その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

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魔王、逃げる3

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「さて、それじゃ、魔族の男をどうするか決めようか?」

 泣き止んだヨハンに、クリスは言った。

「どうするって……?」

 グズっと鼻をすすりながら、ヨハンが聞き返す。

「あのまま村にいたら、殺すの1択だけだと思うんだよね。あの村人たちは魔族を嫌っているし」
「……確かにそうだな」

 先ほどの村人たちの様子を思い出して、ヨハンは苦い顔をする。

「彼のやったことを考えると、それで仕方ないかもしれない。けど、それが『魔族だから』という理由なら、おかしいと思う」
「ちょっと待て、意味がわからない」

 ヨハンは混乱して頭を抱えている。

「人間だからっていう理由で殺されるのと、大量殺人で死罪になるのは違うってこと。前者はただの差別で、後者はその者の行いによる刑罰だね」
「……まぁ、そうだな」

 そこまでは納得できたらしく、ヨハンは頷いた。

「今回の場合、『村を焼いた罪』が死罪だったら、殺されるのは仕方ないと思う」
「仕方ないのかよ……」
「けど、この世界で『村を焼いた』ことがどれほどの罪なのか僕は知らないから、村人たちに聞きたかったんだよね」

 クリスが頭を掻いていると、ヨハンが呆れたように見た。

「お前、そんな変なこと考えていたのかよ」
「変なことって……」
「普通に考えて、村を襲っている時点で殺されるもんだと思うぞ? 人間でも」
「そうかもしれないけど、法に従ってはいないし……」
「そこまで堅苦しく考えなくて良くね?
 村を襲ったんだから殺されても仕方ない。そういうもんじゃね?」
「うーん、そうかな?」

 クリスは首をひねる。
 クリスは王なので、罪状というのは法に従うべきという考えが根付いている。
 王が私情で刑罰なんか考えたら大変だからだ。
 今回の場合も、ヒオン国だと死罪ではなかったので、クリスは迷っていた。

「そんなに迷うなら、サーニャやオークみたいに連れて行けば?」

 思わぬ提案に、クリスは目を丸くした。

「いいのかな?彼は村を焼いたのだし……」
「差別で殺されるよりはましじゃね? 少なくとも、お前はそう思っているんだろ?」

 ヨハンの言葉で、クリスは決心を固めた。

「そうだね。確かにましだ」

 だとすると、どうやって彼を連れて行くかが問題だった。何せクリスは彼に厳しいことを言ったのだから簡単にはいかないだろう。
 少し考え、方法は一応思い付いたが、成功するかはわからない。
 まぁ、失敗したなら、それならそれで仕方ないか。

「それじゃ、彼のところに行こうか」
「おう!」

 さっそく走り出そうとするヨハンの肩をクリスは掴んだ。

「ちょっと待って」
「なんだよ?」

 出鼻を挫かれたヨハンは口を尖らせる。

「転移魔法で行った方がずっと早いよ」
「転移魔法って、魔王が使っていたやつか?」
「そうだよ」
「お前も使えるのか?」

 頷くと、ヨハンは首を傾げた。

「じゃあ、なんでこの世界の魔王のところにそれで行かないんだ?」
「転移魔法は行ったことのある場所しか行けないんだ。魔王のところは行ったことがないからね」

 そう言うと、クリスは目を閉じ、彼のいた場所を思い浮かべる。
 転移魔法は難易度が高く、集中しないと悲惨なことになることが多い。
 ましてや、初めて転移する場所だから、いつも以上に慎重に行わなければならない。
 クリスとヨハンのいる地面が光り、2人をクリスの魔力が包み込んだ。
 そして、光が収まると、2人の前にあの魔族の男がポカンと口を開けて座っていた。
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