その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

文字の大きさ
上 下
162 / 179

魔王、喧嘩する15

しおりを挟む
「何か人間たちの方で魔族に対する対策をしているとかかな?」

 クリスはメイに問いかけると、メイは首を傾げたままうーん、と唸った。

「対策自体はしていると思うのですが、それで魔族の侵略を防げるかというと、心もとないと思います」

 確かに魔族と人間では力の差が大きく、魔族が本気で侵略をしたら、できる対策はほとんどないだろう。

「……いや、単純に魔王が国を滅ぼすような命令をしなくなったんだ」

 クリスとメイが首を捻っていると、マイクが思いがけないことを言った。

「どういうことだい?」

 目を丸くしてクリスがマイクに聞く。

「50年くらい前に国を滅ぼしてから、魔王は特に俺たちに積極的に命令しなくなったんだ。たまに、気まぐれみたいにこの村とか町を襲えって言うことはあったけど、前みたいな団結して行うような襲撃はやらなくなった」

 さすがにこれは予想しなかったため、クリスとメイはポカンとする。

「……えっと、魔王がやる気を無くしたとか、すでに目的を達成したとかかい?」
「……正直、魔王が何を考えているか俺も、たぶん他の奴らも知らない。
 ただ、どうやらほとんど毎日剣を振っているから、強くなろうとはしていると思う」
「へぇ、剣を……珍しいね」

 クリスやヒオン国の騎兵たちは剣や武器の鍛錬をすることもある。だが、基本的に魔族は強力な魔力があるため、一般的に魔族は武器の鍛錬は行わないことが多い。

「あっ、言い忘れていたけど、魔王はたぶん、魔族ではないぞ」
「「え?」」

 クリスとメイが同時に声を上げる。特にメイは大きく動揺した。

「ええっと、魔王って魔族から選ばれるのではないのですか?」
「それはわからないけど、あの魔力の感じは魔族とは違う気がするんだよなぁ。魔剣の魔力に紛れてわかりづらいけどさ」

 眉をひそめながらマイクは頭を掻く。

「まぁ、魔族の僕が聖剣に選ばれることがあるくらいだからね。魔族じゃない魔王がいてもおかしくないかもね」
「いや、勇者も魔王も種族は関係ないぞ?」

 クリスが苦笑してシャルルを持ち上げると、シャルルが不満そうな声で反論した。

「えっ、そうなのか!?」

 シャルルの発言に驚きの声を上げたのはマイクだった。

「ああ。勇者も魔王も俺やアンディが心のあり方を見て、気に入った奴を選んでいるんだ。そこに種族は関係ないな」
「アンディって魔剣かい?」

 初めて聞く名があったため、クリスが聞く。

「そうだ。同じ神が作った剣なんだけど、なぜか俺とあまり気が合わないんだよなぁ」

 不思議そうにシャルルは言うが、聖剣と魔剣という正反対の目的で作られた剣の気が合ったらおかしいと、その場にいた全員が思った。

「……で、種族が関係ないってどういうことなんだ?」

 マイクがずれそうになっている話を戻した。

「さっき言ったままだぞ? あくまで大切なのは心のあり方で、種族では選んでないな」
「その割には、人間の勇者が多くないか?」

 マイクはまだ納得してないようで、訝しげな顔をしている。

「そんなの、人間が1番多く俺を抜きに来たからだ。あれだけ来ていればふさわしい奴に当たるのも多いってもんだぞ」

 呆れたように言うシャルルに、マイクはポカンとする。

「……聖剣は人間の味方じゃないのか?」
「いつ俺が人間の味方だって言ったんだ?
 俺は世界の滅亡に抗うための剣だ。その世界には、人間だけじゃなくて魔族や他の種族も含まれているんだぞ?」

 あまりに意外な話だったため、マイクの目と口が大きく開いた。

「あっ、ということは、魔剣が滅ぼす対象の中には魔族も含まれているのかい?」
「もちろん、そうだぞ」

 クリスとシャルルのやり取りに、マイクはさらに顎が外れるのではないかと思うほど、口を大きく開く。

「なるほどね……」

 クリスは逆に納得していた。魔王が魔族の配下を大事にしないのは、魔王にとって配下は守る存在ではないからだ。魔剣もおそらく、そういう者を選んでいるのだろう。

「……あの、クリス様……お話中のところ申し訳ありませんが、少しよろしいでしょうか?」

 メイが顔を赤くしながら、おずおずと小声で言う。

「なんだい?」

 首を傾げるクリスにメイは小さく叫んだ。

「そろそろ離してくれませんか!?」

 クリスはずっと片手でメイを抱きしめていたままだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...