83 / 179
魔王、選択する
しおりを挟む
クリスたちと勇者一行は相変わらず付かず離れずで魔王のところを目指していた。
変化といったら、メイたちが午前中に鍛練するようになったことと、ジョセフがクリスの包帯を新しくするために人の姿になることがあるようになったことである。
ただ、ジョセフはクリス以外とは話をしようとせず、誰かが話しかけてもほとんど反応しないので、皆とは馴染むことはできなかった。
「ジョセフ、もう少し皆と仲良くしたら?」
「私はクリス様以外と親しくするつもりはありません。
それに、そんな必要もないでしょう?」
クリスが提案すると、ジョセフは無表情で答える。
皆と仲良くとまでいかなくても、少しくらいは馴染む必要はあると思うのだが、ジョセフは昔からこうなので、クリスは説得をあきらめた。
ある日、クリスたちが午前中の鍛練を終え、道を進んでいると、ふと奇妙な鳴き声がクリスの耳に届いた。
「ん? なんか聞こえなかったかい?」
クリスが皆に聞いた時、「グゥオォォォォーン」という、聞いたことのない鳴き声が辺りに響く。
「な、なんなの!?」
サーニャが目をぱちくりさせる。
もともと王宮にいたメイだけならまだしも、オークたちもキョロキョロしていることから、どうやら彼らも初めて聞く鳴き声らしい。ちなみに、バルドはクリスに返り討ちにあって気絶したため、オークに担がれているので何の反応もしていない。
「君たちも知らないのかい?」
「当たり前でしょ! こんな変な鳴き声、聞いたことないわよ!」
クリスは眉を寄せた。
神話や聞いたことによると、魔族と魔物は魔王側に付いたという。つまり、魔物と近しい彼らですら知らない生物がいるということになる。
その時、少し離れた茂から、何かがバサッと飛び出した。
空を飛ぶそれの姿を見たクリスは絶句する。
「なんだ、あれ……!」
その生き物は大きな鳥の魔物に、人間の頭や手や足が歪に生えていた。
「え、あれ、ラヌルじゃない!」
「ラヌル?」
聞き慣れない言葉にクリスはサーニャの方を見る。
「鋭い爪を持つ大きな鷲みたいな魔物よ。肉食で、よく人間やたまに魔族を襲うこともある凶暴な奴よ。
けど、あんな変な鳴き声じゃないし、あんな変なの付いたのなんて見たことないわ」
「ちなみに、ラヌルはなんて鳴くのかい?」
「確か、『キィェェェー』だったと思うわ」
元の鳴き声も十分奇妙だと思ったが、クリスは黙っていた。
「あの、ちょっといいですか?」
メイが小さく手を挙げて恥ずかしそうにしていた。
「なんだい?」
「魔物と動物って違いはなんなのでしょう?」
思わぬ質問に、クリスたちは目を瞬く。
メイは顔を赤くして続けた。
「今まで、魔王に仕えているのが魔物だと聞いていたので、2つの違いを考えたことがなかったのです……」
「ああ、なるほど」
つまり同じ魔王に仕えるものなのに、魔族が魔物に襲われると聞いて違和感を抱いたのだろう。
「まぁ、簡単に説明すると、体内の魔力の違いだね」
「魔力の違い、ですか?」
クリスの言葉にメイは首を傾げる。
「そう。動物よりも魔物の方が魔力が高いんだ」
「魔法を使える魔物は珍しいと聞いたことがありますが……」
メイが眉をひそめた。
「魔法を使えることと魔力が高いということは似てるけど、違うんだ。
魔力は大抵の生物が持っている力なんだけど、これを体外に放出したり、操ったりすることができることが魔法が使える条件なんだ。
けど、その魔力が低ければすぐに涸渇するから、魔力を操る能力があり、魔力が高いことが魔法を使える理想の条件だね」
クリスは手の平の上に魔力の球を作ってメイに見せた。
「この魔法は、一見、なんてことない基礎の魔法だけど、これを使うには、この球を作っても涸渇しない魔力と、球という形にする能力が必要になるんだ」
メイはクリスが作った球をまじまじ見た。
変化といったら、メイたちが午前中に鍛練するようになったことと、ジョセフがクリスの包帯を新しくするために人の姿になることがあるようになったことである。
ただ、ジョセフはクリス以外とは話をしようとせず、誰かが話しかけてもほとんど反応しないので、皆とは馴染むことはできなかった。
「ジョセフ、もう少し皆と仲良くしたら?」
「私はクリス様以外と親しくするつもりはありません。
それに、そんな必要もないでしょう?」
クリスが提案すると、ジョセフは無表情で答える。
皆と仲良くとまでいかなくても、少しくらいは馴染む必要はあると思うのだが、ジョセフは昔からこうなので、クリスは説得をあきらめた。
ある日、クリスたちが午前中の鍛練を終え、道を進んでいると、ふと奇妙な鳴き声がクリスの耳に届いた。
「ん? なんか聞こえなかったかい?」
クリスが皆に聞いた時、「グゥオォォォォーン」という、聞いたことのない鳴き声が辺りに響く。
「な、なんなの!?」
サーニャが目をぱちくりさせる。
もともと王宮にいたメイだけならまだしも、オークたちもキョロキョロしていることから、どうやら彼らも初めて聞く鳴き声らしい。ちなみに、バルドはクリスに返り討ちにあって気絶したため、オークに担がれているので何の反応もしていない。
「君たちも知らないのかい?」
「当たり前でしょ! こんな変な鳴き声、聞いたことないわよ!」
クリスは眉を寄せた。
神話や聞いたことによると、魔族と魔物は魔王側に付いたという。つまり、魔物と近しい彼らですら知らない生物がいるということになる。
その時、少し離れた茂から、何かがバサッと飛び出した。
空を飛ぶそれの姿を見たクリスは絶句する。
「なんだ、あれ……!」
その生き物は大きな鳥の魔物に、人間の頭や手や足が歪に生えていた。
「え、あれ、ラヌルじゃない!」
「ラヌル?」
聞き慣れない言葉にクリスはサーニャの方を見る。
「鋭い爪を持つ大きな鷲みたいな魔物よ。肉食で、よく人間やたまに魔族を襲うこともある凶暴な奴よ。
けど、あんな変な鳴き声じゃないし、あんな変なの付いたのなんて見たことないわ」
「ちなみに、ラヌルはなんて鳴くのかい?」
「確か、『キィェェェー』だったと思うわ」
元の鳴き声も十分奇妙だと思ったが、クリスは黙っていた。
「あの、ちょっといいですか?」
メイが小さく手を挙げて恥ずかしそうにしていた。
「なんだい?」
「魔物と動物って違いはなんなのでしょう?」
思わぬ質問に、クリスたちは目を瞬く。
メイは顔を赤くして続けた。
「今まで、魔王に仕えているのが魔物だと聞いていたので、2つの違いを考えたことがなかったのです……」
「ああ、なるほど」
つまり同じ魔王に仕えるものなのに、魔族が魔物に襲われると聞いて違和感を抱いたのだろう。
「まぁ、簡単に説明すると、体内の魔力の違いだね」
「魔力の違い、ですか?」
クリスの言葉にメイは首を傾げる。
「そう。動物よりも魔物の方が魔力が高いんだ」
「魔法を使える魔物は珍しいと聞いたことがありますが……」
メイが眉をひそめた。
「魔法を使えることと魔力が高いということは似てるけど、違うんだ。
魔力は大抵の生物が持っている力なんだけど、これを体外に放出したり、操ったりすることができることが魔法が使える条件なんだ。
けど、その魔力が低ければすぐに涸渇するから、魔力を操る能力があり、魔力が高いことが魔法を使える理想の条件だね」
クリスは手の平の上に魔力の球を作ってメイに見せた。
「この魔法は、一見、なんてことない基礎の魔法だけど、これを使うには、この球を作っても涸渇しない魔力と、球という形にする能力が必要になるんだ」
メイはクリスが作った球をまじまじ見た。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

夏空の下の気ままな魔導士
フレデリック
ファンタジー
愛菜(まな)は勤務中、職場のえりさ先輩とともに突如異世界へと転移してしまう。
無能で何もすることがなく、新しい世界で生きていくための知識・常識を学んでいた矢先、森の魔物討伐に行った騎士たちが重傷を負って帰還する。
先輩が魔法で奇跡を起こすが、魔導士ヴォルフラムは「先輩」ではなく「愛菜」に目を向ける。
のちに、謎めいた女魔導士ルビーによって、愛菜は「カタリスト」と呼ばれる特別な存在である可能性を示唆される。
魔力は持たないが、魔導士の力を自由自在に操ることができる者――。
果たして、愛菜の力はこの世界に救いをもたらすのか。それとも、さらなる混乱を招くのか?
【マナ】
この世界に流れている神秘的なエネルギー。人や物に移り、さまざまな力を発揮する。
【カタリスト】
それ自身は変化しないが、物質反応の速度を変化させるもの。
――――――――――――――――――――――――
全10章(全50話)の予定。
→2025年1月3日の近況ボードにも書きましたが、1月2日に最終話(50話)を書き終えました。
※小説家になろう様にも掲載中。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる