88 / 179
魔王、選択する6
しおりを挟む
この洋館の主がいない中、食事は続行された。
クリスはイリエに対して不快感と不信感があったため、ほとんど食事に手をつけなかった。
皆の食事が終わる頃、先ほどの奴隷の少年たちが食堂に入って来る。
「寝室の準備が整いました。
案内しますので、ついて来てください」
彼らの代表なのか、食事前にクリスと話した黒髪の少年が言う。
クリスたちが彼らについて行くと、黒髪の少年がチラチラとクリスの方を見た。
「どうかしたのかい?」
「い、いいえ……」
クリスが聞くと、少年は慌てて首を振る。
クリスはできるだけ安心させるために微笑んだ。
「何か聞きたいことがあるなら、遠慮なく言ってごらん。怒ったり、告げ口したりしないから」
少年はしばらく目を彷徨わせたあと、意を決したようにクリスを見た。
「あの、あなたは勇者様なんですよね?」
「……一応、そうらしいね」
クリスの答えがはっきりしなかったせいか、少年は首を傾げる。
クリスは少し困った顔をした。
「えっと、僕はシャルル……聖剣に選ばれたらしいんだけど、勇者ってあんまり好きじゃないんだ」
「……魔族だからですか?」
イリエから聞いていたのだろう。少年がおそるおそる聞く。
「それもあるけど、僕の国では勇者っていいイメージがないんだ。
実際、僕の国は勇者によく襲撃されたからね」
クリスは少年をまっすぐ見た。
「だから、僕のことはクリスって呼んで欲しいな。
それと、君の名前は?」
少年は自分の名前を聞かれると思っていなかったのか、目を見開く。
「……リュウといいます」
「じゃあ、リュウ、聞きたいことはなんだい?」
リュウは少し迷ったあと、クリスに聞いた。
「あの、魔王を倒すことはできるのですか?」
クリスの目が少し見開かれた。
思い出したのは、以前、クリスを刺した浮浪児の少年だった。
「……君の父親も魔物とかにやられたのかい?」
リュウは驚いて顔を上げてクリスを凝視する。
「なんで……わかったんですか?」
クリスは微笑した。
目には哀愁を漂わせて。
「前に君と同じような子に会ったんだ。
その子も同じ質問をしていたから……」
クリスはリュウの目をまっすぐ見る。
「僕は魔王に会ったことがないし、魔王がどんな者か知らない。だから、会って話してから倒すか決めようと思っている。
まぁ、何発か殴ったり蹴ったりしようとは思っているけど」
リュウの目が見開く。
「……魔王が悪い奴じゃないかもしれないって思っているんですか?」
クリスは苦笑した。
「可能性はゼロじゃないって僕は思っている。僕の世界にいた魔王もいろいろ誤解されていただけだったから……」
この世界の魔王が何を考えているかクリスにはわからない。
だからこそ、会って話し合うまではどんなに低くても、可能性を捨てることはしたくなかった。
リュウは何か言いたそうにクリスを見ていたので、クリスは苦笑する。
「君から見たら、僕は優柔不断な勇者で情けなく映るかもしれないね。
けど、何も話を聞かずに決めつけるのは僕はよくないって思っているんだ。
そして、これだけは僕は譲れないんだ」
もちろん、話し合いすら無駄な場合があるだろう。ヒオン国と人間たちのように。
だからといって、それを試みる前から無駄だと決めつけるのは違うとクリスは思う。
リュウは俯いた。手は固く握りしめている。
クリスはそのリュウの頭の上にポンッと手を置いた。
「……僕は君の思いには応えられないけど、魔王が人間たちを襲うならやめさせるつもりだ。それだけは約束するよ」
リュウはガバッと顔を上げた。
「……本当に?」
クリスは静かに頷く。
「うん。命に懸けて約束するよ」
正直、リュウのような子どものことでクリスの腸は煮えくり返っていた。
そのような子どもをもう出したくなかった。
だから、普段はしない「命に懸けての約束」をすることにしたのだ。
王として、生きて国に帰ることが重要であるにもかかわらずに。
それを知らないリュウは若干不満そうながらも、頷く。
「わかりました」
クリスは優しく微笑んで頷いた。
クリスはイリエに対して不快感と不信感があったため、ほとんど食事に手をつけなかった。
皆の食事が終わる頃、先ほどの奴隷の少年たちが食堂に入って来る。
「寝室の準備が整いました。
案内しますので、ついて来てください」
彼らの代表なのか、食事前にクリスと話した黒髪の少年が言う。
クリスたちが彼らについて行くと、黒髪の少年がチラチラとクリスの方を見た。
「どうかしたのかい?」
「い、いいえ……」
クリスが聞くと、少年は慌てて首を振る。
クリスはできるだけ安心させるために微笑んだ。
「何か聞きたいことがあるなら、遠慮なく言ってごらん。怒ったり、告げ口したりしないから」
少年はしばらく目を彷徨わせたあと、意を決したようにクリスを見た。
「あの、あなたは勇者様なんですよね?」
「……一応、そうらしいね」
クリスの答えがはっきりしなかったせいか、少年は首を傾げる。
クリスは少し困った顔をした。
「えっと、僕はシャルル……聖剣に選ばれたらしいんだけど、勇者ってあんまり好きじゃないんだ」
「……魔族だからですか?」
イリエから聞いていたのだろう。少年がおそるおそる聞く。
「それもあるけど、僕の国では勇者っていいイメージがないんだ。
実際、僕の国は勇者によく襲撃されたからね」
クリスは少年をまっすぐ見た。
「だから、僕のことはクリスって呼んで欲しいな。
それと、君の名前は?」
少年は自分の名前を聞かれると思っていなかったのか、目を見開く。
「……リュウといいます」
「じゃあ、リュウ、聞きたいことはなんだい?」
リュウは少し迷ったあと、クリスに聞いた。
「あの、魔王を倒すことはできるのですか?」
クリスの目が少し見開かれた。
思い出したのは、以前、クリスを刺した浮浪児の少年だった。
「……君の父親も魔物とかにやられたのかい?」
リュウは驚いて顔を上げてクリスを凝視する。
「なんで……わかったんですか?」
クリスは微笑した。
目には哀愁を漂わせて。
「前に君と同じような子に会ったんだ。
その子も同じ質問をしていたから……」
クリスはリュウの目をまっすぐ見る。
「僕は魔王に会ったことがないし、魔王がどんな者か知らない。だから、会って話してから倒すか決めようと思っている。
まぁ、何発か殴ったり蹴ったりしようとは思っているけど」
リュウの目が見開く。
「……魔王が悪い奴じゃないかもしれないって思っているんですか?」
クリスは苦笑した。
「可能性はゼロじゃないって僕は思っている。僕の世界にいた魔王もいろいろ誤解されていただけだったから……」
この世界の魔王が何を考えているかクリスにはわからない。
だからこそ、会って話し合うまではどんなに低くても、可能性を捨てることはしたくなかった。
リュウは何か言いたそうにクリスを見ていたので、クリスは苦笑する。
「君から見たら、僕は優柔不断な勇者で情けなく映るかもしれないね。
けど、何も話を聞かずに決めつけるのは僕はよくないって思っているんだ。
そして、これだけは僕は譲れないんだ」
もちろん、話し合いすら無駄な場合があるだろう。ヒオン国と人間たちのように。
だからといって、それを試みる前から無駄だと決めつけるのは違うとクリスは思う。
リュウは俯いた。手は固く握りしめている。
クリスはそのリュウの頭の上にポンッと手を置いた。
「……僕は君の思いには応えられないけど、魔王が人間たちを襲うならやめさせるつもりだ。それだけは約束するよ」
リュウはガバッと顔を上げた。
「……本当に?」
クリスは静かに頷く。
「うん。命に懸けて約束するよ」
正直、リュウのような子どものことでクリスの腸は煮えくり返っていた。
そのような子どもをもう出したくなかった。
だから、普段はしない「命に懸けての約束」をすることにしたのだ。
王として、生きて国に帰ることが重要であるにもかかわらずに。
それを知らないリュウは若干不満そうながらも、頷く。
「わかりました」
クリスは優しく微笑んで頷いた。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!
幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23 女性向けホットランキング1位
2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位 ありがとうございます。
「うわ~ 私を捨てないでー!」
声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・
でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので
「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」
くらいにしか聞こえていないのね?
と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~
誰か拾って~
私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。
将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。
塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。
私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・
↑ここ冒頭
けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・
そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。
「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。
だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。
この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。
果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか?
さあ! 物語が始まります。

無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?
青空一夏
ファンタジー
ケアニー辺境伯爵家の七男カイルは、生まれつき魔法を使えず、家族から蔑まれて育った。しかし、ある日彼の前世の記憶が蘇る――その正体は、かつて世界を支配した史上最強の大魔法使いアーサー。戸惑いながらも、カイルはアーサーの知識と力を身につけていき、次第に自らの道を切り拓く。
魔法を操れぬはずの少年が最強の魔法を駆使し、自分を信じてくれる商店街の仲間のために立ち上げる。やがてそれは貴族社会すら揺るがす存在へと成長していくのだった。こちらは無自覚モテモテの最強青年になっていく、ケアニー辺境伯爵家の七男カイルの物語。
※こちらは「異世界ファンタジー × ラブコメ」要素を兼ね備えた作品です。メインは「異世界ファンタジー」ですが、恋愛要素やコメディ要素も兼ねた「ラブコメ寄りの異世界ファンタジー」になっています。カイルは複数の女性にもてますが、主人公が最終的には選ぶのは一人の女性です。一夫多妻のようなハーレム系の結末ではありませんので、女性の方にも共感できる内容になっています。異世界ファンタジーで男性主人公なので男性向けとしましたが、男女関係なく楽しめる内容を心がけて書いていきたいです。よろしくお願いします。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる