その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、盗まれる3

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「大変なことって?」

 サーニャが眉をひそめて聞いた。
 クリスがここまで狼狽えるということは、よほど大変なことに違いない。

「制御具は魔力を制御しやすくするために、身につけている者の暴走しやすい余分な魔力を多少吸うんだ」

 クリスが袖を捲って腕につけている制御具を見せながら答えた。

「その吸った魔力を利用して暴走しないようにするんだけど、その量は他の、特に魔力の低い種族には多すぎるみたいなんだ。
 前に、他種族の子供がふざけてつけて、死にかけたことがあったしね」

 魔力というのは生命力にも通ずるのか、魔力が枯渇すると命に関わるのだ。
 しんっと周りが静まりかえる。

「……呪いの腕輪?」

 ボソッとバルドが呟いたので、クリスが首を横に振った。

「別に呪われているわけじゃないよ」
「いや、どう考えても、そのものだろ!
 つーか、それ、俺に付けようとしていただろ!」
「魔族なんだから大丈夫でしょ。僕だって3つつけているし」
「そういう問題じゃねぇ!」

 興奮して怒鳴るバルドにクリスはてきとうに返事をする。
 そして再びサーニャの方を向いた。

「だから、誰かがつけると危ないから、早く回収しないとなんだ」
「……あっそう」

 サーニャは呆れた。
 クリスの言う「大変なこと」は他人に対してのもので、別に自分たちに何かあるというわけではないからだ。
 クリスのように他人に入れ込むことかないサーニャには理解できないことである。

 その時、バタバタとこちらに向かって来る足音がした。
 その方向を見ると、少し離れていた勇者一行が、肩で息をしながら立っていた。

「おい、こっちに聖剣を持った猿が来なかったか!?」

 再び場はしんっと静まりかえる。

「……まさか、聖剣を盗られたのかい?」

 さすがに驚いてクリスは呆然とする。
 ヨハンは苦々しげに頷いた。

「ああ、歩いていたら盗られた」
「……あんたもなの?」

 サーニャが呆れてボソッと言うと、ヨハンが驚いてクリスを見た。

「え、まさかお前も聖剣を……」
「いや、俺は無事だぞ」

 シャルルか言うと、クリスもうんうんと頷く。

「シャルルの場合、盗られても大声で叫ぶだろうしね」

 ヨハンが訝しげに眉をひそめる。

「じゃあ、何が盗られたんだ?」
「制御具の予備だよ」
「制御具?」

 クリスは腕にしている制御具を見せながら説明した。
 そして他の種族がつけると危ないことを話すと、ヨハンは青ざめる。

「呪いの腕輪じゃねーか!?」
「いや、だから呪われてないって」
「そんな危険な物、呪いの腕輪だろ!? つーか、そんな危険な物、よく付けてられるな!?」

 バルドがヨハンに同調するように何度も頷く。
 クリスはため息をついた。

「……他種族にとっては危険な物でも、僕ら魔族にとっては必要な物なんだよ」

 それはともかく、とクリスは続ける。

「誰かが身に付ける前に探しださないといけないんだよね」
「そうだな。誰か付けたら大変だからな」

 うんうんと頷き合う2人を見て、サーニャは呆れた。

「……そんなの盗った奴の自業自得でしょ」
「まぁ、クリス様たちらしいじゃないですか」

 メイが苦笑して言った。

「そういえば、ヨハン、聖剣の位置とかわからないのかい?」

 クリスがヨハンに聞いた。
 ひょっとしたら聖剣の持ち主には聖剣の位置がわかるのではないかと思ったからだ。
 だが、ヨハンは首を横に振る。

「悪いけどそういうのはわからないな」
「じゃあ、聖剣を自分の元に呼び出すこととかは?」
「そんな能力は聞いたことがないな」
「そうなんだ……」

 クリスは眉をひそめる。

「お前は、あの、制御具になんか見つけるための仕掛けとかしなかったのか?」
「してない……」

 ヨハンの問いにクリスは残念そうに答える。
 大事な物には探知するための魔法をかけることがあるが、あの制御具は予備だったため、そのようなことはしなかった。
 そのことを少し後悔しながらも、クリスは考える。
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