その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、共闘する11

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「は!?  嘘だろ!?」

 ダガンは目を大きく見開いた。
 風に耐えているわけでも踏ん張っているわけでもない。その者はまるでそこが無風であるかのように悠然と歩いている。

「あー、本当に影響受けないんだな」

 そうのんびり言いながら出てきたのは、まだ少年といってもおかしくない年齢の人間の男だった。

「何なんだ、お前は!?」

 ダガンは冷や汗をかきながら警戒する。魔力で障壁を作って防いでいるのならまだわかる。だが、少年からは魔力をほとんど感じなかった。

「俺は、えーと、勇者だ!」

 言い慣れていないのか顔を若干赤くする少年にダガンは眉をひそめる。

「嘘をつくな! 聞いていた聖剣の形状と違うだろうが!」
「……別の世界の勇者なんだ」

 少年は少し目を泳がせてから、弁明するように言った。

「なるほど、異世界の者か」

 ダガンの言葉に何か引っ掛かったらしく少年は首を傾げるが、のんびり考えさせるつもりはない。
 ダガンはいくつかの火球を少年に向けて放った。

「うわっ!?」

 慌てていくつか避けるが、そのうちの1つが当たる。

「うわー!? ……あ、何の影響もないんだった」
(やはりこいつには魔法が効かないのか……)

 火球が当たったところが無傷なところを見て、ダガンは確信する。
 だから戦法を変えることにした。
 ダガンは腰に帯びている剣を抜き、全身に身体強化魔法をかけて少年に迫る。

「え、うおおぉ!?」

 ダガンの一撃を少年は辛うじて止める。
 それを見てダガンは思わずニヤリと笑みを浮かべた。

 ダガンが本来、得意とする魔法は身体強化魔法だ。
 だが、いくら強いとはいえ、大規模な魔法と比べると馬鹿にされることが多い。
 無論、そういった魔法も鍛え、幹部となるほど強力にはなって見返したが、どこか物足りなさを感じていた。
 それが今は得意な魔法で思う存分戦うことができるのだ。
 ダガンはいつかのために鍛えていた剣を振るえることに高ぶりを感じていた。



 予期しなかった剣での戦いが始まり、打ち合うこと十数回、ヨハンは苦戦していた。

(こいつ、強い!)

 クリスが言っていた通り、身体強化魔法と剣を使う魔族は手強かった。
 人間には出し得ないスピードで剣を繰り出す様は誰もが苦戦するだろう。実際、ヨハンも防戦一方だ。
 だが、それでもヨハンは思う。

(こいつより、クリスの方がずっと強い!)

 なんというか、目の前の魔族は動きが単調なのだ。だからこそ、ヨハンでも防げるのである。おそらく、身体強化魔法に頼っていて、剣自体はそこまで強くないのだろう。
 だからヨハンは攻撃を受けながら冷静に隙を伺う。

「ここだ!」

 ついに見つけた隙にヨハンは剣を思いっきり振る。
 相手の剣を受けるだけで手がしびれたが、剣を飛ばす時はそれ以上だった。
 しかし相手の剣は小さいながらも弧を描き宙を舞う。

(勝った!)

 ヨハンは高揚した。クリスが「まだ相手をしない方がいい」と言ったタイプの魔族に勝ったのだ。
 あとは剣を突き付けて降参を促せばいいだけだ、と思った矢先である。

「ふざけるな!」

 そう低く殺気に満ちた声が聞こえた瞬間、ヨハンは腹部に衝撃を受けた。
 相手の魔族の顔が近くにあり、腹を殴られたのだと理解すると同時に口から血を吐く。内臓をやられたのかもしれない。
 ヨハンは全身で地面に着地する。聖剣は手から離れてしまった。かろうじて意識はあるが、痛みでうまく体が動かない。
 その間に相手の魔族は剣を拾い、こちらに向かって来る。とどめを刺すつもりだろう。

「お前は確かに手強かった。だが、相手が悪かったな」

 そう言って剣を振りかざされた時、ヨハンは今まで感じたことのない恐怖を覚えた。
 ヨハンはここまでの窮地に立たされたことがない。クリスは命を狙うことはなかったし、バルトと戦った時も圧倒していた。
 だからこそ、初めて感じる恐怖に体が固まる。

 動かないといけない。でも、この魔族の凶刃に今、負傷している自分が対応できるのか?
 聖剣を手放した自分はただの人間だ。そんな自分が魔族に勝てるのか?

 思考だけがぐるぐる回る。

 そして剣が振り下ろされようとした時、強力な魔法が相手の魔族を襲った。

「なに!?」

 かろうじて防いだのか、相手の魔族は無事だったが、それでも人2人分は後ろに飛ばされる。

「大丈夫、ヨハンかい!?」

 そう言って現れたのは、最も頼もしい味方だった。

「クリス……!」
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