その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、選択する8

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 その日の夜、クリスはうまく寝つけないでいた。
 どうやら1度イリエに向けた不信はまだ根づいているようだ。

「僕もまだまだだな……」

 王なら相手を信頼することも重要なのに、とクリスは苦笑する。

 その時、部屋の扉にバンッと何かが乱暴にぶつかる音がした。
 なんだろうとクリスが首をひねっていると、続けざまに、バンッバンッバンッと同じような音が暗い部屋に響く。
 クリスやサーニャ、メイ、オークたちの部屋にはクリスが念のため築いた障壁が張ってある。
 おそらく、外の何かもそれに遮られて中に入って来られないのだろう。

 クリスは寝るために脱いでいたカーディガンを羽織り、服装を整える。
 そして、外の扉にぶつかるのは何かを確かめるために、あえて障壁を解いた。
 バンッバリバリと扉を破って、部屋の中に体当たりしていたものが転がり込む。

「なっ……!?」

 それを見て、クリスは息を飲んだ。

 それは数日前に見た、人間の体の部分を歪に生やしたラヌルだったからだ。
 ラヌルは血まみれで、あちこち骨折しているようだった。
 クリスは近づいて傷の具合を確かめようとする。
 すると、ラヌルの怪しく光る目がクリスを見据えた。
 そして自身の傷も厭わず、クリスに向かってとんでもない勢いで向かって来る。

「わっ!?」

 クリスはとっさに避けた。
 クリスがもといた場所をラヌルは通過する。
 そして壁に体当たりし、新しい骨折箇所が増やし更なる血を流した。
 だが、そんな己の身を省みず、ラヌルは再びクリスの方を睨み付け、飛び立つ予備動作にはいる。

 クリスは鳥肌が立った。
 通常、生き物はここまで自身を傷つけるような攻撃はしない。
 しかもこのラヌルは壁にぶつかる際、減速どころか受身すら取らなかったのだ。
 それだけでなく、正常なら痛みで身動きできないはずだが、そんな素振りすら見せない。
 例えクリスに尋常ならぬ恨みを抱いていても、ここまでくると異常だ。
 そして出てきた答えに、クリスは眉をしかめた。

「洗脳魔法……」

 他者を使用者の思うままに操る魔法だ。
 洗脳魔法には、意志がある状態で無意識に特定の行動をとらせるものもあるが、程度の低いものは、相手をただ言いなりにさせ、最悪、死ぬまで命令を遂行しようとする。
 ヒオン国では使用しただけで重罪となる魔法だ。
 つまり、このラヌルは誰かに操られていることになる。

 そんなことを考えていたら、ラヌルがクリスに迫っていた。

「くっ!」

 なんとか紙一重で避け、気絶する程度の雷魔法を放つ。

「グオォォ!」

 ラヌルは雄叫びを上げて、失神する。
 動かないラヌルを見て、クリスは少しほっとした。
 洗脳魔法の中には、意識を失ってもすぐ回復するように仕込まれているものもあるからだ。
 そして、落ち着いてラヌルを観察すると、クリスは絶句する。

「うそ……だ」

 ラヌルに生えていた人間の部分はすべて子供のものだった。
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