その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、選択する7

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「よかった。僕も君に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「なんですか?」
「ここの生活は大変じゃないと言ったけど、本当かい?」

 リュウは固い表情のクリスを見て瞬くと、苦笑した。

「はい。確かにやることは多いですけど、それは元いた村でも同じでしたし、文字を学ぶなんてこと、ここじゃなきゃできませんでした」

 それに、と続けたリュウの瞳は輝いている。

「ご主人様はしばらく働いた奴隷を解放させてくれる方なんですよ」
「解放?」

 クリスは信じられなくて目を見開く。

「はい。一生懸命働いて文字の読み書きができるようになった奴隷は、ご主人様が働き先を紹介してくださるそうです。僕ももうすぐ解放されるんですよ!」

 よほど嬉しいのか、リュウの頬は高揚で赤くなっていた。

「そっか、いい人なんだね」

 クリスはイリエの第一印象から不快感を持っていたことを恥じた。
 表情や言動が不器用で誤解されやすい者なのかもしれない。

(そういえば、サーニャやオークたちのことを悪く言わなかったな……)

 王として他者を見る目は鍛えているつもりだったが、まだまだ未熟なようだ。
 だが、ふと疑問が湧く。

「リュウ、なんでイリエはこんなところに住んでいるんだい?」

 クリスたちは魔王のところに向かう際、なるべく村や街などの集落を避けている。
 最近はたまに買い物などをするために寄るようになったが、オークたちを近づけないようにはしている。騒ぎになって討伐されたら大変だからだ。
 そして、この洋館はどの人間の集落からも離れていた。

「たしか、昔、住んでいたところで嫌なことがあったから、人里離れたここに屋敷を建てて暮らすようになったと聞いています」
「……そうなんだ」

 リュウも詳しいことは知らないようだし、本人に聞くのも不躾だろう。
 クリスは追求するのをやめた。

 ……後にこの選択を後悔することになるのだが、そのことをクリスは想像すらしていなかった。



 その後、クリスはリュウと他愛ない話をした。
 といっても、クリスが今までのことを話すことが多かったが。
 暗くなる話題は避けて語ったため、リュウは無邪気に楽しむことができた。

「前から薄々思っていたけど、あんた、子供に甘いわよね」

 リュウが仕事に戻った後、クリスの部屋を訪ねたサーニャが言う。

「これくらい普通じゃないかい?」

 クリスが首を傾げる。

「いや、かなり甘いわよ。この間の子供とかメイとか……」

 ベッドの上に座って軽く跳ねながら、サーニャはニヤニヤしながら反論した。
 実際、旅の間もなるべく大きな食べ物をあげたり、メイが疲れているようだったらすぐに休憩をとったりと気遣っていたのだ。
 うーん、とクリスは唸る。

「僕の国では魔族は出生数がすごく少ないから、子供は大事にするように昔から教わっているんだ」
「それって他種族でも?」
「もちろん」

 ふーん、とサーニャは感心したような声を出した。

「私たちも子供は大事にするようには言われているけど、それは同族だけよ。他種族については特に言われていないわ」
「そうなんだ」

 やはり、世界が違うと同じ魔族でも考えが違うようだ。

「まぁ、正直、メイにやさしいだけなら、あんたも満更じゃないのかと思っていたんだけどね」

 サーニャが言っているのはメイの求婚についてだろう。
 クリスは顔をしかめた。

「今のところ、メイのことは妹とか娘のようにしか感じてないよ」

 ベッド上で弾んで遊んでいたサーニャが落ちた。

「どうかしたのかい?」

 なぜかかなり動揺しているサーニャに、目を瞬かせてクリスが聞く。

「い、いや……そうよね。あんた、娘がいてもおかしくない年齢なのよね……」

 サーニャはクリスに聞こえないくらい小声で「かんばれ、メイ」と呟く。
 何をサーニャが言いたいのか察したクリスが眉を寄せた。

「……こう見えて成人して300年以上経っているんだけど」

 大抵の魔族は人間でいう20歳前後で成長が止まるのだが、クリスは他の魔族に比べて小柄な上に童顔なため、未成年と間違われることがある。
 そしてそれを本人も何気に気にしていた。

「あ、いや、わかっているんだけど、たまに、ね」
「……そういえば、君、何の用で来たんだい?」

 この話題を逸らしたかったので、クリスは聞いた。

「あんたの部屋のベッドが私の部屋より良いものだったら交換して貰おうと思ってね。まぁ、同じベッドだったし、別にいいわ」

 サーニャは笑って立ち上がる。
 クリスは呆れてため息をついた。
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