70 / 179
魔王、盗まれる6
しおりを挟む
クリスはルディアに聞いた。
「ジョセフさんはずっとネズミだったんですけど、戻らなくて大丈夫だったんですか?」
通常、魔法は使用者の意識が途絶えると停止する。睡眠や気絶などでもだ。
だが、ジョセフはルディアの記憶にある限りずっとネズミの姿のままだった。
「ジョセフの場合、姿の維持ではなくて切り替えの方に魔力を使うらしいから、戻らなくても負担はないんだ。それに、変身しても魔法は使えるしね」
「え、そうなんですか?」
驚くルディアにクリスは頷いた。
「僕の服に洗浄の魔法をかけてもらったりしてたからね」
洗浄の魔法とは服に付いた汚れをきれいにする魔法である。これでクリスは清潔な服を毎日着ることができた。
すると、周りからなぜか呆れたような視線がクリスに注がれた。
「なぁ、まさか下着もか?」
「うん、そうだけど?」
替えの下着は用意したが、洗浄の魔法はジョセフにかけてもらっていたクリスは素直に頷く。
「……お前、洗濯くらい自分でやれよ」
ヨハンが心底呆れたように言う。
「え、いや、だって僕、洗浄の魔法、苦手だし」
クリスは慌てて弁明した。
クリスがやると毎回服がぼろぼろになるのだ。それならできる者にやらせた方がいい。
だが、なぜか皆の呆れは緩和されなかった。
その時『クリス様、見つけました』とジョセフの声が聞こえた。
ジョセフが使った特定の者に声を届ける魔法だ。
これ幸いと、クリスは皆に言う。
「ジョセフが見つけたみたいだね。そこに向かおう」
くるりと体の向きを変え、クリスは魔法でジョセフが示す方向に向かう。
誤魔化されたように感じながらも、他の者もクリスについて行った。
「……そういえば、どうやって連絡取っているのよ?」
迷いなく進むクリスに後ろからついて来ているサーニャが聞いた。
「特定の相手に言葉を届ける魔法があるんだ。普通は位置を知っていなきゃなんだけど、相手の髪とか爪とか体の一部を持っていれば、遠く離れても声を届けることができるんだ」
「ああ、じゃあ、あのネズミはあんた髪の毛でも持っているのね」
「いや、昨日血を飲ませたからそれだと思う」
なぜかサーニャが何か言いたげな顔をしたので、クリスは首を傾げる。
「どうしたんだい?」
「……あんたさ、なんで平気で血なんかあげるのよ?」
サーニャが何が言いたいのかわからなくてクリスはきょとんとする。
「……お腹がすいている者がいて自分のところに食べ物があったら、分けるものじゃないかな?」
もちろん自分を犠牲にして飢えては相手も気を遣ったり罪悪感を抱くので、余裕がある場合に限るが。
そもそもクリスは血を飲まないし、あげても問題はないと思う。
「そうじゃなくて、嫌悪感とかないの?」
「え、全然」
不死者の中でも吸血鬼と呼ばれる者はそういう体質なのだ。精気が必要な夢魔や制御具が必要な魔族とたいして変わらない。
なのだが、サーニャは釈然としていないようだ。
「……じゃあ、肉体を食べる奴がいたら、あんたはあげるわけ?」
うーん、とクリスは考える。
「……治療可能な範囲なら」
やらなければいけないこともあるので、さすがに死ぬレベルのものはあげられないが、それでも自己回復できるところならあげることができると思う。
「ダメです!」
すると、メイがいつもよりも強い口調できっぱりと言った。
そしてクリスをキッと睨む。
「クリス様、人々に親切にすることは良いことですが、まず自分を大事になさってください!」
「そうですよ!クリスさんは自分を粗末にし過ぎです!」
なぜかメイに同調して、ルディアも怒っている。
そして、なぜかオークたちも大きく頷いている。
「……大事にしているつもりなんだけどなぁ」
クリスはぼやく。
一応、国王なのでいろいろ気をつけているのだが、そう見えないらしい。
そうこうしているうちに、ジョセフが示してきたところが近づいて来た。
「ジョセフさんはずっとネズミだったんですけど、戻らなくて大丈夫だったんですか?」
通常、魔法は使用者の意識が途絶えると停止する。睡眠や気絶などでもだ。
だが、ジョセフはルディアの記憶にある限りずっとネズミの姿のままだった。
「ジョセフの場合、姿の維持ではなくて切り替えの方に魔力を使うらしいから、戻らなくても負担はないんだ。それに、変身しても魔法は使えるしね」
「え、そうなんですか?」
驚くルディアにクリスは頷いた。
「僕の服に洗浄の魔法をかけてもらったりしてたからね」
洗浄の魔法とは服に付いた汚れをきれいにする魔法である。これでクリスは清潔な服を毎日着ることができた。
すると、周りからなぜか呆れたような視線がクリスに注がれた。
「なぁ、まさか下着もか?」
「うん、そうだけど?」
替えの下着は用意したが、洗浄の魔法はジョセフにかけてもらっていたクリスは素直に頷く。
「……お前、洗濯くらい自分でやれよ」
ヨハンが心底呆れたように言う。
「え、いや、だって僕、洗浄の魔法、苦手だし」
クリスは慌てて弁明した。
クリスがやると毎回服がぼろぼろになるのだ。それならできる者にやらせた方がいい。
だが、なぜか皆の呆れは緩和されなかった。
その時『クリス様、見つけました』とジョセフの声が聞こえた。
ジョセフが使った特定の者に声を届ける魔法だ。
これ幸いと、クリスは皆に言う。
「ジョセフが見つけたみたいだね。そこに向かおう」
くるりと体の向きを変え、クリスは魔法でジョセフが示す方向に向かう。
誤魔化されたように感じながらも、他の者もクリスについて行った。
「……そういえば、どうやって連絡取っているのよ?」
迷いなく進むクリスに後ろからついて来ているサーニャが聞いた。
「特定の相手に言葉を届ける魔法があるんだ。普通は位置を知っていなきゃなんだけど、相手の髪とか爪とか体の一部を持っていれば、遠く離れても声を届けることができるんだ」
「ああ、じゃあ、あのネズミはあんた髪の毛でも持っているのね」
「いや、昨日血を飲ませたからそれだと思う」
なぜかサーニャが何か言いたげな顔をしたので、クリスは首を傾げる。
「どうしたんだい?」
「……あんたさ、なんで平気で血なんかあげるのよ?」
サーニャが何が言いたいのかわからなくてクリスはきょとんとする。
「……お腹がすいている者がいて自分のところに食べ物があったら、分けるものじゃないかな?」
もちろん自分を犠牲にして飢えては相手も気を遣ったり罪悪感を抱くので、余裕がある場合に限るが。
そもそもクリスは血を飲まないし、あげても問題はないと思う。
「そうじゃなくて、嫌悪感とかないの?」
「え、全然」
不死者の中でも吸血鬼と呼ばれる者はそういう体質なのだ。精気が必要な夢魔や制御具が必要な魔族とたいして変わらない。
なのだが、サーニャは釈然としていないようだ。
「……じゃあ、肉体を食べる奴がいたら、あんたはあげるわけ?」
うーん、とクリスは考える。
「……治療可能な範囲なら」
やらなければいけないこともあるので、さすがに死ぬレベルのものはあげられないが、それでも自己回復できるところならあげることができると思う。
「ダメです!」
すると、メイがいつもよりも強い口調できっぱりと言った。
そしてクリスをキッと睨む。
「クリス様、人々に親切にすることは良いことですが、まず自分を大事になさってください!」
「そうですよ!クリスさんは自分を粗末にし過ぎです!」
なぜかメイに同調して、ルディアも怒っている。
そして、なぜかオークたちも大きく頷いている。
「……大事にしているつもりなんだけどなぁ」
クリスはぼやく。
一応、国王なのでいろいろ気をつけているのだが、そう見えないらしい。
そうこうしているうちに、ジョセフが示してきたところが近づいて来た。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!
うどん五段
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。
皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。
この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。
召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。
確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!?
「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」
気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。
★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします!
★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる