろコントロールしやすくなるから便利だぞ」

 1度試しに外して暴発させてしまったことのあるマイクははっきり言った。

「ふーん、そうなのか」

 興味深そうにバルトは制御具をまじまじと見る。

「けど、確かにこの世界の魔族はしない方がいいかもしれないな」

 マイクは腕を下ろしながらポツリと呟く。

「どういう意味だ、それ?」

 意外と耳ざといバルトが顔をしかめた。
 マイクは軽く息を吐く。

「ここの世界の魔族は、たぶん、俺がいた世界の魔族より全体的に魔力が低いみたいなんだ。だから、俺のいた世界の魔族の基準で作られたこの制御具はきついかもしれない」

 頭を掻きながらきまり悪そうにマイクは説明する。

「は? 同じ魔族なのに違うのか?」
「そうだ。例えば俺や俺のいた世界の魔族は1000年生きる上に成熟するまで100年近くかかるけど、ここの魔族はあっという間に成長する上に500年しか生きないだろ? オークだってこちらの世界と俺たちのいた世界の奴とは全然違うし、同じ種族でも違う奴らが多いんだ。
 それに兵卒でもなければ、特に鍛錬しているわけでもない俺が、最も強い魔王の配下ってなっている時点で色々おかしいんだよ」
「え? お前、元の世界じゃ弱いのか?」
「弱いってわけじゃないけど、ごく普通の一般魔族であることは確かだな」

 余程意外だったのか、バルトの口は顎が落ちるのではないかというほど大きく開いた。

「けど、俺のいた世界の魔族よりコントロールが良かったり暴走しにくかったりするから、ここの魔族にはそもそも制御具は必要なさそうなんだよな。クゥは気づいてないかもしれないけどさ」
「そういえば、あいつは元の世界ではどうなんだ?」

 ひょっとしたらクリスも、せいぜい並より上かもしれないと思ったバルトは聞く。

「クゥは元の世界でも別格だったよ。ほとんどの魔族はあいつには敵わないな」

 キッパリと断言したマイクに、再びバルトの顎は落ちかけるのだった。
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