その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

文字の大きさ
上 下
112 / 179

魔王、共闘する4

しおりを挟む
「な、仲間割れか?」

 あまりにも手際よく魔物たちを倒したクリスに唖然としながら、エルフは聞いた。

「いや、仲間じゃないから」

 クリスはそう言うと、エルフたちの拘束を解く。
 拘束を解かれたエルフたちは自由になったのにも関わらず、クリスたちを攻撃しなかった。

「それで、魔王に従っていないとはどういうことだ?」
「僕はこの世界の魔族じゃなくて、別の世界から召喚された魔族なんだよ」

 エルフの質問にクリスは簡単に答える。

「別の世界から召喚?」

 クリスは自分が召喚され、旅立った経緯を簡単に説明する。
 説明し終わると、エルフはその端正な顔が台無しになるほど目と口を大きく開けていた。

「……すると、お前は勇者なのか?」
「違う」

 反射的にそう答えると、エルフは訝しげにクリスを見る。

「でも、聖剣に選ばれたのだろう?」
「なぜかそうなんだけど、勇者と呼ばれるのは好きじゃないんだ」

 というよりもとの世界ではむしろ魔王と呼ばれていたのだが、さらにややこしくなるだけなので言わなかった。
 エルフはさらに怪訝な顔をするが、それをスルーしてクリスは気になったことを聞くことにする。

「あの魔族は君たちに何をしたんだい?」

 そう言ってまだ気絶している魔族の男に目を向ける。

「ああ、あの魔族はここ数日、自分たちの仲間になれ、さもなければこの里を襲うと脅していたんだ。
 その度になんとか追い返していたんだが、こちらも無傷で済まなかったし、正直辟易していた」

 そう言って心底うんざりした顔をした。

「それは気の毒だったね」

 クリスも同情する。
 エルフたちに魔王につく理由は全くないのに。
 エルフはクリスに頭をさげた。

「その魔族を捕らえてくれてありがとう。
 そして誤解して攻撃してすまなかった」
「いや、無理もないと思うから、いいよ」

 クリスは苦笑する。
 状況的に誤解されても仕方なかったと思う。
 エルフはフッと微笑む。

「聖剣に選ばれただけあってお前は優しいのだな。
 私はライア。お前の名前は?」
「僕はクリス」
「クリスか、聞きたいことがあるのだが」
「なんだい?」
「この魔法はなんだ?」

 そう言って持ち上げたのはクリスが操っていた蔓草だった。

「この魔法はエルフ特有のものに近い。だが、魔族特有の攻撃性もある。こんな魔法は見たことない」

 通常、エルフの魔法は回復や防御などに特化しており、魔族は攻撃に秀でた魔法を得意とする。この世界でもそれは当てはまるようだ。
 そして植物を操る魔法はエルフが主に使うもので、魔族で使えるのはほとんどいない。しかも通常は植物の成長を促す魔法であるのに、クリスのこの魔法には攻撃性がある。
 なるほど、ライアが不思議がるのも無理はない。

「僕の母方の祖父はエルフだからね。僕はエルフ寄りの魔法も使えるんだ」

 クリスは何でもないことのように言う。
 クリスが植物を操る魔法や他者を回復できる魔法を使えるのもこの血のおかげである。
 ライアは目を見開く。

「エルフと魔族の混血だと?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...