その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、選択する11

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 イリエが小さく悲鳴を上げるがそれに構わず、クリスは掴みかかろうとする。

「助けろ!」

 イリエが叫ぶと、檻から出ていた改造済みの魔物がクリスを横から体当たりした。

「ぐっ!」

 背中を檻の鉄格子で強打したクリスは一瞬、息が詰まる。
 短く呻いた後、顔を上げて改造魔物を見るとクリスの目は大きく見開かれた。

「……リュ、ウ」

 大型の狼のような魔物から生えている黒髪の子どもの顔は、今日親しく話していた少年のものだった。

「ああ、その奴隷はあなたの案内を頼んでいましたね。これは先ほど完成した最高傑作です!」

 イリエの喜びに満ち溢れる叫びに、クリスの頭に再び血が昇る。

「イリエェェェー!」

 魔力を込めた右手で殴りつけようと、振りかぶる。
 だが、その間をリュウの改造魔物が遮り、襲いかかる。
 クリスはとっさに鞘のついたままのシャルルでその爪を受け止めた。

「リュウ、僕だ! どいてくれ!」

 クリスはリュウに呼び掛けるが、洗脳魔法のせいかどこか虚ろな瞳は何も映さない。

「ああ、そうですね。実戦はまだでした。
 ちょうどいい」

 イリエが指を鳴らすと、部屋中の檻の鉄格子が開いた。
 そこから様々な改造魔物が飛び出す。

「お前たち、この愚かな勇者を殺しなさい!」

 イリエは改造魔物たちに命じると、自分はさっさと部屋の隅で腕を組んで見物する。
 クリスはイリエに迫ろうとするが、改造魔物たちが襲って来てそれは叶わない。

「くっ!」

 クリスはとっさに魔法で障壁を築く。
 それを改造魔物たちは体当たりして壊そうとする。
 クリスの障壁は強力で、その程度では壊れない。
 だが、何度も骨が折れるのも関わらず体を打ち付けるのを見て、クリスは障壁を解いてしまった。

「あははっ! 勇者ってとんだ甘ちゃんですね!」

 イリエが嘲るが、クリスはそれどころではない。
 迫る爪や牙を鞘のついたままのシャルルで受け止めたり流したり避けたりするので手一杯だった。

「ほらほら、本気でやらないと死にますよ?」

 イリエの煽る声が部屋に響く。

 クリスは迷っていた。

 雷魔法は、今、怒りや悲しみで頭がいっぱいのクリスではコントロールが不安定で過剰にしてしまいそうで使えない。
 攻撃が激し過ぎてポケットの種を取ることができないため、植物での拘束も不可。
 鞘のついたシャルルと体さばき、魔法で小さな障壁を作り出したりして、襲いかかる牙や爪をしのいでいた。

 だが数が多すぎて全てをどうにかできず、服や皮膚に傷ができる。

 それでもクリスは彼らを攻撃しようとは思わなかった。
 彼らはイリエの被害者であり、守るべき子どもだったからだ。
 そんな彼らに刃を向けることは、クリスにはできない。

「あはは、滑稽ですねぇ! 優しい故に私を憎んでも、私の手足となる改造魔物を倒すことができないなんて!」

 イリエの嘲る声がうるさい。

 確かに苦戦しているが、クリスの迷いはそこが原因ではなかった。
 いや、迷っているという表現は間違いかもしれない。
 なぜなら、クリスは何をしようかもうすでに決めているのだから。
 だが、そのしようとしていることはおそらくだから、実行する決心がつかないのだ。

「まぁ、そうなってしまっては普通には生きていけないので、殺すのも慈悲だと思いませんか?」

 イリエの戯れ言で、クリスの中の何かが切れた。

 クリスは戦いながら準備していた魔法を部屋全体に放った。

 清浄な魔力が周囲に広がり、シン、と静寂が場を支配した。
 だが、それだけだった。

「へ……?」

 イリエは目を瞬く。
 魔法を使ったのはわかったのだが、何の変化もない。
 失敗したのだろうと再び口元に笑みを浮かべ嘲ろうとした時だった。

「ギィィャァァー!」
「グラァァァー!」
「グェッグェッグェッ!」

 改造魔物たちが叫び、暴れだした。

「なんだ、お前たち! 静かにしろ!」

 イリエは呼び掛けたが、改造魔物たちは静まらない。
 何が起こったかわからないイリエは目を白黒させる。

「……洗脳魔法とは別に洗脳を解く魔法もあるんだよ」

 そう言ってイリエの前に立ったのは、魔族の勇者だった。
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