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魔王、選択する20
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「そっか……。じゃあまず、彼らの生活を保障しないとだね」
クリスは考え始めるが、とっさに良い案は浮かばなかった。
「だったら、良い方法があります!」
メイが笑顔で両手を叩いて言う。
「どんな方法だい?」
「その前に、まず、探し物をしなければなりません」
そう言って立ち上がると、歩き始める。
クリスは首を傾げながらも、その背中に付いて行った。
メイは洋館のなかでも立派な扉を開けて、中に入る。
部屋の中を見るに、この部屋は客室などではなくイリエの私室だろう。
その部屋にメイはためらいもなく入っていく。
「え、メイ、勝手に入って……」
「いいのです!」
メイの行動に戸惑うクリスに、少女は笑顔で断言した。
そして家捜しをし始める。
「えっと……ここですかね……?……ん……ないですね……」
困惑して突っ立っているクリスを尻目に、メイは何かを探していた。
目的の物はこの部屋になかったらしく、しばらくすると立ち上がってクリスに笑顔を向ける。
「次の部屋に行きましょう!」
その笑顔には有無を言わせぬものがあり、クリスは大人しく頷くしかなかった。
いくつかの部屋を訪ねて、目的の物があったのは7部屋目だった。
「ありました!」
メイの満面の笑みとは対照的に、クリスの顔はひきつっている。
目の前にあるのはそれはもう立派な金庫だった。
「えーと、メイ、まさかだけどこの金庫が目的なのかい?」
「いいえ、もちろん、中身の方です!」
それはそうだろう。まさか金庫本体が目的な者はほとんどいない。
「メイ、それって泥棒じゃ……」
「何言っているんですか! この家の子たちが暮らしていくために使うのですよ? どう考えても正当な理由です!」
それはどうなんだろう、とクリスは首をひねる。
「それに、改造魔物を作るにはおそらく資金が必要です。なら、減らしておけば妨害になるのでは?」
メイの囁きにクリスは一理あるかもとちょっと納得してしまう。
メイは鍵を開けようと、ダイヤルを左右に回し始める。
首をひねりながら金庫を開けようとする姿にクリスは苦笑した。
「ちょっと離れて」
クリスに言われてメイは金庫から離れる。
クリスは掌を金庫に当て、火の魔法を使う。
金庫の扉が溶け、穴が空いた。
「……相変わらず、すごいですね」
感嘆してメイは息を吐くが、クリスは苦笑する。
「完全に燃やすか溶かす以外は役に立たないよ。お肉を焼くとか」
「……こちらの方がすごいと思うのですが」
「どんなに頑張っても燃やし尽くす炎は、意外と不便だよ」
物を温めると灰にしたり、鍋ごと燃えてしまった記憶をクリスは思い出す。
専門の者から言われたのは「相性が良すぎてちょっとの魔力でも多大な効果を発揮している」らしいのだが、400年以上生きても未だコントロールが下手なのはどうなんだろう。
「クリス様?」
遠い目をしていたクリスを不審に思ってメイが声をかける。
クリスは首を振って雑念を振り払った。
「あ、いや、お金、結構あるね」
クリスが金庫の中を指指すと、そこには金貨や銀貨が大量にあった。
「ええ、これなら当分の彼らの生活は困らないと思います」
メイは笑顔で頷く。
クリスも金の重要性は理解しているつもりだったが、この方法は思いつかなかった。自分たちの資金の何割どころか全額出しても彼らを養うには不十分だっただろう。
だが、ここにあるのは、彼らがきちんと成長し、大人になるまでに十分ある資金だった。
「君はすごいな……」
クリスの素直な賛辞にメイは頬を赤くする。
「こ、これくらい当然です! あの方、貴族のようでしたし、お金くらい山ほどあることは見当がつきました」
クリスは納得して頷く。
「なるほど、貴族か」
ヒオン国にも昔はあったらしいが、今は貴族という制度は廃止され、身分関係なく役職につけるようになっている。
なのでその視点はクリスにとって盲点だった。
「それで、そのお金は彼らに渡すのかい?」
クリスが聞くと、メイは首を横に振る。
「いいえ、それだとあっという間に使い果たしてしまうでしょう。私にいい方法があります」
そして、クリスの方を見て、にっこりと笑った。
クリスは考え始めるが、とっさに良い案は浮かばなかった。
「だったら、良い方法があります!」
メイが笑顔で両手を叩いて言う。
「どんな方法だい?」
「その前に、まず、探し物をしなければなりません」
そう言って立ち上がると、歩き始める。
クリスは首を傾げながらも、その背中に付いて行った。
メイは洋館のなかでも立派な扉を開けて、中に入る。
部屋の中を見るに、この部屋は客室などではなくイリエの私室だろう。
その部屋にメイはためらいもなく入っていく。
「え、メイ、勝手に入って……」
「いいのです!」
メイの行動に戸惑うクリスに、少女は笑顔で断言した。
そして家捜しをし始める。
「えっと……ここですかね……?……ん……ないですね……」
困惑して突っ立っているクリスを尻目に、メイは何かを探していた。
目的の物はこの部屋になかったらしく、しばらくすると立ち上がってクリスに笑顔を向ける。
「次の部屋に行きましょう!」
その笑顔には有無を言わせぬものがあり、クリスは大人しく頷くしかなかった。
いくつかの部屋を訪ねて、目的の物があったのは7部屋目だった。
「ありました!」
メイの満面の笑みとは対照的に、クリスの顔はひきつっている。
目の前にあるのはそれはもう立派な金庫だった。
「えーと、メイ、まさかだけどこの金庫が目的なのかい?」
「いいえ、もちろん、中身の方です!」
それはそうだろう。まさか金庫本体が目的な者はほとんどいない。
「メイ、それって泥棒じゃ……」
「何言っているんですか! この家の子たちが暮らしていくために使うのですよ? どう考えても正当な理由です!」
それはどうなんだろう、とクリスは首をひねる。
「それに、改造魔物を作るにはおそらく資金が必要です。なら、減らしておけば妨害になるのでは?」
メイの囁きにクリスは一理あるかもとちょっと納得してしまう。
メイは鍵を開けようと、ダイヤルを左右に回し始める。
首をひねりながら金庫を開けようとする姿にクリスは苦笑した。
「ちょっと離れて」
クリスに言われてメイは金庫から離れる。
クリスは掌を金庫に当て、火の魔法を使う。
金庫の扉が溶け、穴が空いた。
「……相変わらず、すごいですね」
感嘆してメイは息を吐くが、クリスは苦笑する。
「完全に燃やすか溶かす以外は役に立たないよ。お肉を焼くとか」
「……こちらの方がすごいと思うのですが」
「どんなに頑張っても燃やし尽くす炎は、意外と不便だよ」
物を温めると灰にしたり、鍋ごと燃えてしまった記憶をクリスは思い出す。
専門の者から言われたのは「相性が良すぎてちょっとの魔力でも多大な効果を発揮している」らしいのだが、400年以上生きても未だコントロールが下手なのはどうなんだろう。
「クリス様?」
遠い目をしていたクリスを不審に思ってメイが声をかける。
クリスは首を振って雑念を振り払った。
「あ、いや、お金、結構あるね」
クリスが金庫の中を指指すと、そこには金貨や銀貨が大量にあった。
「ええ、これなら当分の彼らの生活は困らないと思います」
メイは笑顔で頷く。
クリスも金の重要性は理解しているつもりだったが、この方法は思いつかなかった。自分たちの資金の何割どころか全額出しても彼らを養うには不十分だっただろう。
だが、ここにあるのは、彼らがきちんと成長し、大人になるまでに十分ある資金だった。
「君はすごいな……」
クリスの素直な賛辞にメイは頬を赤くする。
「こ、これくらい当然です! あの方、貴族のようでしたし、お金くらい山ほどあることは見当がつきました」
クリスは納得して頷く。
「なるほど、貴族か」
ヒオン国にも昔はあったらしいが、今は貴族という制度は廃止され、身分関係なく役職につけるようになっている。
なのでその視点はクリスにとって盲点だった。
「それで、そのお金は彼らに渡すのかい?」
クリスが聞くと、メイは首を横に振る。
「いいえ、それだとあっという間に使い果たしてしまうでしょう。私にいい方法があります」
そして、クリスの方を見て、にっこりと笑った。
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