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魔王、共闘する13
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クリスが魔族の男を拘束し気絶させた後、他の仲間だと思われる魔族も拘束する。
今回は村に幹部が来る前に捕まえる作戦だったが、うまくいったようだ。そのために戦える者は分散し、どこから来るかわからない魔族に備えた。
正直、相手も分散したり何か策を立てているかとも思ったが、真っ直ぐまとまって来たので杞憂だったようだ。
クリスは倒れているヨハンに近づき、回復魔法をかける。
怪我が治り動けるようになったヨハンは、なぜか胡座をかいてうつむいた。
「どうしたんだい?」
クリスが聞くが、ヨハンは顔を上げない。
「……自分が情けなくてさ」
ポツリと呟かれた言葉には落胆の色が濃かった。
「俺、少しは強くなったと思っていたんだ。けど、あいつの剣を飛ばしたところで油断してしまった。それに……」
ヨハンはクリスを見て苦笑いする。
「俺、全くわかっていなかったんだよな。戦いって負けたら死ぬこともあるし、こっちが誰かの命を奪うこともあるんだってさ。今日、殺されそうになって初めて気づいたんだ。情けないよな」
そして遠くを見る。
「俺さ、魔王を倒すって息巻いていたくせに、それが魔王を殺すことってわかってなくて、しかもその殺す覚悟とか全くなかったんだからな」
「殺すだけが倒す方法じゃないよ」
クリスが言うと、ヨハンは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「お前はそうだろうな。けど、俺は殺す以外の方法を考えてなかったんだ」
「これから考えればいいよ」
ヨハンはクリスをじっと見た。
「なぁ、お前は人間の村を襲撃したり、エルフに強引に仲間になれって脅す魔王と話ができるって思っているのか?」
「会わないとわからないけど、可能性はあると思っているよ」
クリスが苦笑すると、ヨハンはため息をつく。
「お前はすごいよな。俺には無理だ」
「……たぶん、立場が違うからだと思う」
クリスは少し考えて言う。
「どういうことだ?」
「ヨハンは人間で、人間の味方だから魔王っていうのは倒さなきゃいけない敵って感じているんだ。
けど僕は魔族で、人間の完全な味方とは言えないような立場だから敵に対して容赦ない魔王を仕方ないって思ってしまうんだよ」
ヨハンが目を瞬く。
「仕方ない?」
「うん。だって君も敵対した相手なら容赦しないところがあるでしょ? 実際、この世界で初めて会った時はオークを斬ろうとしていたし」
「それは……」
ヨハンはいい淀む。確かにクリスの言う通りだった。
「それが正しいんだ。僕だって敵と思った者には容赦しないよ。法には従うけど」
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「どうしたんだい?」
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「どういうことだ?」
「ヨハンは人間で、人間の味方だから魔王っていうのは倒さなきゃいけない敵って感じているんだ。
けど僕は魔族で、人間の完全な味方とは言えないような立場だから敵に対して容赦ない魔王を仕方ないって思ってしまうんだよ」
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「仕方ない?」
「うん。だって君も敵対した相手なら容赦しないところがあるでしょ? 実際、この世界で初めて会った時はオークを斬ろうとしていたし」
「それは……」
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