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魔王、巻き込まれる5
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メイの姿が見えなくなったところで、ユートは停止した。
「……聞かれたくないなら、音を遮断する結界を張ろうか?」
「頼む」
クリスの提案にユートは素直に頷く。
結界を張り終えると、ユートはクリスを突き刺すように真っ直ぐ見た。
そして躊躇ったのちに、おもむろに口を開く。
「お前、メイのことが好きなのか?」
予期しなかった言葉に、クリスはとっさに誤魔化せず、頬が赤くなった。
「……たぶん、そうだよ」
クリスは白状する。なぜかこのことで、ユートに嘘をつくのは抵抗があった。
「たぶん?」
ユートは片眉を吊り上げる。
「自覚したのはついさっきなんだ。それに、彼女はまだ未成年だし」
「それだと何か問題があるのか?」
ユートが怪訝そうに首を傾げる。
「……詳しくは言えないけど、僕は国民の模範であるべき立場なんだ。そして僕の国では未成年に手を出すのは重罪だ。
そんな国で模範となるべき者が未成年に恋慕するのはダメだと思っている」
眉間にシワを寄せているクリスを見て、ユートはポカンとした。
「……お前、魔族の癖に生真面目だな」
「別にそういうわけじゃない。僕自身が未成年に手を出す者を嫌悪しているんだ」
これはクリスの本心である。そういった事件を聞くたび、加害者に激しい嫌悪感を感じていた。
クリスたち魔族にとって、子供というのは守るべき存在であるため、手を出すなど論外だったのだ。
だが、現在言葉にすらしないようにしている想いは、その嫌悪している者たちと大して変わらないものだろう。
「だから、もしもこの想いを伝えるとしてもメイが成人する3年後以降になると思う」
それでも年齢差は激しいが、少なくとも今よりはマシである。
無論、年齢以外にも大量に問題はある。
その問題も3年で片付けられるかはわからない。そもそも3年後、メイと一緒にいるかもわからない。
だからこそ、クリスはこの想いを今は胸に閉じ込めると決めたのだ。
「3年……そんな長い間、何もメイに言わないつもりなのか?」
ユートは信じられないというように目を見開く。
「うん。メイも返事は3年後にって言っていたし」
「それとは意味が違う!」
ユートがなぜ激昂しているのかわからず、クリスは首を傾げる。
「お前たち魔族にとっては3年なんてあっという間かもしれないけど、メイは人間で3年は長いんだ! それに、お前と違ってメイはお前が断るかもしれないって思っているんだぞ! そんな苦痛を長い間味あわせるつもりか!」
クリスは目を見開き宙を見た。
「……そっか、君たちにとって3年は長いんだね」
確かにクリスにとっては3年なんてあっという間だ。だからこそ、大したことないと思ってしまった。
だが、メイには長い時間なのだ。
そこに配慮が足りなかったのは確かなのだが、今告白するのはクリスの主義や倫理観に反する。
少し考えてクリスは結論を出し、ユートに目を向けた。
「たぶん、君やメイが望む答えじゃないけど、メイに話すことにするよ」
「そうか」
なぜか微妙に不愉快そうな顔をするユートを怪訝そうにクリスは見る。
「何でそんな顔をしているんだい?」
無意識だったらしくユートは自分の顔に触れてから大きくため息をついた。
「……正直、メイはともかく、お前のことなんて全く応援したくないんだよ」
「じゃあなんで僕と話をしようとしたんだい?」
クリスが首を傾げていると、ユートはキッと睨み付ける。
「お前がもたもたしているせいで、メイが苦労するのが嫌だったんだ! それに、いつまでも彼女を待たせるようとするお前にイラついたんだ!」
ユートはクリスに向かって怒鳴り、肩で息をする。
クリスは目を丸くしたあと、柔らかく微笑んだ。
「ありがとう」
「ふん!」
ユートはそっぽを向いて鼻を鳴らす。
クリスは気付かれないようにそっと息を吐いた。
正直、ユートの方がクリスよりずっといい男だと思う。
そんな彼がメイの気持ちを優先することに心底安心していた。
だが、そんなことを思っているのは情けなさ過ぎるので、絶対に悟られたくないクリスであった。
「……聞かれたくないなら、音を遮断する結界を張ろうか?」
「頼む」
クリスの提案にユートは素直に頷く。
結界を張り終えると、ユートはクリスを突き刺すように真っ直ぐ見た。
そして躊躇ったのちに、おもむろに口を開く。
「お前、メイのことが好きなのか?」
予期しなかった言葉に、クリスはとっさに誤魔化せず、頬が赤くなった。
「……たぶん、そうだよ」
クリスは白状する。なぜかこのことで、ユートに嘘をつくのは抵抗があった。
「たぶん?」
ユートは片眉を吊り上げる。
「自覚したのはついさっきなんだ。それに、彼女はまだ未成年だし」
「それだと何か問題があるのか?」
ユートが怪訝そうに首を傾げる。
「……詳しくは言えないけど、僕は国民の模範であるべき立場なんだ。そして僕の国では未成年に手を出すのは重罪だ。
そんな国で模範となるべき者が未成年に恋慕するのはダメだと思っている」
眉間にシワを寄せているクリスを見て、ユートはポカンとした。
「……お前、魔族の癖に生真面目だな」
「別にそういうわけじゃない。僕自身が未成年に手を出す者を嫌悪しているんだ」
これはクリスの本心である。そういった事件を聞くたび、加害者に激しい嫌悪感を感じていた。
クリスたち魔族にとって、子供というのは守るべき存在であるため、手を出すなど論外だったのだ。
だが、現在言葉にすらしないようにしている想いは、その嫌悪している者たちと大して変わらないものだろう。
「だから、もしもこの想いを伝えるとしてもメイが成人する3年後以降になると思う」
それでも年齢差は激しいが、少なくとも今よりはマシである。
無論、年齢以外にも大量に問題はある。
その問題も3年で片付けられるかはわからない。そもそも3年後、メイと一緒にいるかもわからない。
だからこそ、クリスはこの想いを今は胸に閉じ込めると決めたのだ。
「3年……そんな長い間、何もメイに言わないつもりなのか?」
ユートは信じられないというように目を見開く。
「うん。メイも返事は3年後にって言っていたし」
「それとは意味が違う!」
ユートがなぜ激昂しているのかわからず、クリスは首を傾げる。
「お前たち魔族にとっては3年なんてあっという間かもしれないけど、メイは人間で3年は長いんだ! それに、お前と違ってメイはお前が断るかもしれないって思っているんだぞ! そんな苦痛を長い間味あわせるつもりか!」
クリスは目を見開き宙を見た。
「……そっか、君たちにとって3年は長いんだね」
確かにクリスにとっては3年なんてあっという間だ。だからこそ、大したことないと思ってしまった。
だが、メイには長い時間なのだ。
そこに配慮が足りなかったのは確かなのだが、今告白するのはクリスの主義や倫理観に反する。
少し考えてクリスは結論を出し、ユートに目を向けた。
「たぶん、君やメイが望む答えじゃないけど、メイに話すことにするよ」
「そうか」
なぜか微妙に不愉快そうな顔をするユートを怪訝そうにクリスは見る。
「何でそんな顔をしているんだい?」
無意識だったらしくユートは自分の顔に触れてから大きくため息をついた。
「……正直、メイはともかく、お前のことなんて全く応援したくないんだよ」
「じゃあなんで僕と話をしようとしたんだい?」
クリスが首を傾げていると、ユートはキッと睨み付ける。
「お前がもたもたしているせいで、メイが苦労するのが嫌だったんだ! それに、いつまでも彼女を待たせるようとするお前にイラついたんだ!」
ユートはクリスに向かって怒鳴り、肩で息をする。
クリスは目を丸くしたあと、柔らかく微笑んだ。
「ありがとう」
「ふん!」
ユートはそっぽを向いて鼻を鳴らす。
クリスは気付かれないようにそっと息を吐いた。
正直、ユートの方がクリスよりずっといい男だと思う。
そんな彼がメイの気持ちを優先することに心底安心していた。
だが、そんなことを思っているのは情けなさ過ぎるので、絶対に悟られたくないクリスであった。
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