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魔王、盗まれる7
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場所を伝えたジョセフはクリスの肩に留まってネズミの姿に戻った。
クリスはねぎらいの意味を込めてジョセフを優しく撫でた。
そして、茂みからなるべく体勢を低くしてクリスたちは制御具を盗った少年を観察する。
少年は木の根元に座りこんで様々な動物たちに囲まれていた。
「あ、あの猿!」
ヨハンが小声で言った。
見ると、ヨハンの聖剣を持った猿がこちらに背を向けている。
「……聖剣って選ばれた者以外が持っても大丈夫なのかい?」
「確か鞘に収めたままなら平気だけど、抜いた状態だと火傷するって聞いたことがあるな」
「そういえば、聖剣ってどうやって相手を選ぶんだい?」
クリスは以前から気になっていたことを聞いた。
「台座があってそこから聖剣を抜いた奴が勇者だな」
「……そっちでもそうなんだ」
聖剣というのは台座に刺さってて、そこから引っこ抜くのがどの世界でもセオリーなのかもしれない。
というか、シャルルの場合はしゃべれるのだから普通に名指しでもいい気がする。
「それにしても、なんであんなに動物に囲まれているんだ?」
「うん、ちょっとうらやましい……」
「は?」
ヨハンが怪訝な目で見たので、実は動物好きのクリスは軽く咳をして誤魔化した。
「そういえば、魔物使いという奴がいるらしいわね」
「魔物使い?」
聞き慣れない言葉にクリスは首を傾げる。
サーニャが簡単に説明する。
「なぜか魔物や動物に異常に好かれて、そいつらを使役できる奴のことよ。
珍しい才能で、めったに見られないらしいけど」
「そうなんだ……」
クリスは頷くと、少年をじっと見た。
確かに大型の動物や肉食動物もいるが、彼らは少年に敵意を持っているようには見えない。
その時、少年が手で弄んでいた制御具を腕に嵌めようとした。
「待って!」
クリスは衝動的に茂みから飛び出した。
突然出て来たクリスを少年は目を丸くして凝視し、周囲の動物たちは威嚇した。
子供や動物に警戒されたクリスは内心少し落ち込んだがそれを顔に出さず、少年に近づく。
「君、悪いけどその腕輪、返してくれないかな?」
クリスは跪き、少年と顔の高さを合わせてお願いした。
「やだ! これは俺が盗ったんだから俺のだ!」
頑なに少年は腕輪を離さない。
動物たちの威嚇も激しくなってきた。
「その腕輪は魔族以外がつけると危険な物なんだ。最悪、死ぬかもしれない」
クリスは説得しようとするが、少年は胡乱な目でクリスを見るだけだった。
「嘘つけ! お前も人間だろ!」
「僕は魔族だよ。ほら」
そう言ってクリスは帽子を取ると、ねじ曲がった角が現れる。
それを見た少年は目を見開き、ガタガタ震えだした。
「ま、魔族……!?」
(しまった!)
クリスは自分のミスに苦虫を噛み潰したような顔になる。
人間が魔族を恐れているのに、正体を明かすべきではなかった。
少年の怯えに呼応して、動物たちが襲いかかる。
クリスは瞬時に少年と自分を囲む障壁を作りだした。
クリスの障壁に阻まれて、動物たちの攻撃は通らなかった。
「キキー!」
そのことに地団駄を踏んだ1匹の猿が聖剣を抜き、火傷をしたのか甲高い悲鳴を上げて、聖剣を放り投げてきた。
聖剣はやすやすとクリスの障壁を突破した。
そして少年めがけて振り下ろされようとする。
「危ない!」
クリスはとっさに聖剣の刃を掴んだ。
なるべく刃に手が当たらないように気をつけたが、それでも完全には避けられず血が流れ、ジュウと聖剣に触れた部分が焼かれる。
「くっ!」
魔力が焼かれるような痛みにクリスは顔をしかめる。
「クリス様!」
その時、クリスの肩にいたネズミの姿が歪んで大きくなった。
クリスはねぎらいの意味を込めてジョセフを優しく撫でた。
そして、茂みからなるべく体勢を低くしてクリスたちは制御具を盗った少年を観察する。
少年は木の根元に座りこんで様々な動物たちに囲まれていた。
「あ、あの猿!」
ヨハンが小声で言った。
見ると、ヨハンの聖剣を持った猿がこちらに背を向けている。
「……聖剣って選ばれた者以外が持っても大丈夫なのかい?」
「確か鞘に収めたままなら平気だけど、抜いた状態だと火傷するって聞いたことがあるな」
「そういえば、聖剣ってどうやって相手を選ぶんだい?」
クリスは以前から気になっていたことを聞いた。
「台座があってそこから聖剣を抜いた奴が勇者だな」
「……そっちでもそうなんだ」
聖剣というのは台座に刺さってて、そこから引っこ抜くのがどの世界でもセオリーなのかもしれない。
というか、シャルルの場合はしゃべれるのだから普通に名指しでもいい気がする。
「それにしても、なんであんなに動物に囲まれているんだ?」
「うん、ちょっとうらやましい……」
「は?」
ヨハンが怪訝な目で見たので、実は動物好きのクリスは軽く咳をして誤魔化した。
「そういえば、魔物使いという奴がいるらしいわね」
「魔物使い?」
聞き慣れない言葉にクリスは首を傾げる。
サーニャが簡単に説明する。
「なぜか魔物や動物に異常に好かれて、そいつらを使役できる奴のことよ。
珍しい才能で、めったに見られないらしいけど」
「そうなんだ……」
クリスは頷くと、少年をじっと見た。
確かに大型の動物や肉食動物もいるが、彼らは少年に敵意を持っているようには見えない。
その時、少年が手で弄んでいた制御具を腕に嵌めようとした。
「待って!」
クリスは衝動的に茂みから飛び出した。
突然出て来たクリスを少年は目を丸くして凝視し、周囲の動物たちは威嚇した。
子供や動物に警戒されたクリスは内心少し落ち込んだがそれを顔に出さず、少年に近づく。
「君、悪いけどその腕輪、返してくれないかな?」
クリスは跪き、少年と顔の高さを合わせてお願いした。
「やだ! これは俺が盗ったんだから俺のだ!」
頑なに少年は腕輪を離さない。
動物たちの威嚇も激しくなってきた。
「その腕輪は魔族以外がつけると危険な物なんだ。最悪、死ぬかもしれない」
クリスは説得しようとするが、少年は胡乱な目でクリスを見るだけだった。
「嘘つけ! お前も人間だろ!」
「僕は魔族だよ。ほら」
そう言ってクリスは帽子を取ると、ねじ曲がった角が現れる。
それを見た少年は目を見開き、ガタガタ震えだした。
「ま、魔族……!?」
(しまった!)
クリスは自分のミスに苦虫を噛み潰したような顔になる。
人間が魔族を恐れているのに、正体を明かすべきではなかった。
少年の怯えに呼応して、動物たちが襲いかかる。
クリスは瞬時に少年と自分を囲む障壁を作りだした。
クリスの障壁に阻まれて、動物たちの攻撃は通らなかった。
「キキー!」
そのことに地団駄を踏んだ1匹の猿が聖剣を抜き、火傷をしたのか甲高い悲鳴を上げて、聖剣を放り投げてきた。
聖剣はやすやすとクリスの障壁を突破した。
そして少年めがけて振り下ろされようとする。
「危ない!」
クリスはとっさに聖剣の刃を掴んだ。
なるべく刃に手が当たらないように気をつけたが、それでも完全には避けられず血が流れ、ジュウと聖剣に触れた部分が焼かれる。
「くっ!」
魔力が焼かれるような痛みにクリスは顔をしかめる。
「クリス様!」
その時、クリスの肩にいたネズミの姿が歪んで大きくなった。
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