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幕間 魔王の友人
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なんとなく流れでマイクはクリスたちと共に魔王のところまで歩くことになった。
本当は先に行っても構わないのだが、勇者であるクリスを倒せなかったことや、倒せなかったのにマイクが五体満足であること、そしてその勇者が知り合いだったことなど、色々説明するのが面倒だった。
それに魔王が味方というわけではないとわかると、もともと忠誠心の薄いマイクは魔王に付く理由はない。それにクリスに付いていれば元の世界に帰れる可能性が高い。
そんなわけで、マイクはわざわざ皆に合わせて歩いているのだった。
だが、クリスの友人と言うことで、なんだかんだ絡まれることがあった。
「なぁ、あいつの弱点とかねぇか?」
そう声を掛けてきたのはバルトという魔族である。この男はよくクリスに殴りかかっては返り討ちにあっていた。
「あんたも懲りないわねぇ」
バルトについてきたサーニャという魔族の女が苦笑した。
マイクは少し考える。
「整理整頓が苦手とか、家事の類いを全くやったことがないとか……」
「そういうのじゃねぇよ。てか、わかってて言ってないか?」
眉をひそめるバルトにマイクは大きくため息をつく。
「知っていたとしても教えるわけないだろ」
「それもそうだけどよ」
苦虫を噛み潰したような顔をするバルトに、マイクはふと気になったことを聞く。
「そういえばなんで、お前はクゥに襲いかかっているんだ?」
「クゥ?」
「あいつ……クリスのあだ名だ。あいつは俺たちの国では有名だから本名だと目立つ。だから、俺が付けた」
初めて聞く名に眉をひそめるバルトにマイクは答える。
「へぇ、あいつってそんな有名な奴なのか?」
眉を上げて軽く驚くバルトに、マイクの方がポカンとする。
「……まさか、お前、クゥから何も聞いてないのか?」
「聞いていないって、何をだ?」
意味がわからず首を傾げるバルトに、マイクは唖然とする。
「……本当に何も言ってないのか、クゥの奴。確かに話しそうもないけど、仲間なんだから、話しておくべきじゃ……」
「……なぁ、聞いてないって何をだ?」
頭を抱えてブツブツ呟くマイクを、怪訝そうにバルトは見て再び聞く。
「クゥの身分……というか仕事についてだ」
「ん? あいつ、偉い奴なのか?」
バルトがキョトンとする。
「一応、かなり偉いぞ」
宰相のキャロルや将軍のルイスによく正座で説教されているが、あれでもヒオン国の頂点にいるのである。
……そういえば、侍女や侍従からも普通に叱られていた気がする。どうしよう、本当に偉いのか疑問になってきた。
「ああ、だからたまに偉そうなのか」
そんなマイクの内心とは関係なく、バルトは納得する。
「偉そうっていうか、一応、本当に偉いぞ。というか、本当に何も聞いてないんだな」
マイクはクリスに呆れ、うっかりそれを顔に出してしまった。
マイクの表情を自分が呆れられていると勘違いしたバルトはムッとする。
「異世界で偉くてもここではただの魔族だろ! なら、別に知らなくてもいいだろうが!」
「それもそうだな」
確かに向こうの世界で国王でも、ここではなんの関係もないのだ。
それにクリスは昔から、王や王子といった立場で接させるのが好きではないようだった。だから街に出ている時はずっと、名や立場を偽っていたのだ。
とはいえ、当人は嘘も演技も誤魔化しも苦手なため、薄々気づいている者は多かったが。
「それで、なんでお前はクゥに襲いかかっているんだ?」
話が逸れたことに気づいたマイクは、軽く咳払いをして、話を戻す。
「あいつが、自分について行けば命狙い放題だと言ったんだよ」
まさかのバルトの答えに、マイクは顎が落ちそうになった。
本当は先に行っても構わないのだが、勇者であるクリスを倒せなかったことや、倒せなかったのにマイクが五体満足であること、そしてその勇者が知り合いだったことなど、色々説明するのが面倒だった。
それに魔王が味方というわけではないとわかると、もともと忠誠心の薄いマイクは魔王に付く理由はない。それにクリスに付いていれば元の世界に帰れる可能性が高い。
そんなわけで、マイクはわざわざ皆に合わせて歩いているのだった。
だが、クリスの友人と言うことで、なんだかんだ絡まれることがあった。
「なぁ、あいつの弱点とかねぇか?」
そう声を掛けてきたのはバルトという魔族である。この男はよくクリスに殴りかかっては返り討ちにあっていた。
「あんたも懲りないわねぇ」
バルトについてきたサーニャという魔族の女が苦笑した。
マイクは少し考える。
「整理整頓が苦手とか、家事の類いを全くやったことがないとか……」
「そういうのじゃねぇよ。てか、わかってて言ってないか?」
眉をひそめるバルトにマイクは大きくため息をつく。
「知っていたとしても教えるわけないだろ」
「それもそうだけどよ」
苦虫を噛み潰したような顔をするバルトに、マイクはふと気になったことを聞く。
「そういえばなんで、お前はクゥに襲いかかっているんだ?」
「クゥ?」
「あいつ……クリスのあだ名だ。あいつは俺たちの国では有名だから本名だと目立つ。だから、俺が付けた」
初めて聞く名に眉をひそめるバルトにマイクは答える。
「へぇ、あいつってそんな有名な奴なのか?」
眉を上げて軽く驚くバルトに、マイクの方がポカンとする。
「……まさか、お前、クゥから何も聞いてないのか?」
「聞いていないって、何をだ?」
意味がわからず首を傾げるバルトに、マイクは唖然とする。
「……本当に何も言ってないのか、クゥの奴。確かに話しそうもないけど、仲間なんだから、話しておくべきじゃ……」
「……なぁ、聞いてないって何をだ?」
頭を抱えてブツブツ呟くマイクを、怪訝そうにバルトは見て再び聞く。
「クゥの身分……というか仕事についてだ」
「ん? あいつ、偉い奴なのか?」
バルトがキョトンとする。
「一応、かなり偉いぞ」
宰相のキャロルや将軍のルイスによく正座で説教されているが、あれでもヒオン国の頂点にいるのである。
……そういえば、侍女や侍従からも普通に叱られていた気がする。どうしよう、本当に偉いのか疑問になってきた。
「ああ、だからたまに偉そうなのか」
そんなマイクの内心とは関係なく、バルトは納得する。
「偉そうっていうか、一応、本当に偉いぞ。というか、本当に何も聞いてないんだな」
マイクはクリスに呆れ、うっかりそれを顔に出してしまった。
マイクの表情を自分が呆れられていると勘違いしたバルトはムッとする。
「異世界で偉くてもここではただの魔族だろ! なら、別に知らなくてもいいだろうが!」
「それもそうだな」
確かに向こうの世界で国王でも、ここではなんの関係もないのだ。
それにクリスは昔から、王や王子といった立場で接させるのが好きではないようだった。だから街に出ている時はずっと、名や立場を偽っていたのだ。
とはいえ、当人は嘘も演技も誤魔化しも苦手なため、薄々気づいている者は多かったが。
「それで、なんでお前はクゥに襲いかかっているんだ?」
話が逸れたことに気づいたマイクは、軽く咳払いをして、話を戻す。
「あいつが、自分について行けば命狙い放題だと言ったんだよ」
まさかのバルトの答えに、マイクは顎が落ちそうになった。
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