その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

文字の大きさ
上 下
159 / 179

魔王、喧嘩する12

しおりを挟む
 クリスに殴り飛ばされたマイクはゆっくり上半身を起き上がらせた。 
 加減したのか、クリスに殴られたところはじんっと痛むが、特に骨や皮膚に異常は見られなかった。腫れも自己回復魔法であっという間に治る。
 目の前には五体満足の友人が少女を抱えて立っている。先ほどと違い、今度は人質にも警戒してくるだろう。
 それなら、マイクにクリスを倒す手は何もなかった。

「……やっぱり、敵わないかぁ」

 マイクは苦笑する。クリスが警戒するように睨み付けるが、マイクはもう攻撃する気力はなかった。

 マイクが国を出た理由の1つに、実はクリスと自分を比べることにうんざりしたというのがある。
 同い年の魔族という共通点を持ちながら、一方は国王になる才能も魔力もある魔族、もう一方は本当に突飛出たところのない、ただの一般魔族だ。
 それなのに同い年というだけでついつい比べてしまっていた。そしていつも勝てないことを悔しく思っていた。
 だから、友人が国王になる際、国を出たのだ。これ以上比べて惨めになるのが嫌だった。

 それから200年、魔王のお気に入りとして色々やってきた自分だが、やはりこの友人には敵わなかった。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だ。卑怯な手を使ったのは俺が悪かった。まぁ、お前が勇者になったことを、まだ許してはいないけどな」

 マイクは服に付いた土を払いながら立ち上がる。

「マイク……」

 クリスが呟いた後、大きくため息をついた。
 そして、信じられないことを言った。

「いつ、僕が勇者になったって言ったんだい?」

「…………は?」

 マイクは驚き過ぎて、口をあんぐり開ける。

「……お前、勇者として召喚されて、聖剣に選ばれたんだよな?」
「うん、そうだよ」

 クリスは素直に頷く。

「……それって勇者じゃね?」
「違うよ」
「いや、勇者だろ!」

 シャルルがたまらず叫んだ。

「何度もいうけどな、お前は俺が選んだ勇者なんだよ! いいかげん、そろそろ認めろ!」

 シャルルの心からの叫びに、クリスは大きくため息を吐く。

「まぁ、シャルルの戯言は置いといて」
「戯言言うなー!」

 悲痛な叫びも、あっさりとクリスはスルーする。

「僕は勇者になりたくないんだ。勇者が嫌いだしね」

 吐き捨てるように言ったクリスに、マイクは首を傾げる。

「お前、そこまで勇者嫌いだったっけ?」

 昔、少なくとも200年前は、クリスは勇者のことをここまで嫌ってはいなかった気がする。

「この200年で嫌いになったよ。もう言いたい放題、やりたい放題だったからね」

 クリスは渋い顔をする。
 ちなみにクリスが勇者を決定的に嫌いになったのは、100年ほど前の家に火を放った勇者がきっかけである。もともとあまり勇者にいい印象は抱いてなかったが、この勇者で我慢の限界がきた。
 それ以来、クリスは勇者がもっとも嫌いになったのだ。

「……その割には人間を嫌っている感じはしないな」

 クリスの腕に抱えられているメイを見ながら、マイクは首を傾げる。

「人間に偏見がないわけじゃないけど、勇者を除くとほとんど人間に会ったことはないからね。それに、君が出ていった200年で色々経験したから。
 それらから僕が学んだのは、いい事する者も悪いことする者も種族は関係ないってことなんだよ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...