その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、盗まれる2

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 クリスはシャルルを抜き、まず、すぐ目の前にいた盗賊の剣を彼方へ飛ばす。
 その勢いのまま横から殴りかかろうとした長髪の男の棍棒を真っ二つにした。
 そしてその後ろから剣を上に構えていた禿頭の男の腹をおもいっきり蹴飛ばす。

「ぐえっ!」

 武器を失った盗賊はポカンとして固まり、蹴り飛ばされた男はうずくまる。
 その盗賊たちには構わず、クリスは別の盗賊の武器を空に放つ。
 あくまで戦意を失わせて敗走させるのが目的なので、あえて気絶させずに休みなく進んでいく。
 盗賊たちも複数人で襲いかかったり、弓などの飛び道具を駆使するが、全く歯が立たない。

「な、なんだ、こいつ!?」
「化け物かよ!?」

 蹴散らした盗賊が半数以上になると、ちらほら逃げ出す者も出てくる。
 その勢いのまま、まだ戦意の尽きてない者の相手をしていた時だった。

「うわぁー!」

 今までの野太い声とは違う甲高い悲鳴が辺りに響いた。
 クリスは休みなく動かしていたシャルルの剣先をピタリと止め、目を丸くする。
 目の前にいたのは人間でいう10歳程度の少年だった。
 オレンジ色の髪の少年は片手に短剣を持って尻餅をついて濃紺の大きな瞳を丸くしてクリスを見ている。

「え、えっと、大丈夫?」

 うっかり子供を蹴散らしそうだったことに内心冷や汗をかきながら、クリスは聞いた。
 その隙を見て、後ろから2人の盗賊が襲いかかったが、クリスは振り返って1人の剣を叩き折り、1人の顎を柄で殴ってしのいだ。
 そしてまた少年に向き合う。

「君、なんでここに……」

 その時だった。
 ガンッと何かがクリスの左手にぶつかる。
 クリスの左手には、仕舞うのが面倒でそのまま持っていたバルドに渡そうとした制御具があるはずだった。
 だが、見てみると、左手には何も持っていなかった。

「……あれ?」

 戸惑うクリスが周りを見渡すと、大きな鷹が、クリスの制御具を持っている。

「ええ!?」

 クリスがとっさに飛び跳ねて取ろうとするが、鷹は悠々と嘲笑うように避ける。
 そして少年の手元に制御具を落とした。
 少年は素早く制御具を掴んで、一目散に逃げ出す。

「あ、君、ちょっと!?」

 慌てて追いかけようとするが、少年は器用に狭い木々の間をすばしっこく走る。 
 あっという間に少年の姿は見えなくなった。

「う、うそ……」

 クリスは青ざめながら呆然とした。
 その隙をついてまだしぶとく残っていた盗賊が襲いかかったが、呆然としたままのクリスにあっさり撃退される。


 盗賊全員が逃げた頃、クリスはまだ青ざめながらおろおろしていた。

「……どうしよう、大丈夫かな、どうしよう」

 頭を抱えてぶつぶつ独り言を言っているクリスを、周りが呆気に取られて見ていた。

「……何、そんなに大事な物だったの?」

 さすがに見かねて、サーニャが聞いた。

「いや、そういうわけじゃない」

 クリスは心ここにあらずという体だったが、答える。
 実際、あの制御具はクリスが使っている物の予備で、失くしたところでそこまで困らない。

「じゃあ、なんでそんなに落ち込んでいるのよ?」

 サーニャは訝しげに首を傾げる。
 そんなに長い付き合いではないが、クリスがここまで挙動不審になるのは初めてだった。
 クリスは暗い表情のまま、顔を上げた。

「……制御具は、魔族以外が嵌めると大変なことになる物なんだ」
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