その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、喧嘩する2

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 マイクは友人の顔を頭を振って消す。

(あいつがこの世界に来ているわけはない)

 もし似ていたとしても、友人の子供か他人の空似だろう。
 しかも自分が探しているのは勇者だ。対極に存在するような友人が聖剣に選ばれるわけがない。
 それに今の自分が頼れるのは、この世界の魔王だけなのだ。
 正直、この世界に召喚した魔王に恨みはある。だが、マイクの力では魔王に敵わない。
 しかも何かと世話になっているのも事実だった。この世界の魔族と比べて魔力があるマイクは魔王に気に入られているため、待遇も悪くない。
 だからこそ、なんだかんだと魔王の命令は聞いていた。
 今回の命令も別に反対する理由もなかったため、素直に聞いた。
 元の世界に帰れない今、魔王の命令を聞くことがマイクにとってもっとも生き残れる道なのだ。

 そんなことをつらつら考えていると、オークや魔物の集団が目に入る。
 そのなかには赤い帽子を被った者もいた。

「あいつか」

 マイクは直ぐ様赤い帽子の者の前に立ち、睨み付ける。

「お前が勇者……」

 赤い帽子の者の顔を見て、マイクは顎が外れそうになった。
 赤い帽子の者は目を丸くした後、にっこりとマイクに微笑んだ。

「久しぶり、マイク」

 そこには200年前と変わらない友人姿があった。

「お前かよ!!」
「いきなりそれかい?」

 クリスはマイクに笑いかけた。

「ていうか、なんでお前がここにいるんだよ!」

 マイクは混乱しながらクリスに問いかける。

「なぜか、勇者として召喚されたんだよねぇ」

 クリスは苦笑する。

「色々おかしいだろ! なんでお前が勇者なんだ!」
「それはシャルルに聞いて」

 マイクがシャルルに目を向けた。

「俺が、クリスが勇者にふさわしいと思ったからだ!」

 シャルルの堂々とした答えにマイクは頭を抱える。

「聖剣の癖に頭がおかしくなったのか……」
「何をいう! 俺に頭なんてない!」
「そこかよ!」

 叫んだ後、ハッとしてマイクは俯いた。

「そうか、お前がまだ帰っていないってことは、元の世界に帰る方法なんてないんだな……」
「え、帰る方法ならあるよ?」
「じゃあ、帰れ!!」

 クリスのとぼけた答えにマイクは渾身の力で叫ぶ。

「何日か僕がいなくても、まぁ、なんとかなるよ」
「へぇ……で、ここに来て何日経ったんだ?」
「……数えてない」

 据わった目のマイクからクリスは目を盛大に逸らした。
 マイクがため息をつく。

「キャロルさんとかルイスさんとか怒り狂っていると思うぞ」

 クリスは頭を抱えた。キャロルはヒオン国の宰相、ルイスは将軍である。2人はクリスよりも年上で、よくクリスに説教をしていた。

「……ねぇ、マイク」
「ん?」

 クリスが真剣な顔でマイクを見る。つられてマイクも居ずまいを正した。

「あと何年ここにいれば2人の怒りは鎮まると思う?」
「引き伸ばそうとするなー!!」
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