その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、盗まれる11

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 クリスとヨハンは口をあんぐり開けた。

「お前たちがなんのために旅しているか知らねぇけどさ、俺がいたら役に立つだろ? こう見えて有能なんだからな!
 だからお前たちについて行ってやるよ!」

 どこに根拠があるかわからないが、少年は胸を反らして自信満々に言った。
 クリスとヨハンは顔を見合わせる。

「……ついて来るのは別に構わないけど、盗賊たちのところへ戻らなくて大丈夫なのかい?」

 とりあえず、クリスが聞いてみる。

「もちろん! すっごいお宝持って行けば逆に誉めてもらえるし!」

 少年は目をキラキラさせて言った。
 何を根拠にしているかわからないが、クリスたちについて行けば宝にありつけると思っているらしい。

「……えっと、たぶん、僕らについて行っても、宝とか手に入らないと思うよ?」

 クリスは少年に言った。

「え、そうなのか?」
「うん。そもそも、僕らが何の目的で旅しているかわかる?」

 少年は首を横に振る。
 オークと魔族だけならまだしもそこに人間もいると、旅の目的は見当もつかなかった。

「僕らは魔王の配下の待遇改善のために、魔王のところに行くところなんだ」

 少年の目と口がこれでもかと限界まで見開かれる。

「いや、おれはお前だけだからな?
 俺たちは魔王を倒すために旅をしているんだ」

 ヨハンが付け足す。

「……ま、待て待て待て!?
 なんでお前たちがそんなことを!?
 それって勇者の仕事じゃねーか!?」

 少年が目を見開いたまま、慌てて言った。

「何言っている! クリスは俺が選んだ勇者だ!」
「シャルル、ややこしくなるから黙って」

 シャルルが余計なことを言ったので、クリスが注意する。

「は!? え!? まさか、それ、聖剣!?
 は!? あれ!? お前、魔族だよな!?」

 少年は混乱している。

「こいつは魔族だが、俺が選んだ勇者だ!」

 シャルルは相変わらず、主張を変えない。
 クリスはため息をついた。

「……僕は別の世界から来た魔族なんだ。
 そのせいか、なぜかシャルルに選ばれてしまったんだよね……」
「いや、お前だから選んだんだけど」

 遠い目をするクリスに、シャルルが反論する。

「まぁ、シャルルの気の迷いはともかく……」
「気の迷いって……」

 クリスの言いぐさに、シャルルは絶句する。
 それに構わず、クリスは言葉を続けた。

「魔王に彼の配下の待遇改善と、ついでに世界の滅亡防止のために交渉に行くんだけど、ついてくるかい?」
「断る」

 少年はあっさりと前言を撤回した。
 少年の顔色は真っ青を通り越して白くなっている。

「そうかい?」
「いや、だって頭おかしいだろ!? 魔王に交渉とか馬鹿じゃねーの!?
 つーか、なんで世界の滅亡防止の方がついでなんだよ!?」
「こいつ、いっつもなんでか『ついで』って言うんだよ」

 いきり立つ少年に、ヨハンが困った顔で言った。

「だって、本当に世界滅亡したいかわからないし、なんでしたいかもわからないんだから、それについて聞いてからでいいでしょ?」

 クリスが口を尖らせる。

「……魔王って世界を滅亡させる奴じゃねーの?」

 少年が首を傾げた。
 クリスは苦笑する。

「少なくとも、僕がいた世界で魔王と呼ばれていた者たちは、誰も世界を滅亡させたり、征服したりなんかしなかったよ」

 むしろ、人間と関わらず静かに暮らしていたいと思っていたのだ。
 なのになぜか人間たちに誤解されていた。

「魔王って何人もいるのか?」

 ヨハンがクリスに尋ねた。

「今の王で5代目だよ」

 ちなみに今の王はクリスである。
 そんなことは露知らず、ヨハンは「へぇ、そうなのか」と頷く。

「……じゃあ、がんばれよ。お前たちが無事なように遠くから祈っとくから」

 少年が手を振る。
 もうついて行く気は全くないようだ。
 クリスとヨハンは苦笑して、ジョセフは無表情で、少年のもとを去った。
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