その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、喧嘩する9

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 ――襲撃者は村の男たちの手によって崖下に放り込まれた。手を離される最後の瞬間まで、自分の無実を喚いていた。
 その声が聞こえなくなり静かになると、マイクはレインに近づく。

「レインさん、先ほどはすいませんでした」

 マイクはレインに頭を下げた。

「何がだ?」
「レインさんが話している時に……その……」

 言い淀むマイクの肩にレインは手を置く。

「気持ちはわかる。お前さんがしなくても誰かがしていただろう」

 苦笑するレインを見て、マイクは少しだけ方の荷が降りた気がして、軽く息をつく。
 そして襲撃者が消えた方を見た。

「まさか、あんな馬鹿馬鹿しい宗教を信じている奴がいるなんて……」
「ん? あの男が信じている宗教を知っているのか?」

 マイクは素直に頷く。

「はい。以前、人間の国を見て回った時に知りました」

 どうやら人間たちの間で広まっている宗教らしく、いくつものその宗教を教典とした教会を見かけたのだ。内容を聞くと、あまりにも異種族を差別している上に人間本位な考えだったため、マイクは思わず呆れてしまった。

「随分広まっているな、とは思いましたが、あんなのを信じている奴もいるのですね」

 マイクが理解出来なくて顔をしかめていると、レインは苦虫を噛み潰したような顔をする。

「……こう言ってはなんだが、そういった考えが広まったのはこちら側にも原因があるかもしれん」
「どういうことですか?」

 マイクは意味がわからず首を傾げる。

「私たちやマイクのいた国がとった行動は、人間との関わりを断つことが主だ。
 それで確かに平和は得られたかもしれんが、関係しないということは放っとくと同じことだ。
 人間を放っといた結果、私たちに対する妄想や人間本位な考えが拡大してそういう宗教が根付いたのかもしれん」

 レインは大きなため息をつく。

「それに聞いた感じだと、その宗教は異種族を殺すのに大変都合がいいようだ。異種族の殺害を善行だ、罪の浄化だと言えば、殺すことに躊躇も罪悪感も無くなる」

 マイクの背筋が、凍るのかと錯覚するほど冷たくなる。

「あの宗教は異種族を殺すために作られたと?」 

 レインはゆっくり首を横に振る。

「そこまでは知らん。だが、少なくとも利用している奴らの中にはそういう者もいるだろう」
「利用……」

 マイクは奥歯を強く噛む。その利用している人間は、意図的に異種族を殺そうとしているのだろう。なぜ人間でないというだけで、殺すことを良しとするのか、理解出来なかった。

「俺たちの国は間違っていたのでしょうか?」

 マイクはレインに聞いた。交流を断つことで人間が増長したのなら、それは悪手だったのではないか?

「それは知らん。それに何をしても同じような思考が広まったかもしれん。
 そういった思考を防ぐには、極端な話、人間を支配するか、人間と和解するくらいしかないだろう」
「支配か、和解……」

 マイクは思案する。支配はあのお人好しなところがある友人は嫌がるだろうし、先ほどの人間の様子を見る限り、和解が到底できるようには思えない。 

「ただ人間と交流を断つことで、この村は1000年、マイクの国は2000年も平穏な日々を過ごすことが出来た。それは事実だ」

 レインが優しく笑う。

「それは簡単にできることではない。それは誇ってよいだろう」
「……そうですね」

 マイクも淡く笑った。

「それじゃひとまず脅威は去ったので、焼けた家の修理でもしますか?」

 マイクが提案すると、レインの顔が陰った。

「レインさん?」
「いや……これで終わるといいな」

 首を傾げるマイクにレインは笑いかける。
 その後、家の補修にバタバタしていたマイクは、この時のレインの様子を深く考えなかった。



 そして、レインの懸念は当たった。

 その後も、何度も人間たちの襲撃は起きたのだ。ほとんどは奇襲で、寝ている間に襲われることが多かった。
 村の者たちは襲撃の度に1人、2人と数を減らしていった。
 そしてたった数人だけ残った村を置いて、突然、マイクはこの世界に召喚されたのだった。
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