その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、逃げる4

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「な、何なんだその魔法は?」

 驚く男に、クリスは首を傾げる。

「こっちには転移魔法ってないのかい?」
「んな魔法、聞いたことない!」

 どうやらこちらの世界では転移魔法はあまり使われていないようだ。
 まぁ、元の世界でも使える者は少なかったが。

「それはともかく、君、ここで人間たちに殺されるのと、僕たちについて行くのどっちがいい?」
「どっちも嫌だな」

 そっけない返事にクリスは苦笑する。

「まぁ、そうだよね。
 それより、これ、何か知ってる?」

 クリスが男の目の前に掲げたのはシャルルである。

「お、おい」

 戸惑って声を出したシャルルに、男の目が見開いた。

「ま、まさか、それ、聖剣か!?」

 クリスが頷くと、男はクリスを睨み付ける。

「何で魔族のお前が聖剣を持っている!?
 というか、こっち人間が持っていた聖剣は何だ!?」
「なぜか知らないけど、僕が聖剣に選ばれたみたいなんだよね。
 あと、僕が持っているのはこの世界の聖剣で、ヨハンが持っているのは僕たちがいた世界の聖剣だよ」

 クリスが説明すると、男はさらに目を丸くし、そして納得したように頷いた。

「なるほど、お前たちは異世界から来た奴らか。
 どうりで、変わった奴らだと思った」
「それで、聞きたいんだけど、君ってもともと勇者を倒すように魔王に言われていたんだよね?」
「ああ、そうだが?」
「なら、僕について行けば僕の命狙い放題だよ?」

 クリスの突飛な提案に、男だけではなく、ヨハンもポカンとする。

「……自分の命を狙っている奴を連れて行くつもりか?」
「簡単に殺されるつもりはないし、その都度遠慮なく反撃するけどね。君が村を焼いたことを許したわけじゃないけど、差別で殺されるのはダメだと思うし」

 クックックッと男は忍び笑いをした。

「悪くないな。むかつく人間どもに殺されないうえに、むかつく奴を殺せるなんてな」

 男はクリスに凶悪な笑みを向けた。

「いいぜ、その提案、乗ってやるよ!」
「それじゃ行こうか」

 そう言ってクリスは男を捕らえていた蔓草を解くと、さっそくとばかりに男は殴りかかってきた。
 クリスはその拳を余裕で避けると、体を低くして懐に入り、男のみぞおちに拳を叩きつける。

「うぐっ……」

 男は呻きながら、あっさりと気絶する。
 その気絶した男をクリスは肩で担いだ。
 自分より体格の良い男を軽々担いだクリスを、ヨハンが感心したように見る。

「意外と力あるんだな」
「いや、身体強化魔法を使っているから……」

 実際、クリスの素の力だと男どころかサーニャやルディアすら持ち上がるか怪しい。
 なるべく魔力に頼らず体を鍛えるように言われているのだが、ついついいつもの癖で、身体強化魔法に頼ってしまう。
 村人たちが来ては厄介なので、クリスは転移魔法でサーニャたちのところに移動した。

「な、何なのその魔法!?」

 サーニャとオークたちも転移魔法を見るのは初めてだったようで、目を丸くする。
 そして、クリスが担いだ男を見た時、サーニャはさらに驚いた。

「ちょ、ちょっと、こいつ、バルドじゃない!?」
「知り合いかい?」
「知っているも何も、同じ魔族だし……」

 戸惑うサーニャに、クリスは言った。

「あ、今度から彼も一緒に連れて行くことにしたから」

 クリスの宣言にサーニャはさらに目を丸くした。

「ちょっと、バルドがなんで!? 大人しくあんたについて行くような奴じゃないわよ!?」

 クリスは簡単に説明すると、サーニャは呆れた。

「確かにそれならついて来るでしょうけど、あんたはそれでいいの?」
「何が?」
「こいつ、あんたの命を狙っているのよ?」

 もっともなサーニャの疑問に、クリスは苦笑する。

「命を狙われるのは初めてじゃないし、簡単に殺されるつもりはないよ」

 事実、勇者やクリスの地位を狙った者が殺そうと企むことがあった。
 それらをすべて退けたから今のクリスがあるのだ。

「……まぁ、確かにあんたならバルドくらいなんとかできそうだしね」

 サーニャは納得して頷いた。

 こうして、クリスたちに新たな仲間(?)が加わり、人間1人、魔族3人、オーク12体の奇妙な勇者一行は先に進んだ。
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