その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、選択する6

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 この洋館の主がいない中、食事は続行された。
 クリスはイリエに対して不快感と不信感があったため、ほとんど食事に手をつけなかった。
 皆の食事が終わる頃、先ほどの奴隷の少年たちが食堂に入って来る。

「寝室の準備が整いました。
 案内しますので、ついて来てください」

 彼らの代表なのか、食事前にクリスと話した黒髪の少年が言う。
 クリスたちが彼らについて行くと、黒髪の少年がチラチラとクリスの方を見た。

「どうかしたのかい?」
「い、いいえ……」

 クリスが聞くと、少年は慌てて首を振る。
 クリスはできるだけ安心させるために微笑んだ。

「何か聞きたいことがあるなら、遠慮なく言ってごらん。怒ったり、告げ口したりしないから」

 少年はしばらく目を彷徨わせたあと、意を決したようにクリスを見た。

「あの、あなたは勇者様なんですよね?」
「……一応、そうらしいね」

 クリスの答えがはっきりしなかったせいか、少年は首を傾げる。
 クリスは少し困った顔をした。

「えっと、僕はシャルル……聖剣に選ばれたらしいんだけど、勇者ってあんまり好きじゃないんだ」
「……魔族だからですか?」

 イリエから聞いていたのだろう。少年がおそるおそる聞く。

「それもあるけど、僕の国では勇者っていいイメージがないんだ。
 実際、僕の国は勇者によく襲撃されたからね」

 クリスは少年をまっすぐ見た。

「だから、僕のことはクリスって呼んで欲しいな。
 それと、君の名前は?」

 少年は自分の名前を聞かれると思っていなかったのか、目を見開く。

「……リュウといいます」
「じゃあ、リュウ、聞きたいことはなんだい?」

 リュウは少し迷ったあと、クリスに聞いた。

「あの、魔王を倒すことはできるのですか?」

 クリスの目が少し見開かれた。
 思い出したのは、以前、クリスを刺した浮浪児の少年だった。

「……君の父親も魔物とかにやられたのかい?」

 リュウは驚いて顔を上げてクリスを凝視する。

「なんで……わかったんですか?」

 クリスは微笑した。
 目には哀愁を漂わせて。

「前に君と同じような子に会ったんだ。
 その子も同じ質問をしていたから……」

 クリスはリュウの目をまっすぐ見る。

「僕は魔王に会ったことがないし、魔王がどんな者か知らない。だから、会って話してから倒すか決めようと思っている。
 まぁ、何発か殴ったり蹴ったりしようとは思っているけど」

 リュウの目が見開く。

「……魔王が悪い奴じゃないかもしれないって思っているんですか?」

 クリスは苦笑した。

「可能性はゼロじゃないって僕は思っている。僕の世界にいた魔王もいろいろ誤解されていただけだったから……」

 この世界の魔王が何を考えているかクリスにはわからない。
 だからこそ、会って話し合うまではどんなに低くても、可能性を捨てることはしたくなかった。
 リュウは何か言いたそうにクリスを見ていたので、クリスは苦笑する。

「君から見たら、僕は優柔不断な勇者で情けなく映るかもしれないね。
 けど、何も話を聞かずに決めつけるのは僕はよくないって思っているんだ。
 そして、これだけは僕は譲れないんだ」

 もちろん、話し合いすら無駄な場合があるだろう。ヒオン国と人間たちのように。
 だからといって、それを試みる前から無駄だと決めつけるのは違うとクリスは思う。
 リュウは俯いた。手は固く握りしめている。
 クリスはそのリュウの頭の上にポンッと手を置いた。

「……僕は君の思いには応えられないけど、魔王が人間たちを襲うならやめさせるつもりだ。それだけは約束するよ」

 リュウはガバッと顔を上げた。

「……本当に?」

 クリスは静かに頷く。

「うん。命に懸けて約束するよ」

 正直、リュウのような子どものことでクリスの腸は煮えくり返っていた。
 そのような子どもをもう出したくなかった。
 だから、普段はしない「命に懸けての約束」をすることにしたのだ。
 王として、生きて国に帰ることが重要であるにもかかわらずに。
 それを知らないリュウは若干不満そうながらも、頷く。

「わかりました」

 クリスは優しく微笑んで頷いた。
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