その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、盗まれる

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 ある日のこと。

「ぐあっ!」

 道らしい道がない森の中、男の呻き声がこだました。

「……もうちょっと工夫したらどうだい?」

 そう声をかけたのは男、バルドをぶっ飛ばした本人であるクリスだった。
 毎回毎回同じように殴りかかって来るが、その拳がクリスに届いたことはなかった。
 バルドは先ほどぶつけた木にもたれながらクリスを睨み付ける。

「アホ!なぜか魔法が使えないんだからこうするしかないんだよ!」

 そう言われてクリスは首を傾げる。
 そして何か気が付いたように「あ」と言った。

「そういえば、それ、つけたままだったね」

 クリスは細かな装飾のある腕輪を指差す。

「……これか?」

 バルドが腕輪を見たので、クリスは頷く。

「それは拘魔具といって魔力を使えなくする魔道具なんだ」

 以前、村で暴れていたバルドを拘束した際、クリスがつけたのだがすっかり忘れていた。
 それに、そういえば拘魔具にはつけた者しか取り外せない機能があったのだった。

「じゃあ、さっさと外せ!」
「うーん」

 クリスは悩んだ。
 バルドの得意な魔法は火の魔法のようだし、この木がうっそうと繁っている森でつかわれたら大惨事になりかねない。
 クリスはしばらく考え、ポケットを探る。
 そして取り出したのはバルドがつけているのとは違う腕輪だった。

「代わりに、これをつけるならいいよ」
「なんだ、それは?」
「これは制御具。本来は魔力を制御しやすくするためのものなんだけど、威力を……」

 クリスが説明をしていた時、茂みからガサガサと何人もの武器を持った人間が飛び出してきた。
 出て来た人間たちは騎士や兵士のように鎧を纏っておらず、薄汚れた衣服に鉢巻きをしているだけの軽装だった。
 おそらく、盗賊だろう。
 頭領らしき黒いモジャモジャの髭面の男が、クリスたちの方に剣の先端を向けた。

「おい、お前ら、おとなしくって、ええええ!!」

 ニヤリと笑っていた男の顔が、なぜかすぐに目玉が飛び出んばかりの表情になる。
 何に驚いたかわからないクリスは首を傾げた。
 ちなみにクリスたちは突っ立ているだけである。

「な、ななななぜ、こ、ここに、オークや魔族が!?」

 そう言われてようやくクリスは男がなぜ驚いたのか納得した。
 どうやら、クリスたちを人間の集団だと思っていたようだ。
 他の盗賊たちも戸惑ってキョロキョロしている。

「え、ええい!こうなったら魔族でも構わねぇ!
 者ども、かかれぇ!」

 わー、といまいち迫力のない雄叫びを上げながら盗賊たちは襲いかかった。
 だが、その勢いのまま、ガンッと見えない壁にぶつかってしまう。

「な、なんだ!?」

 顔面を強打した盗賊たちがざわめく。
 盗賊たちが襲いかかる前に、クリスが魔力で皆を囲う障壁を築いたのだ。
 だが、そのまま閉じ籠っているわけにはいかないので、クリスはあえて障壁の外に出た。
 帽子をかぶっているため、魔族の特徴である角が隠れたクリスを、盗賊たちは人間と勘違いしたのか、意気揚々と襲いかかって来た。
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