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魔王誕生(?)秘話2
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「……えっと、つまり、魔王という者はいなかったのですか?」
クリスが語って一息ついている時に、メイが聞いた。
クリスは頷く。
「うん。だから、誰も勇者が何を言っているかわからなくて、答えられなかったんだ」
そのため、勇者という人間の男の蛮行は止まらなかった。
会う者に「魔王はどこだ?」と問いかけては、答えられない者は斬り捨てられた。
そんな者はいないのだから、答えられる者はいるわけがないのに。
しかも、男には魔法が効かなかった。
だから、魔法を得意とする者は手も足も出ず、男の刃の犠牲になる。
さらに、男の剣には不思議な力があるらしく、その傷は回復魔法で治癒できなかった。
そして、そのことは国の中心人物たちの耳にも届いた。
彼らは男の殺戮を止めるために、話し合った。
「まおうって一体、誰を探しているんだ?」
「魔法が得意な者とか?」
「王というからには、この国の代表のことか?」
魔王が何者かしらない彼らは頭を悩ませる。
そんな中、シリウスが発言した。
「これ以上、誰かを犠牲にするのはまっぴらだ! 私が魔王として会う!」
他の者たちは止めたそうだ。
何せ、シリウスは魔法を得意とする魔族で、男に不利だと思われたからだ。
それに彼には妻も子もいたのだから。
だが、シリウスは頑固だった。
「奴が探している者で、1番条件に当てはまるのは私だ! なら、私が行くべきだ!」
こうと思ったら梃子でも動かないシリウスに、他の者たちが折れた。
こうして、初代魔王と初代勇者は対峙したのだ。
シリウスは勇者という男の元へ急いで駆けつけた。少しでも犠牲者を減らしたい一心で。
だが、待っていたのは血みどろの光景だった。
おびただしい血が地面に流れ、男も、女も、老人も、子供も、人間の男の周りでピクリとも動かず横たわっている。
男は手に持っていた女の死体を放り出すところだった。
そのすぐ側で、女の娘らしい子供が泣いていた。
男は子供を睨み付ける。
「うるさい」
その凶刃が子供に向かって振り下ろされようとした時、シリウスの体が勝手に動いた。
「やめろ!」
魔族であり子供を殺すことに反対して村から離脱したシリウスにとって、目の前の光景は決して許されないものだった。
シリウスは持ってきた剣でその凶刃をなんとか食い止めた。
男が眉をひそめる。
「なんだ、お前は?」
「私はお前が探していた、まおうという者だ!」
シリウスは必死に言った。
実際は「長」と当時は呼ばれていたらしいが、シリウスはそう名乗った。
男の目が見開かれる。
「そうか、お前が……」
そして、これでもかと凄まじい殺気が叩き付けられる。
なんとか身体強化魔法を駆使して、シリウスが男の剣を弾き、距離をとった。
「人間よ、なぜ私を殺そうとするのだ?」
シリウスは男に聞いた。
ヒオン国建国以来、この国は人間とは関わっていない。向こうから攻めて来てもこちらからは攻撃したことはなかったはずだ。
「お前が俺たち人間を滅ばそうとするからだろうが!」
人間の男は憎悪のこもった声で叫んだ。
「なんのことだ?」
シリウスは怪訝そうに眉をひそめる。
全く覚えのないことだったからだ。
「とぼけるな!」
その一言とともに男は斬りかかる。
シリウスはそれを受け止めた。
「洪水に疫病、お前たちがもたらしたものだろうが! 知らんとはいわせん!」
シリウスはそれで理解した。
自分たちに謂れのない罪が被されていることを。
クリスが語って一息ついている時に、メイが聞いた。
クリスは頷く。
「うん。だから、誰も勇者が何を言っているかわからなくて、答えられなかったんだ」
そのため、勇者という人間の男の蛮行は止まらなかった。
会う者に「魔王はどこだ?」と問いかけては、答えられない者は斬り捨てられた。
そんな者はいないのだから、答えられる者はいるわけがないのに。
しかも、男には魔法が効かなかった。
だから、魔法を得意とする者は手も足も出ず、男の刃の犠牲になる。
さらに、男の剣には不思議な力があるらしく、その傷は回復魔法で治癒できなかった。
そして、そのことは国の中心人物たちの耳にも届いた。
彼らは男の殺戮を止めるために、話し合った。
「まおうって一体、誰を探しているんだ?」
「魔法が得意な者とか?」
「王というからには、この国の代表のことか?」
魔王が何者かしらない彼らは頭を悩ませる。
そんな中、シリウスが発言した。
「これ以上、誰かを犠牲にするのはまっぴらだ! 私が魔王として会う!」
他の者たちは止めたそうだ。
何せ、シリウスは魔法を得意とする魔族で、男に不利だと思われたからだ。
それに彼には妻も子もいたのだから。
だが、シリウスは頑固だった。
「奴が探している者で、1番条件に当てはまるのは私だ! なら、私が行くべきだ!」
こうと思ったら梃子でも動かないシリウスに、他の者たちが折れた。
こうして、初代魔王と初代勇者は対峙したのだ。
シリウスは勇者という男の元へ急いで駆けつけた。少しでも犠牲者を減らしたい一心で。
だが、待っていたのは血みどろの光景だった。
おびただしい血が地面に流れ、男も、女も、老人も、子供も、人間の男の周りでピクリとも動かず横たわっている。
男は手に持っていた女の死体を放り出すところだった。
そのすぐ側で、女の娘らしい子供が泣いていた。
男は子供を睨み付ける。
「うるさい」
その凶刃が子供に向かって振り下ろされようとした時、シリウスの体が勝手に動いた。
「やめろ!」
魔族であり子供を殺すことに反対して村から離脱したシリウスにとって、目の前の光景は決して許されないものだった。
シリウスは持ってきた剣でその凶刃をなんとか食い止めた。
男が眉をひそめる。
「なんだ、お前は?」
「私はお前が探していた、まおうという者だ!」
シリウスは必死に言った。
実際は「長」と当時は呼ばれていたらしいが、シリウスはそう名乗った。
男の目が見開かれる。
「そうか、お前が……」
そして、これでもかと凄まじい殺気が叩き付けられる。
なんとか身体強化魔法を駆使して、シリウスが男の剣を弾き、距離をとった。
「人間よ、なぜ私を殺そうとするのだ?」
シリウスは男に聞いた。
ヒオン国建国以来、この国は人間とは関わっていない。向こうから攻めて来てもこちらからは攻撃したことはなかったはずだ。
「お前が俺たち人間を滅ばそうとするからだろうが!」
人間の男は憎悪のこもった声で叫んだ。
「なんのことだ?」
シリウスは怪訝そうに眉をひそめる。
全く覚えのないことだったからだ。
「とぼけるな!」
その一言とともに男は斬りかかる。
シリウスはそれを受け止めた。
「洪水に疫病、お前たちがもたらしたものだろうが! 知らんとはいわせん!」
シリウスはそれで理解した。
自分たちに謂れのない罪が被されていることを。
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