その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、説明する

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 バルドが加わった次の日、クリスたちのところに勇者一行が訪ねて来た。

「昨日、あんたが何をしたのか説明しなさい!」

 一行を代表してエレナが怒鳴ったが、クリスは首を傾げる。

「昨日のことならヨハンに聞けばいいんじゃないかい?」

 昨日、クリスとヨハンは一緒にいることが多かったのだ。クリスよりヨハンの方がエレナにとって信用できるだろうし、それで十分だと思う。

「それはそうなんだけど……」

 エレナはキッとクリスを睨み付けた。

「私は昨日、あんたがヨハンにしたことを許したわけじゃないんだからね!」
「おい、エレナ」

 ヨハンが小声で宥めるが、エレナは黙殺した。
 どうやら、昨日、ヨハンの背中を押して火の中に入れたことをエレナはまだ許していないようだ。
 クリスは首を傾げる。

「無事だったんだから別にいいんじゃない?」
「そういう問題じゃない!」

 エレナは声をいっそう大きくした。

「あの時、私はヨハンが死んだかもしれないと思って気が気じゃなかった! しかも魔族の男の相手までさせて!
 結果的に勝ったからいいものの、ヨハンが死ぬ可能性は十分にあったんでしょ!」
「……相手をしたいと言ったのはヨハンなんだけど?」
「わかっているわよそんなことは!」

 悔しそうにエレナは言った。

「自分が言っていることが理不尽なことくらいわかっている! あんたにヨハンを守る義務なんてないことも!
 けど、私はあんたのことが許せない!」

 涙目になって肩を震わせるエレナに「まあまあ」とグレイが宥める。
 そして、クリスの方を苦笑いしながら見た。

「お前のやることに対してどうこう言うつもりはないが、昨日のはさすがに心臓に悪かった。それにエレナの気持ちもわかる。
 そこで、1つ頼みたいことがあるんだが……」
「なんだい?」

(つまり、昨日のことは水に流すから頼みを聞け、ということか)

 正直、勇者一行がクリスのことをどう思っていようが構わないが、ぎすぎすした空気で旅をするのはしんどそうだ。
 余程こちらが危険になること以外なら聞こうとクリスは思った。
 グレイは一呼吸置いてから、その内容を言った。

「聖剣の力について説明してくれないか?」
「いいよ」

 クリスがあっさり頷いたことに、グレイや勇者一行だけでなく、サーニャやメイ、オークたちも目を丸くする。

「どうしたんだ?あんなに嫌がっていたのに」
「まぁ、それよりヨハン、これに名前書いてくれない?」

 クリスは1枚の細かな装飾が施された紙と羽ペンをヨハンに差し出す。

「これは?」
「昨日の王の死後に国民と配下に手を出さないという誓いを書いたものだよ」

 それならと、ヨハンは躊躇いもなく名前を書こうとする。

「待て!」

 ガルムが鋭い声を上げてヨハンを止めた。

「なんだよ」

 ヨハンが不服そうに口を尖らせた。
 ガルムはクリスを睨み付ける。

「お前、この契約書に何か仕掛けをしたんじゃないか?」

 クリスは素直に頷いた。

「まぁね」

 実はこの紙は「誓約の紙」という魔道具で、昨夜、ジョセフと共にポケットをひっくり返して探し出した物だ。
 ヨハンがクリスを睨む。

「俺ってそんなに信用ないのかよ」
「信用してないわけじゃないけど、念のためね。保険みたいなものだよ」

 ヨハンが約束を平気で破るような者ではないと思っている。それに、そもそも魔法による誓約が聖剣の持ち主にどれほど効果があるかわからない。

「この紙に書いたことを破るとどうなるんだ?」

 ヨハンに聞かれたので、クリスは答えた。

「確か、破った者が一週間だけ少し不幸になるとかだったと思う」
「少し不幸?」
「えーと、例えば物を落とし易くなるとか、石に躓き易くなるとか……」

 なぜかヨハンの目が点になったので、クリスは首を傾げる。

「どうかしたかい?」
「いや、なんかショボくないか?」

 クリスは頭を掻く。

「あー、もう少し厳しい物もあるけど、これは試供品でもらったやつだから」
「試供品……」

 ヨハンがなぜか微妙な顔をした。
 クリスが仕事とかで使う誓約の紙は「決して約束を違えることができないもの」とか「約束を破ると紙が頭に巻き付いて徐々に締めるもの」とかがある。だが、これはあくまで一般的な約束で使うもので、街で試供品として配られていたものだった。

「まぁ、それなら書いても問題ないな」

 1つ頷くと、ヨハンはさらさらと誓約の紙に名前を書いてクリスに渡した。
 クリスは誓約の紙をじっと見て、きちんと名前が書かれていることを確認する。

「うん、これでよし」
「それじゃ、聖剣の力について話してくれ!」
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