その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、選択する19

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 クリスは彼らの首輪を次々外す。

「どうしよう……」

 全員の首輪を外し終わった時、少年たちから発せられた言葉は解放された喜びではなく戸惑いだった。
 そしてクリスに非難の目を向ける。

「どうしてくれるんだ、お前!」
「これじゃ、この家に居られないじゃないか!」
「俺たちこれからどうすればいいんだ!」

 クリスは唖然とした。

「……君たちは奴隷でいたかったのかい?」

 少年たちは顔を見合わせる。

「そういうわけじゃないんだけどさー」
「でも、文字教えてもらえるからねぇ」
「村にいた時よりいい生活だったぞ!」

 口々に言う少年たちにクリスは目眩がした。
 つまりここの奴隷の生活は普通に暮らすよりもずっと豊かだったらしい。
 だから奴隷でも良かったのだと。

「……君たちは自由でいたくないのかい?」

 少年たちは戸惑って首を傾げる。

「んー、どうだろう?」
「飯食い放題ならいいかな」
「働かなくていいならいいな」

 クリスは頭を抱えた。
 クリスがいたヒオン国が掲げているのは平和とである。
 自由とは己の意志で選択することだと思っている。
 無論、他者の自由を侵害しないよう法による規制はあるが、それでもできる限りの自由を保障できるよう尽力している。
 そんな国の王だからこそ、クリスは今までなるべく他者の意志を尊重してきた。
 だが、彼らは自由よりも安定した鎖に繋がられた生活の方が良いという。
 彼らが自由を望んでなかったことにクリスは今までの考えの根底を覆された気がした。
 だが、彼らを改造魔物たちのような目に遇わせるわけにはいかないから、クリスは前を向いて自分のすべきことをする。

「君たちをこれから近くの村に預けることにするから、いろいろ準備してくる。だから待ってて」

 部屋から出て行こうとするクリスの背中に、少年たちの会話が突き刺さる。

「えー、村で?」
「ここの方がずっといいのに」
「自由なんかいらなかったのにね」



 部屋を出た途端、クリスは肩を落としてうつむく。少年たちの前では張っていた虚勢がなくなったからだ。
 このままうずくまって何もかも放棄したい衝動に駆られたが、意地と使命感でなんとか歩を進める。

「どうされました?」

 声をかけられたので見るとメイが心配そうな顔をして立っていた。
 クリスは慌てて背筋を伸ばし、笑顔を作る。

「何でもないよ」

 するとメイはずんずんとクリスに近づき、パンッと勢いよくその頬を挟んだ。

「虚勢張るのはいい加減にしてください!
 言いましたよね、私たちを頼ってくださいって」

 クリスは再びうなだれた。

「……今日は君に情けない姿ばかり見せるね」

 なんとか支えていたものがポキンと折れて立ってられずうずくまる。

「ク、クリス様?」

 メイはさすがに驚き、クリスに目線が合うようしゃがむ。

「僕は間違っていたのかな……」

 そして先ほどのことをポツリポツリと話した。
 メイはまた静かに頷きながら聞く。
 あらましを話し終えたあと、クリスはメイに問いかけた。

「メイはどう思う?」

 クリスがメイに話したのは、単純に弱気になっていただけでなく、この世界の人間側の意見を聞きたかったからだ。
 メイは少し考え込んでから口を開く。

「クリス様のいた国は豊かなのですね」

 突然の言葉にクリスはきょとんとする。

「豊か、なのかなぁ?」

 考えるクリスにメイは頷いた。

「はい、とても豊かな国だと思います。
 話を聞いていると、こちらの国と教育も福祉も文化も大きく違います。
 クリス様はあまり人間の住むところの事情を知らないためあまりわかっていないようですが、私が聞く限り、クリス様の国はとても住み心地が良さそうです」

 クリスは目を丸くする。自分の国が他と比べてどうかなど考えたことがなかった。

「それに比べて、この国は貧しいのです。
 だから、自由よりも豊かさを求めてしまうのです」

 クリスはハッとすると、メイは笑って頷いた。

「この国の人々に必要なのは、まず、衣食住を保障されることなのです。
 だからこそ、奴隷でも構わない者がいるのです」

 クリスは村に預ければなんとかなるだろうと安易に考えた自分を恥じた。ここはクリスがいた国ではないのだから、社会も違うというのに。

「クリス様の言うことも間違いではありません。
 ですが、優先順位が違うのです」

 メイに言われて凝り固まっていた思考がほぐれていく。
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