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魔王、喧嘩する12
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クリスに殴り飛ばされたマイクはゆっくり上半身を起き上がらせた。
加減したのか、クリスに殴られたところはじんっと痛むが、特に骨や皮膚に異常は見られなかった。腫れも自己回復魔法であっという間に治る。
目の前には五体満足の友人が少女を抱えて立っている。先ほどと違い、今度は人質にも警戒してくるだろう。
それなら、マイクにクリスを倒す手は何もなかった。
「……やっぱり、敵わないかぁ」
マイクは苦笑する。クリスが警戒するように睨み付けるが、マイクはもう攻撃する気力はなかった。
マイクが国を出た理由の1つに、実はクリスと自分を比べることにうんざりしたというのがある。
同い年の魔族という共通点を持ちながら、一方は国王になる才能も魔力もある魔族、もう一方は本当に突飛出たところのない、ただの一般魔族だ。
それなのに同い年というだけでついつい比べてしまっていた。そしていつも勝てないことを悔しく思っていた。
だから、友人が国王になる際、国を出たのだ。これ以上比べて惨めになるのが嫌だった。
それから200年、魔王のお気に入りとして色々やってきた自分だが、やはりこの友人には敵わなかった。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だ。卑怯な手を使ったのは俺が悪かった。まぁ、お前が勇者になったことを、まだ許してはいないけどな」
マイクは服に付いた土を払いながら立ち上がる。
「マイク……」
クリスが呟いた後、大きくため息をついた。
そして、信じられないことを言った。
「いつ、僕が勇者になったって言ったんだい?」
「…………は?」
マイクは驚き過ぎて、口をあんぐり開ける。
「……お前、勇者として召喚されて、聖剣に選ばれたんだよな?」
「うん、そうだよ」
クリスは素直に頷く。
「……それって勇者じゃね?」
「違うよ」
「いや、勇者だろ!」
シャルルがたまらず叫んだ。
「何度もいうけどな、お前は俺が選んだ勇者なんだよ! いいかげん、そろそろ認めろ!」
シャルルの心からの叫びに、クリスは大きくため息を吐く。
「まぁ、シャルルの戯言は置いといて」
「戯言言うなー!」
悲痛な叫びも、あっさりとクリスはスルーする。
「僕は勇者になりたくないんだ。勇者が嫌いだしね」
吐き捨てるように言ったクリスに、マイクは首を傾げる。
「お前、そこまで勇者嫌いだったっけ?」
昔、少なくとも200年前は、クリスは勇者のことをここまで嫌ってはいなかった気がする。
「この200年で嫌いになったよ。もう言いたい放題、やりたい放題だったからね」
クリスは渋い顔をする。
ちなみにクリスが勇者を決定的に嫌いになったのは、100年ほど前の家に火を放った勇者がきっかけである。もともとあまり勇者にいい印象は抱いてなかったが、この勇者で我慢の限界がきた。
それ以来、クリスは勇者がもっとも嫌いになったのだ。
「……その割には人間を嫌っている感じはしないな」
クリスの腕に抱えられているメイを見ながら、マイクは首を傾げる。
「人間に偏見がないわけじゃないけど、勇者を除くとほとんど人間に会ったことはないからね。それに、君が出ていった200年で色々経験したから。
それらから僕が学んだのは、いい事する者も悪いことする者も種族は関係ないってことなんだよ」
加減したのか、クリスに殴られたところはじんっと痛むが、特に骨や皮膚に異常は見られなかった。腫れも自己回復魔法であっという間に治る。
目の前には五体満足の友人が少女を抱えて立っている。先ほどと違い、今度は人質にも警戒してくるだろう。
それなら、マイクにクリスを倒す手は何もなかった。
「……やっぱり、敵わないかぁ」
マイクは苦笑する。クリスが警戒するように睨み付けるが、マイクはもう攻撃する気力はなかった。
マイクが国を出た理由の1つに、実はクリスと自分を比べることにうんざりしたというのがある。
同い年の魔族という共通点を持ちながら、一方は国王になる才能も魔力もある魔族、もう一方は本当に突飛出たところのない、ただの一般魔族だ。
それなのに同い年というだけでついつい比べてしまっていた。そしていつも勝てないことを悔しく思っていた。
だから、友人が国王になる際、国を出たのだ。これ以上比べて惨めになるのが嫌だった。
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「そんなに警戒しなくても大丈夫だ。卑怯な手を使ったのは俺が悪かった。まぁ、お前が勇者になったことを、まだ許してはいないけどな」
マイクは服に付いた土を払いながら立ち上がる。
「マイク……」
クリスが呟いた後、大きくため息をついた。
そして、信じられないことを言った。
「いつ、僕が勇者になったって言ったんだい?」
「…………は?」
マイクは驚き過ぎて、口をあんぐり開ける。
「……お前、勇者として召喚されて、聖剣に選ばれたんだよな?」
「うん、そうだよ」
クリスは素直に頷く。
「……それって勇者じゃね?」
「違うよ」
「いや、勇者だろ!」
シャルルがたまらず叫んだ。
「何度もいうけどな、お前は俺が選んだ勇者なんだよ! いいかげん、そろそろ認めろ!」
シャルルの心からの叫びに、クリスは大きくため息を吐く。
「まぁ、シャルルの戯言は置いといて」
「戯言言うなー!」
悲痛な叫びも、あっさりとクリスはスルーする。
「僕は勇者になりたくないんだ。勇者が嫌いだしね」
吐き捨てるように言ったクリスに、マイクは首を傾げる。
「お前、そこまで勇者嫌いだったっけ?」
昔、少なくとも200年前は、クリスは勇者のことをここまで嫌ってはいなかった気がする。
「この200年で嫌いになったよ。もう言いたい放題、やりたい放題だったからね」
クリスは渋い顔をする。
ちなみにクリスが勇者を決定的に嫌いになったのは、100年ほど前の家に火を放った勇者がきっかけである。もともとあまり勇者にいい印象は抱いてなかったが、この勇者で我慢の限界がきた。
それ以来、クリスは勇者がもっとも嫌いになったのだ。
「……その割には人間を嫌っている感じはしないな」
クリスの腕に抱えられているメイを見ながら、マイクは首を傾げる。
「人間に偏見がないわけじゃないけど、勇者を除くとほとんど人間に会ったことはないからね。それに、君が出ていった200年で色々経験したから。
それらから僕が学んだのは、いい事する者も悪いことする者も種族は関係ないってことなんだよ」
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