その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、選択する

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 クリスたちと勇者一行は相変わらず付かず離れずで魔王のところを目指していた。
 変化といったら、メイたちが午前中に鍛練するようになったことと、ジョセフがクリスの包帯を新しくするために人の姿になることがあるようになったことである。
 ただ、ジョセフはクリス以外とは話をしようとせず、誰かが話しかけてもほとんど反応しないので、皆とは馴染むことはできなかった。

「ジョセフ、もう少し皆と仲良くしたら?」
「私はクリス様以外と親しくするつもりはありません。
 それに、そんな必要もないでしょう?」

 クリスが提案すると、ジョセフは無表情で答える。
 皆と仲良くとまでいかなくても、少しくらいは馴染む必要はあると思うのだが、ジョセフは昔からこうなので、クリスは説得をあきらめた。

 ある日、クリスたちが午前中の鍛練を終え、道を進んでいると、ふと奇妙な鳴き声がクリスの耳に届いた。

「ん? なんか聞こえなかったかい?」

 クリスが皆に聞いた時、「グゥオォォォォーン」という、聞いたことのない鳴き声が辺りに響く。

「な、なんなの!?」

 サーニャが目をぱちくりさせる。
 もともと王宮にいたメイだけならまだしも、オークたちもキョロキョロしていることから、どうやら彼らも初めて聞く鳴き声らしい。ちなみに、バルドはクリスに返り討ちにあって気絶したため、オークに担がれているので何の反応もしていない。

「君たちも知らないのかい?」
「当たり前でしょ! こんな変な鳴き声、聞いたことないわよ!」

 クリスは眉を寄せた。
 神話や聞いたことによると、魔族と魔物は魔王側に付いたという。つまり、魔物と近しい彼らですら知らない生物がいるということになる。

 その時、少し離れた茂から、何かがバサッと飛び出した。
 空を飛ぶの姿を見たクリスは絶句する。

「なんだ、あれ……!」

 その生き物は大きな鳥の魔物に、人間の頭や手や足が歪に生えていた。

「え、あれ、ラヌルじゃない!」
「ラヌル?」

 聞き慣れない言葉にクリスはサーニャの方を見る。

「鋭い爪を持つ大きな鷲みたいな魔物よ。肉食で、よく人間やたまに魔族を襲うこともある凶暴な奴よ。
 けど、あんな変な鳴き声じゃないし、あんな変なの付いたのなんて見たことないわ」
「ちなみに、ラヌルはなんて鳴くのかい?」
「確か、『キィェェェー』だったと思うわ」

 元の鳴き声も十分奇妙だと思ったが、クリスは黙っていた。

「あの、ちょっといいですか?」

 メイが小さく手を挙げて恥ずかしそうにしていた。

「なんだい?」
「魔物と動物って違いはなんなのでしょう?」

 思わぬ質問に、クリスたちは目を瞬く。
 メイは顔を赤くして続けた。

「今まで、魔王に仕えているのが魔物だと聞いていたので、2つの違いを考えたことがなかったのです……」
「ああ、なるほど」

 つまり同じ魔王に仕えるものなのに、魔族が魔物に襲われると聞いて違和感を抱いたのだろう。

「まぁ、簡単に説明すると、体内の魔力の違いだね」
「魔力の違い、ですか?」

 クリスの言葉にメイは首を傾げる。

「そう。動物よりも魔物の方が魔力が高いんだ」
「魔法を使える魔物は珍しいと聞いたことがありますが……」

 メイが眉をひそめた。

「魔法を使えることと魔力が高いということは似てるけど、違うんだ。
 魔力は大抵の生物が持っている力なんだけど、これを体外に放出したり、操ったりすることができることが魔法が使える条件なんだ。
 けど、その魔力が低ければすぐに涸渇するから、魔力を操る能力があり、魔力が高いことが魔法を使える理想の条件だね」

 クリスは手の平の上に魔力の球を作ってメイに見せた。

「この魔法は、一見、なんてことない基礎の魔法だけど、これを使うには、この球を作っても涸渇しない魔力と、球という形にする能力が必要になるんだ」

 メイはクリスが作った球をまじまじ見た。
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