61 / 179
魔王、逃げる3
しおりを挟む
「さて、それじゃ、魔族の男をどうするか決めようか?」
泣き止んだヨハンに、クリスは言った。
「どうするって……?」
グズっと鼻をすすりながら、ヨハンが聞き返す。
「あのまま村にいたら、殺すの1択だけだと思うんだよね。あの村人たちは魔族を嫌っているし」
「……確かにそうだな」
先ほどの村人たちの様子を思い出して、ヨハンは苦い顔をする。
「彼のやったことを考えると、それで仕方ないかもしれない。けど、それが『魔族だから』という理由なら、おかしいと思う」
「ちょっと待て、意味がわからない」
ヨハンは混乱して頭を抱えている。
「人間だからっていう理由で殺されるのと、大量殺人で死罪になるのは違うってこと。前者はただの差別で、後者はその者の行いによる刑罰だね」
「……まぁ、そうだな」
そこまでは納得できたらしく、ヨハンは頷いた。
「今回の場合、『村を焼いた罪』が死罪だったら、殺されるのは仕方ないと思う」
「仕方ないのかよ……」
「けど、この世界で『村を焼いた』ことがどれほどの罪なのか僕は知らないから、村人たちに聞きたかったんだよね」
クリスが頭を掻いていると、ヨハンが呆れたように見た。
「お前、そんな変なこと考えていたのかよ」
「変なことって……」
「普通に考えて、村を襲っている時点で殺されるもんだと思うぞ? 人間でも」
「そうかもしれないけど、法に従ってはいないし……」
「そこまで堅苦しく考えなくて良くね?
村を襲ったんだから殺されても仕方ない。そういうもんじゃね?」
「うーん、そうかな?」
クリスは首をひねる。
クリスは王なので、罪状というのは法に従うべきという考えが根付いている。
王が私情で刑罰なんか考えたら大変だからだ。
今回の場合も、ヒオン国だと死罪ではなかったので、クリスは迷っていた。
「そんなに迷うなら、サーニャやオークみたいに連れて行けば?」
思わぬ提案に、クリスは目を丸くした。
「いいのかな?彼は村を焼いたのだし……」
「差別で殺されるよりはましじゃね? 少なくとも、お前はそう思っているんだろ?」
ヨハンの言葉で、クリスは決心を固めた。
「そうだね。確かにましだ」
だとすると、どうやって彼を連れて行くかが問題だった。何せクリスは彼に厳しいことを言ったのだから簡単にはいかないだろう。
少し考え、方法は一応思い付いたが、成功するかはわからない。
まぁ、失敗したなら、それならそれで仕方ないか。
「それじゃ、彼のところに行こうか」
「おう!」
さっそく走り出そうとするヨハンの肩をクリスは掴んだ。
「ちょっと待って」
「なんだよ?」
出鼻を挫かれたヨハンは口を尖らせる。
「転移魔法で行った方がずっと早いよ」
「転移魔法って、魔王が使っていたやつか?」
「そうだよ」
「お前も使えるのか?」
頷くと、ヨハンは首を傾げた。
「じゃあ、なんでこの世界の魔王のところにそれで行かないんだ?」
「転移魔法は行ったことのある場所しか行けないんだ。魔王のところは行ったことがないからね」
そう言うと、クリスは目を閉じ、彼のいた場所を思い浮かべる。
転移魔法は難易度が高く、集中しないと悲惨なことになることが多い。
ましてや、初めて転移する場所だから、いつも以上に慎重に行わなければならない。
クリスとヨハンのいる地面が光り、2人をクリスの魔力が包み込んだ。
そして、光が収まると、2人の前にあの魔族の男がポカンと口を開けて座っていた。
泣き止んだヨハンに、クリスは言った。
「どうするって……?」
グズっと鼻をすすりながら、ヨハンが聞き返す。
「あのまま村にいたら、殺すの1択だけだと思うんだよね。あの村人たちは魔族を嫌っているし」
「……確かにそうだな」
先ほどの村人たちの様子を思い出して、ヨハンは苦い顔をする。
「彼のやったことを考えると、それで仕方ないかもしれない。けど、それが『魔族だから』という理由なら、おかしいと思う」
「ちょっと待て、意味がわからない」
ヨハンは混乱して頭を抱えている。
「人間だからっていう理由で殺されるのと、大量殺人で死罪になるのは違うってこと。前者はただの差別で、後者はその者の行いによる刑罰だね」
「……まぁ、そうだな」
そこまでは納得できたらしく、ヨハンは頷いた。
「今回の場合、『村を焼いた罪』が死罪だったら、殺されるのは仕方ないと思う」
「仕方ないのかよ……」
「けど、この世界で『村を焼いた』ことがどれほどの罪なのか僕は知らないから、村人たちに聞きたかったんだよね」
クリスが頭を掻いていると、ヨハンが呆れたように見た。
「お前、そんな変なこと考えていたのかよ」
「変なことって……」
「普通に考えて、村を襲っている時点で殺されるもんだと思うぞ? 人間でも」
「そうかもしれないけど、法に従ってはいないし……」
「そこまで堅苦しく考えなくて良くね?
村を襲ったんだから殺されても仕方ない。そういうもんじゃね?」
「うーん、そうかな?」
クリスは首をひねる。
クリスは王なので、罪状というのは法に従うべきという考えが根付いている。
王が私情で刑罰なんか考えたら大変だからだ。
今回の場合も、ヒオン国だと死罪ではなかったので、クリスは迷っていた。
「そんなに迷うなら、サーニャやオークみたいに連れて行けば?」
思わぬ提案に、クリスは目を丸くした。
「いいのかな?彼は村を焼いたのだし……」
「差別で殺されるよりはましじゃね? 少なくとも、お前はそう思っているんだろ?」
ヨハンの言葉で、クリスは決心を固めた。
「そうだね。確かにましだ」
だとすると、どうやって彼を連れて行くかが問題だった。何せクリスは彼に厳しいことを言ったのだから簡単にはいかないだろう。
少し考え、方法は一応思い付いたが、成功するかはわからない。
まぁ、失敗したなら、それならそれで仕方ないか。
「それじゃ、彼のところに行こうか」
「おう!」
さっそく走り出そうとするヨハンの肩をクリスは掴んだ。
「ちょっと待って」
「なんだよ?」
出鼻を挫かれたヨハンは口を尖らせる。
「転移魔法で行った方がずっと早いよ」
「転移魔法って、魔王が使っていたやつか?」
「そうだよ」
「お前も使えるのか?」
頷くと、ヨハンは首を傾げた。
「じゃあ、なんでこの世界の魔王のところにそれで行かないんだ?」
「転移魔法は行ったことのある場所しか行けないんだ。魔王のところは行ったことがないからね」
そう言うと、クリスは目を閉じ、彼のいた場所を思い浮かべる。
転移魔法は難易度が高く、集中しないと悲惨なことになることが多い。
ましてや、初めて転移する場所だから、いつも以上に慎重に行わなければならない。
クリスとヨハンのいる地面が光り、2人をクリスの魔力が包み込んだ。
そして、光が収まると、2人の前にあの魔族の男がポカンと口を開けて座っていた。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる