その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、喧嘩する12

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「あなたはなんてことをしたんですか!」

 メイはマイクに怒鳴る。

「なんでクリス様が優しいことを知っていながら、それを利用するようなことをしたんですか!」

 メイは怒り狂っていた。マイクのしたことと自分の迂闊さに。

 メイがクリスに鍛錬を頼んでいたのは、いざという時に彼の足を引っ張っらないためだ。クリスが守らなくても、最低でも自分の身くらいは守れるように頑張ったつもりだ。
 なのに最悪の形で足でまといになり、クリスを傷つけることになってしまった。
 だから本当はマイクよりも自分に対して怒っているのだが、落ち込んだり自分を責めても仕方ない。なので、マイクに怒鳴って自分を奮い立たせている。

「あ、あいつが油断したのが悪いんだよ!」

 目を逸らしながら言うマイクにメイはさらに顔を険しくする。

「……クリス様は今まで、戦いの際には障壁を周りに築き、皆を守っていました。それはクリス様が優しいのもあるでしょうけど、クリス様自身が人質が弱点であることを自覚していたからだと思います」

 メイの言葉にマイクは信じられないように目を見開く。

「今回、クリス様が皆の周りに障壁を築かなかったのは、あなたが人質なんていう方法を取らないと、信じていたからではないでしょうか?」

 これはメイの想像だったが、たぶん当たっていると思う。
 クリスは優しいが、愚かではない。むしろ戦いにおいては様々な事態を想定して行動している。
 そんなクリスが今回、皆の周りに障壁を築かなかったのは、マイクの性格を考慮して「必要ない」と判断したからではないだろうか。
 だからこそ、自分が気をつけるべきだったとメイは歯噛みする。メイはマイクについて何も知らないのだから、先入観なしに考えることかできたのに。
 だが、後悔するより、今の状況を打破することが先だとメイは口を開く。

「あなたはクリス様の信頼を裏切ったのです! 私はそのことが許せません!」

 怒鳴りつけながら、メイは気づかれないように片手をマイクの腕に移動させる。マイクはメイの言葉にショックを受けているようで、そのことには気づかない。
 そして手の平に魔力を込める。
 クリスは魔法の強さは魔力の濃度によって決まると言っていた。そして、魔族は魔法に対する耐性が強いとも。
 メイの持つ魔力では魔族に傷1つ付けられないだろう。
 だが小指、いや、針の先ほどの範囲に濃縮させれば?
 クリスやルディア曰く、狭い範囲に魔力を集中させることは難しいらしい。うまくいかず、拡散してしまい発動しないとか。

 それでも、やるしかない。

 メイは魔力を人差し指の腹の中心に集中させる。

 そして針の先くらいの大きさの、火球の魔法を放つ。

「ぐぁっ!?」

 マイクが叫び声を上げて手を離した。手からは細い煙が出ている。

(よかった、成功した!)

 喜びが込み上げるが、それに浸る前に素早くメイはマイクから離れる。

「くっ、この……!」

 マイクが睨み付け、反射的にメイに手を伸ばす。
 メイは避けようとするが、それよりもマイクの手の方が早かった。
 再びメイに触れようとする手に、メイはどうすればいいかとっさに判断がつかない。

 その時、メイの横から別の腕が出てきてマイクの頬を殴った。

「大丈夫かい、メイ?」

 無事を確認しながら、片手でメイを抱きしめた男の姿を見て、メイは安堵のあまり泣きそうになった。

「クリス様……!」
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