その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、共闘する19

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 幹部の女は戸惑うが、クリスは構わず続ける。

「その方法について詳しく言うことはできないけど、少なくとも5割以上の確率で帰ることができるよ」

 幹部の女は疑うようにクリスを見たが、彼が嘘をついていないと判断すると目を伏せた。

「……だったらなんで、まだこの世界にいるの?」
「この世界の魔王に文句を言いたいから」

 実は初めは休日だったのと、この世界に対する好奇心で帰らなかったのだが、サーニャたちから魔王の話を聞いてなんとかしなければと思って残ることにした。
 そして魔王について聞けば聞くほど、言いたいことが増えているのである。

「魔王様を倒すつもり?」
「それはまだ決めてない」

 幹部の女は目を見開く。

「勇者って魔王を倒すものだと思っていたわ」
「僕は勇者じゃないから、倒すかどうかは話してから決めたいんだ」

 幹部の女はしばらく呆気に取られた後、フフッと笑った。

「あなた変わっているわね。勇者としても魔族としても」
「ええ……」

 クリスはショックを受ける。クリスは自分の思うままに行動し発言しているつもりなので、変わっているといわれるのは心外である。

「まぁ、そんな変わり者じゃなきゃ、魔王様をいらないなんて言えないわね。
 ……あなたがどこまでできるかわからないけど、とりあえず、マイクのことはお願いするわ」
「……君とマイクはどういう関係なんだい?」

 クリスは気になって聞いた。

「友達よ。本当に数少ない」
「……そっか。じゃあ、僕も友達を助けるためにがんばるよ」

 クリスと幹部の女が微笑みあっていると、ブチッと何かが切れる音がした。
 その方向を見ると、黒い短い髪をした幹部の男が拘束していた蔓草が切断され、逃げ出した。

「なっ……!?」

 クリスは驚くが、すぐに蔓草を操り男を捕らえようとする。エルフたちも矢をつがえた。
 だが、蔓草が追い付く速度や矢を放つより、男が飛行魔法で飛ぶ速度の方が速かった。
 小さくなった男の姿にクリスは唇を噛む。
 幹部の女と話していたとはいえ、男が起きたことも魔法を使ったことにも気がつかなかったのだ。油断していたにもほどがある。

 クリスは彼を拘束していた蔓草を見た。蔓草は1ヵ所で黒く焦げて切れている。おそらく、そこだけに火の魔法を集中させたのだろう。
 クリスが操る蔓草は簡単に魔力でコーティングしているため、多少の魔法には耐性がある。だが、所詮草であるため火に弱い。それでもよほどの魔法の使い手でなければ切断などできないはずなので、男はそれほどの力の持ち主だったようだ。

 それはまだいいが、よくわからないのは「なぜ彼は1人で逃げたのか」である。
 クリスはちらりと残された幹部の2人を見る。彼にはなぜ2人を置いていったのかわからなかった。

「……ツバイは魔王に心から忠誠を誓っているのよ」

 クリスの心を読んだかのように幹部の女が言った。

「あなたが勇者だと知って、一刻も早く伝えようと向かったみたいね」
「なるほど」

 クリスは納得する。確かに勇者の特徴を知るのと知らないとでは、見つけ出す難易度は大きく違う。
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