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魔王、選択する15
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「やること、何かやることは……」
クリスはブツブツと呟いて部屋を彷徨う。
仕事はともかく、身の回りの世話を他者にやらせることが多かったクリスができることは意外と少ない。
いつもなら大して気にしないが、何かやらなければ落ち着かない現状では何をすればいいかわからないことが悔やまれた。
とりあえず、本日何度目かになる荷物の確認をし、意味もなく廊下をうろついていたときだった。
「クリス様?」
声のした方に顔を向けると、人間の少女が目を擦りながら立っていた。
「メイ……」
クリスは少女の名を呟く。
何を言おうか考えていると、メイの眠そうな目がだんだん大きく見開かれた。
何に驚いているのか首を傾げていると、メイが小走りで近づいて来る。
そしてクリスの目の前まで到達すると、真剣な顔でクリスの頬に手を添えた。
「どうしたのですか!? 顔色がものすごく悪いですよ!?」
思った以上に顔に出ていたことにクリスは驚く。
「あ、いや、これは……」
クリスは説明しようとしたが、うまく言葉が出なかった。
その様子をメイはじっと見ていたが、ふっとクリスに微笑む。
「何があったのか知りませんが、無理に話さなくて大丈夫ですよ」
「いや、でも、今後に関わることだから……」
「なら、落ち着いた時に話してください。
今、クリス様に必要なのは休養です」
そう言うと、メイはクリスの手を引き、食堂につれ来た。
「うまく淹れられるかわかりませんが、お茶を飲みましょう」
お茶を淹れにキッチンまで行く。
クリスも手伝いたかったが、残念ながらお茶の淹れ方を知らなかった。
ぼんやりしているうちに、クリスの目の前に色の濃いお茶が置かれる。
メイは隣に座り、自分の淹れたお茶を飲む。
「……やっぱり侍女の淹れるお茶のようにはいきませんね」
眉をしかめて言う姿に、クリスは思わずクスッと笑ってしまった。
そして自分が笑ったことにクリスはショックを受けて青くなる。
あんなことをしておいて、そんなに時間が経っていないのに、もう笑えるのかと。
「どうされました?」
突然、青くなったクリスにメイが聞く。
「な、なんでもない……」
クリスは慌てて否定するが、むっとしたメイがクリスの顔を両手で挟んだ。
「メ、メイ?」
「嘘をつかないでください!」
さすがに驚くクリスにメイは真っ直ぐ目を見て言った。
「こんなにひどい顔をして何もないなら本当に大変ですよ! 私はクリス様ほど生きていませんが、少しは頼ってください!」
メイの大きな目からぽろぽろと雫が落ちる。
「ええ……!」
クリスはさらに狼狽えた。
とりあえずポケットから出したハンカチで涙を拭うが、涙は絶えず落ちてくる。
すると、メイはクリスを自分の胸に抱き寄せた。
「ちょっ……!」
「なんで私が泣いて、今1番泣きそうなあなたが泣かないのですか!?
確かに私は子供で、いつもクリス様のお世話になっていますが、こういう時くらい無理しないで泣いてください!」
「……僕が泣いていいのかな?」
上から落ちてくる雫を受けながら、クリスはポツリと呟く。
「泣いていいです! 私が許可します!」
「罪もない者を殺したのに?」
メイは一瞬言葉が詰まったが頷いた。
「はい! クリス様が意味もなく誰かを殺すとは思えません! それには必ず理由があるのです! だから、泣いていいのです!」
むちゃくちゃな理由だったのに、なぜかストンと胸に落ちてこわばっていた体の力が抜けた。
「そっか……」
クリスの頬に温かい雫が伝う。
それがどこから流れているのか、クリスは気づかなかった。
クリスはブツブツと呟いて部屋を彷徨う。
仕事はともかく、身の回りの世話を他者にやらせることが多かったクリスができることは意外と少ない。
いつもなら大して気にしないが、何かやらなければ落ち着かない現状では何をすればいいかわからないことが悔やまれた。
とりあえず、本日何度目かになる荷物の確認をし、意味もなく廊下をうろついていたときだった。
「クリス様?」
声のした方に顔を向けると、人間の少女が目を擦りながら立っていた。
「メイ……」
クリスは少女の名を呟く。
何を言おうか考えていると、メイの眠そうな目がだんだん大きく見開かれた。
何に驚いているのか首を傾げていると、メイが小走りで近づいて来る。
そしてクリスの目の前まで到達すると、真剣な顔でクリスの頬に手を添えた。
「どうしたのですか!? 顔色がものすごく悪いですよ!?」
思った以上に顔に出ていたことにクリスは驚く。
「あ、いや、これは……」
クリスは説明しようとしたが、うまく言葉が出なかった。
その様子をメイはじっと見ていたが、ふっとクリスに微笑む。
「何があったのか知りませんが、無理に話さなくて大丈夫ですよ」
「いや、でも、今後に関わることだから……」
「なら、落ち着いた時に話してください。
今、クリス様に必要なのは休養です」
そう言うと、メイはクリスの手を引き、食堂につれ来た。
「うまく淹れられるかわかりませんが、お茶を飲みましょう」
お茶を淹れにキッチンまで行く。
クリスも手伝いたかったが、残念ながらお茶の淹れ方を知らなかった。
ぼんやりしているうちに、クリスの目の前に色の濃いお茶が置かれる。
メイは隣に座り、自分の淹れたお茶を飲む。
「……やっぱり侍女の淹れるお茶のようにはいきませんね」
眉をしかめて言う姿に、クリスは思わずクスッと笑ってしまった。
そして自分が笑ったことにクリスはショックを受けて青くなる。
あんなことをしておいて、そんなに時間が経っていないのに、もう笑えるのかと。
「どうされました?」
突然、青くなったクリスにメイが聞く。
「な、なんでもない……」
クリスは慌てて否定するが、むっとしたメイがクリスの顔を両手で挟んだ。
「メ、メイ?」
「嘘をつかないでください!」
さすがに驚くクリスにメイは真っ直ぐ目を見て言った。
「こんなにひどい顔をして何もないなら本当に大変ですよ! 私はクリス様ほど生きていませんが、少しは頼ってください!」
メイの大きな目からぽろぽろと雫が落ちる。
「ええ……!」
クリスはさらに狼狽えた。
とりあえずポケットから出したハンカチで涙を拭うが、涙は絶えず落ちてくる。
すると、メイはクリスを自分の胸に抱き寄せた。
「ちょっ……!」
「なんで私が泣いて、今1番泣きそうなあなたが泣かないのですか!?
確かに私は子供で、いつもクリス様のお世話になっていますが、こういう時くらい無理しないで泣いてください!」
「……僕が泣いていいのかな?」
上から落ちてくる雫を受けながら、クリスはポツリと呟く。
「泣いていいです! 私が許可します!」
「罪もない者を殺したのに?」
メイは一瞬言葉が詰まったが頷いた。
「はい! クリス様が意味もなく誰かを殺すとは思えません! それには必ず理由があるのです! だから、泣いていいのです!」
むちゃくちゃな理由だったのに、なぜかストンと胸に落ちてこわばっていた体の力が抜けた。
「そっか……」
クリスの頬に温かい雫が伝う。
それがどこから流れているのか、クリスは気づかなかった。
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