その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、盗まれる12

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 皆のところに戻ると、ジョセフがクリスに話しかけた。

「クリス様、怪我の具合は大丈夫でしょうか?」

 クリスが手を確かめると、血が包帯に滲んでいたが痛みは大したことがない。

「大丈夫だって」

 だが、ジョセフは言葉のまま受け取らず、端正な眉をひそめる。

「血で汚れてますね。包帯を変えましょう」

 そう言って有無を言わさず、手をとって包帯を変える。
 包帯を取った傷口から、ポタリと血が滴り落ちたのを見て、メイが険しい顔をした。

「……傷の治りが悪いようですね」

 クリスがため息をついた。

「魔族は魔法を使わないと、傷の治りが遅いんだ」
「どのくらいですか?」
「エルフ特製の傷薬と包帯を使って1年くらいでようやく血が止まる感じかな」

 メイや他の者が驚く。

 魔族は自己回復魔法に特化しているせいか、魔法以外の身体能力が低い。それは筋力だけでなく、基礎的な回復能力などにも及ぶ。
 それでも鍛えればなんとかなるものもあるが、自然治癒力などはどうしようもない。
 魔族が聖剣を恐れるのは、この理由も大きい。どんなに軽症でも、治らない怪我なら失血死の危険が大きいからだ。

 ちなみに、この数年というのは、魔族の研究者が自身を実験に使ってたどり着いた結果で、エルフ特製の傷薬を使わないと治るまで数十年かかるらしい。

「できましたよ」

 そうこうしているうちに、ジョセフが包帯を巻き終える。

「ん、ありがとう」

 クリスはお礼を言った。

「……ねぇ、あんたさぁ、なんでずっとネズミのままだったの?」

 サーニャがジョセフに言う。
 サーニャの方をジョセフが見た時、サーニャは凍りついた。
 ジョセフの目はこれでもかというほど冷ややかだったからだ。

「なぜ、私があなた方と話さなければならないのですか?」
「へ?」

 答えになっているようななっていないような言葉に、サーニャは呆気に取られる。

「私は基本、クリス様以外と話す気はありませんし、従う気もありません。
 よく覚えていてください」

 そう言うと、さっさとネズミの姿になり、クリスの肩に乗った。
 クリスは苦笑する。

「えっと、なんか、ジョセフがごめん」

 人嫌いだがらね、とポツリと言ったクリスに、サーニャは内心叫ぶ。

(人嫌いとかそういう問題じゃなくない!?)

 だが、その言葉を声に出す勇気はサーニャにはなかった。
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