その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、共闘する14

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「法ってお前、よくそう言うよな。何でだ?」
「個人の感情で判断するよりも理性的だからだよ。刑罰の基準として参考になるからね」

 ヨハンが首を傾げる。

「そういうもんか?」
「そうだよ。例えば、誰かが僕のおやつを食べて僕が怒って相手を殺したらさすがに理不尽だと思うでしょ?」
「……まぁ、そうだな」

 ヨハンは「こいつ、おやつ食べてるのかよ」と別のところが気になったが頷いた。

「こういう時は法の窃盗罪を参考にするんだ。これなら鞭打ちとか罰金で済むし」
「……おやつで鞭打ちも十分理不尽だろ」

 ヨハンの呟きにクリスは苦笑する。

「例えだからね。実際は謝罪で許すよ。
 じゃあ、こういうのは? 僕が人間から何かを盗んだとする。そして捕まって、人間たちは僕が魔族だから殺すことにした」
「……嫌な例えだな」

 クリスは眉間にシワを寄せるヨハンに苦笑した。

「でもあり得るでしょ? こういう時、種族や立場に偏見を持たずに罰するために、法が便利なんだ」
「でもさ、法の方がおかしかったらどうするんだ? 魔族なら死刑みたいなのとか」

 的を得た質問にクリスはにっこり笑った。

「そういう時は法の方を変えるんだ」
「法を変える?」

 ヨハンがキョトンとする。

「そう。法が個人で判断するよりマシだといっても、法も誰かが作ったものだから完全というわけではない。僕も過信はしていないし。
 そういう時は法の方を変えるよう働きかけるんだ」
「でも、それって難しくないか?」

 今度はクリスの方がキョトンとした。

「難しい?」
「だってそれって貴族とか偉い奴らしかできないことだろ?」

 ヨハンの疑問でクリスは納得する。

「そっか、君たちの国はそうなんだね。
 僕の国では申請して訴えれば、誰でも法の改正に関わることができるよ」
「そうなのか!?」

 ヨハンは目を見開く。

「うん。まぁ、改正されるかは上が判断するけどね。でも最低、審議はされるよ」
「……結局偉い奴らが判断するのか」

 少し残念そうなヨハンにクリスは苦笑する。

「個人的な要望を全部聞くと矛盾が生じたり、一部の者だけが得することになったりするからね。
 でも最終的に施行されるかはグリムが判断するから安心だよ」
「……グリムって確か剣だよな?」

 なぜか目がさまよっているヨハンに、クリスは頷いた。

「うん。グリムは心のあり方がわかるんだ。だから、私的な欲望とかでその法が作られてないか判断してくれるんだよ」
「それって確かシャルルもそうだよな。どういうことなんだ?」

 この疑問にはシャルルが答える。

「俺はそいつが基本的にどういう動機で行動するのかがわかるんだ。ただ己の欲望のために行動しているとか、悪意があるとか、誰かのことを考えて行動しているとかな。心が読めるとは違うな」
「違うのか?」
「違う。あくまでなんだ。
 そうだな、例えば性格が悪くてずる賢い奴でもそのずる賢さを誰かを助けるために使うのと、自分の欲望のために使うのでは全然違うだろ?」
「……なるほど」
「だから俺は、例え性格が悪くて腹が黒い奴でも、それを誰かを守るために使う奴は評価するし、逆に純粋な奴でも自分の欲望のまま行動する奴は拒絶するんだ」
「そうなんだ……」

 ヨハンは目を見開く。そしてクリスを見た。

「じゃあ、お前がクリスを選んだのもクリスの心のあり方が良かったからか?」
「ああ。こいつはお前に比べるとひねくれているけどな」
「ひねくれているって……」

 クリスが何か言いたそうにするが、シャルルはどこ吹く風だ。

「ひねくれているだろ? 素直に助けたいとか言わないでいろいろ理由を付けるところとかさ」

 シャルルの説明にヨハンもうんうんと頷いた。

「……まぁ、ヨハンの方が素直なのは確かだしね。なら、ヨハンを選べば良かったんじゃないかい?」

 クリスが渋い顔で言うと、シャルルは唸る。

「うーん、こいつは素直で純粋な分、染まり易いというか、影響を受けやすいころがあるからな……黒にも染まり易い危険があるというか」
「あー」

 クリスは納得する。確かにヨハンにはそういう危うさがある。

「え、それってどういうことだ?」
「君は周りの者たちの影響を受けやすいから、周りが悪い者や偏った思考の持ち主ばかりだと、同じになりやすいってこと」

 本人がわかっていないので、クリスは簡単に説明した。

「……俺、そんなに単純なのか」
「……それが君のいいところでもあるんだけどね」

 落胆するヨハンにクリスは一応フォローした。
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