その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、喧嘩する11

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 マイクは肩で呼吸していた。やっと一撃当てられたというのに、勝利の喜びはなく、むしろひどく惨めだった。ずっと嫌な動悸が止まらない。

 クリスは優しい。だからこそ、人質というのは大変有効な手段だった。例えそれが敵だとしても、クリスは動けなくなるだろう。
 マイクはクリスに連れられて、事件や怪しい疑惑があるところに行くことがあった。よせばいいのに、どうも気になるらしく「ちょっとだけ」といいながら、クリスは突撃していくのだ。それで問題が解決することもあったが、その後にこってり絞られるのが常だった。なのにまた懲りずに突撃するものだから、マイクはよく呆れていた。
 その際、人質を取られて右往左往する様をマイクは見てきた。だからクリスにとって人質は弱点であることを知っていた。
 知っていたが、自分がこの手段を使うことになるとは先ほどまで思わなかった。むしろこういった卑怯な手は元々嫌いだった。

 それなのに、使ってしまった。

(いや、使わないと一撃すら当てられなかった)

 何とか自分を納得させようと言い聞かせるが、その言葉は虚しく、全く効果はない。
 ふと、腕に抱えている少女が俯いて、微かに震えていることに気づく。

(……怖いのか?)

 そう思ったマイクは思わず口に苦いものが広がる。
 敵対している魔族に捕まっているのだ。しかも味方をひどい目にあわせた卑怯な魔族に。怖いのは当たり前だ。
 人間とはいえ年端もいかない少女を人質にとっていることに、自分がすごく汚いものになった気がした。

「おい……」

 マイクは少女に声を掛けようとする。大人しくしていれば何もしない、と。怖がっている少女を宥めるために。

 だが、それはマイクの勘違いだった。

 顔を上げた少女の瞳は激しい怒りで爛々と燃えていて、マイクをキッと睨み付けたのだ。
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