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魔王、選択する14
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「なんだネズミか」
どこから入って来たかわからないが、やけにきれいな毛並みのネズミで、目が宝石のように赤い。
このネズミをどこかで見たような気がするのだが、思い出せなかった。
イリエはネズミを追い払うために手を伸ばす。
すると、ネズミはイリエの手に飛びかかり、カプッと指を噛んだ。
「は……?」
あまりのことに痛みよりも驚きが勝って呆然としていると、ネズミはジュルルと血を飲み始めた。
「は!? なんだ、こいつ!?」
イリエは腕を振り回すが、ネズミは離れない。
もう片手でネズミを引き剥がそうとした時、イリエの体に激痛が走る。
「ぐわぁ……!」
「ようやく、効きましたか」
イリエが痛みでうずくまっていると、頭上から男の声がした。
なんとか顔を上げると、白い髪と赤い目をした男がこちらを見下ろしている。
男の頭にはねじ曲がった角が生えていた。
「魔族か……!」
イリエは男を睨み付けると、男は皮肉げに笑う。
「まぁ、魔族でもありますが、それ以外でもあります」
何のことだとイリエが思っていると「ちょうどいい物がありましたね」と男が持ってきたのは鏡だった。
そこに写し出された顔を見た時、イリエは驚愕する。
自分の顔が青白く、死人のように生気がなくなっている。
そして犬歯が鋭く尖り、伸びて牙となっていた。
「なんだ、これは……!」
男は口元だけを歪め、微笑む。
その目は侮蔑と嘲りで冷えきっていたが。
「良かったですね。あなたは化け物になったのですよ。
この世でもっとも不自由な下級の吸血鬼に」
ジョセフは怒り狂っていた。
主に酷な決断をさせ、一方的に罵ったこの人間を許せなかったからだ。
本当は再生不可能なほど細かく八つ裂きにしてやりたいが、それを主は望まないだろうから、別の方法で憂さ晴らしをした。
イリエを下位の吸血鬼にすることによって。
「吸血鬼? 私は超人になったのか!」
「そんなわけないでしょう」
一瞬目を輝かせたイリエにジョセフは吐き捨てる。
「は? 私は吸血鬼に……」
「下位の吸血鬼ですよ。つまり私の下僕です。
身体能力は人間とたいして変わりませんが、不死身ではありますね。
それでは、うるさいので自分の腕を咥えて床に這いつくばってください」
再び目を輝かせたイリエに、ジョセフは冷たく命じる。
きょとんとしたイリエの口に自身の腕が無理やり突っ込まれ、そのまま床に倒れた。
「あがが……!?」
イリエは何か言おうとしたが、口に咥えさせられた腕が邪魔で呻くことしかできない。
腕に尖った牙が刺さって血が流れる。
「言ったでしょう、下僕だと。つまり、あなたは私に逆らえないのですよ」
ジョセフが行ったのは吸血鬼が下僕を作るための呪いをイリエに感染させることだった。
下位の吸血鬼であるためたいして強くはなく、日の光であっという間に灰になるほど弱い。そのくせ吸血衝動はきちんとあり、不老不死ではある。
そんな存在にイリエをしたのだ。
「それでは、私はこの部屋を出て行きますが、あなたはこの部屋から出ないでください。
明日になれば咥えるのを止めて立って隣の部屋には行っていいですが、地下からは一生出ることを許しません」
「んががが……!」
イリエはジョセフを睨むだけで動けなかった。
そんな存在にもはや目をくれず、ジョセフは隣の部屋にいる主のもとに向かう。
どこから入って来たかわからないが、やけにきれいな毛並みのネズミで、目が宝石のように赤い。
このネズミをどこかで見たような気がするのだが、思い出せなかった。
イリエはネズミを追い払うために手を伸ばす。
すると、ネズミはイリエの手に飛びかかり、カプッと指を噛んだ。
「は……?」
あまりのことに痛みよりも驚きが勝って呆然としていると、ネズミはジュルルと血を飲み始めた。
「は!? なんだ、こいつ!?」
イリエは腕を振り回すが、ネズミは離れない。
もう片手でネズミを引き剥がそうとした時、イリエの体に激痛が走る。
「ぐわぁ……!」
「ようやく、効きましたか」
イリエが痛みでうずくまっていると、頭上から男の声がした。
なんとか顔を上げると、白い髪と赤い目をした男がこちらを見下ろしている。
男の頭にはねじ曲がった角が生えていた。
「魔族か……!」
イリエは男を睨み付けると、男は皮肉げに笑う。
「まぁ、魔族でもありますが、それ以外でもあります」
何のことだとイリエが思っていると「ちょうどいい物がありましたね」と男が持ってきたのは鏡だった。
そこに写し出された顔を見た時、イリエは驚愕する。
自分の顔が青白く、死人のように生気がなくなっている。
そして犬歯が鋭く尖り、伸びて牙となっていた。
「なんだ、これは……!」
男は口元だけを歪め、微笑む。
その目は侮蔑と嘲りで冷えきっていたが。
「良かったですね。あなたは化け物になったのですよ。
この世でもっとも不自由な下級の吸血鬼に」
ジョセフは怒り狂っていた。
主に酷な決断をさせ、一方的に罵ったこの人間を許せなかったからだ。
本当は再生不可能なほど細かく八つ裂きにしてやりたいが、それを主は望まないだろうから、別の方法で憂さ晴らしをした。
イリエを下位の吸血鬼にすることによって。
「吸血鬼? 私は超人になったのか!」
「そんなわけないでしょう」
一瞬目を輝かせたイリエにジョセフは吐き捨てる。
「は? 私は吸血鬼に……」
「下位の吸血鬼ですよ。つまり私の下僕です。
身体能力は人間とたいして変わりませんが、不死身ではありますね。
それでは、うるさいので自分の腕を咥えて床に這いつくばってください」
再び目を輝かせたイリエに、ジョセフは冷たく命じる。
きょとんとしたイリエの口に自身の腕が無理やり突っ込まれ、そのまま床に倒れた。
「あがが……!?」
イリエは何か言おうとしたが、口に咥えさせられた腕が邪魔で呻くことしかできない。
腕に尖った牙が刺さって血が流れる。
「言ったでしょう、下僕だと。つまり、あなたは私に逆らえないのですよ」
ジョセフが行ったのは吸血鬼が下僕を作るための呪いをイリエに感染させることだった。
下位の吸血鬼であるためたいして強くはなく、日の光であっという間に灰になるほど弱い。そのくせ吸血衝動はきちんとあり、不老不死ではある。
そんな存在にイリエをしたのだ。
「それでは、私はこの部屋を出て行きますが、あなたはこの部屋から出ないでください。
明日になれば咥えるのを止めて立って隣の部屋には行っていいですが、地下からは一生出ることを許しません」
「んががが……!」
イリエはジョセフを睨むだけで動けなかった。
そんな存在にもはや目をくれず、ジョセフは隣の部屋にいる主のもとに向かう。
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