その勇者、実は魔王（改訂版）

幕間 魔王と買い物3

　クリスは顔をしかめて男たちを見る。こういう者たちはヒオン国でもたまにいて、クリスが絡まれることもたまにあった。 

「折れたのなら、僕は回復魔法が使えるから治せるよ」

　そう言うと、男たちは眉を吊り上げる。

「治せればいいってもんじゃねぇぞ！」
「こっちは大怪我したんだぞ！」

　怒鳴る2人をクリスは冷めた目で見た。

「金を払えってことかい？」

　男たちは笑みを浮かべた。
　ヨハンたちが男たちに抗議しようとするが、それをクリスは目で制す。
　そして、その1人のスキンヘッドの男の肩をクリスはおもむろに掴んだ。

「折れてないみたいだね」

　軽く動かして確かめるクリスをスキンヘッドの男は怪訝そうに見た。
　クリスは男に向けて笑みを作る。ただし、目は冷ややかなままで。

「本当に回復魔法が使えるか折って確かめてみようか？」

　男たちは一瞬目を丸くし、すぐに吊り上げる。

「ふざけっ……い、いてててて！？」

　怒鳴ろうとしたスキンヘッドの男の肩をクリスは軽く捻る。

「治すより折る方がすごく簡単なんだよ。少し余計に力を入れればいいだけだからね。
　あ、痛いのは一瞬で済むよ。すぐに治すから」

　口元に笑みを浮かべたままクリスは手に徐々に力を加えていく。
　スキンヘッドの男は青ざめて慌ててクリスの手を振り払い、舌打ちする。

「けっ！ クソガキめ！」

　悪態をついて去るスキンヘッドの男に、ロングヘアの男がクリスを忌々しそうに見てから続いた。
　クリスは軽く息をつくと、今度は普通に笑みを浮かべて皆を振り返る。
　もう大丈夫だと安心させようとしたのだが、皆、クリスにドン引きしていた。

「……なぁ、本当に折るつもりだったのか？」
「まさか」

　ヨハンがおそるおそる聞いたので、クリスは軽く肩をすくめる。
　そんな騒ぎを起こせば買い物どころじゃなくなる可能性が高い。ちょっと脅して退散させるだけのつもりだった。

「そんなことより、早く買い物に行こう！ 
時間がもったいないよ！」

　いまだ流れる微妙な空気を払拭するためにクリスは明るく言ったが、たいして効果はなかった。
　こうして人間の街での買い物は始まったのだった。



　ちょっとした波乱から始まった買い物だったが、その後は順調に進んだ。
　そして日用品や必需品の買い出しが終わると、クリスは皆を振り返った。

「さて、帰ろうか」
「いや、これからでしょ！」

　笑顔で切り上げようとするクリスにサーニャが声を上げる。
　クリスはキョトンとした。

「必要なものは買い終わったよね？」

　目的の「買い物」は終わったはずだと首を傾げるクリスに、メイが苦笑する。

「サーニャさんがしたいのは、街でいろいろ見て回ることですよ」
「ああ、そうか」

　クリスは納得する。この世界に来てからは必要な物を買ってさっさと帰っていたが、もとの世界にいた時はよく休日に街をぶらぶらすることがよくあった。

「あまりお金がないから、大した物は買えないし、皆を待たせているから夕方までに帰るけどいいかい？」

　初めの村で貰ったお金の他に、魔物の毛皮などを売ってお金を手に入れていたが、残りは少ない。

「いいわよ！ 見て回るだけでも楽しいもの！」

　サーニャは笑顔で答える。心なしか声が弾んでいた。

「それじゃ、いろいろ見て回ろうか。
　ヨハンたちもそれでいいかい？」

　クリスがヨハンたちの方を向くと、ヨハンは笑みを浮かべて頷く。

「おう、たまには息抜きも必要だよな！」

　他の面々にも異存はないようなので、クリスたちは共に街を回ることになった。