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魔王、逃げる
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村人たちはクリスたちの方を無言で見ているか、ヒソヒソと何か小声で話している。
その村人の中から、1人の小柄で白い髪の壮年の男が進み出た。
「ここの村長のナオと申します。
このたびは、村を守ってくださり、ありがとうございます」
そう言ってナオは頭を下げた。
ヨハンは慌てる。
「いや、当たり前のことをしただけだから……」
照れてわずかに顔が赤くなるヨハンにナオは微笑む。
そして、真顔で聞いた。
「それで、なぜ、あなたのような方が、魔族なんか連れているのです?」
ヨハンは硬直した。おそらく、先ほどのクリスと男の会話を聞いた者が、報告したのだろう。
ナオは苦々しげに息を吐く。
「あなたのような勇敢な若者が、魔族なんかとつるむのは良くないことです。魔族は凶悪で野蛮で欲望のままに動く、とても信用できるような者ではありません」
ナオの言葉に、ヨハンの顔がひきつる。
それに気づかず、ナオはクリスを睨んだ。
「もしや、お前がこの方を誑かしているのか? この方の善良なことをいいことに、利用しようと目論でいるのか?」
クリスはそっとため息をついた。実際にはヨハンたちが勝手について来ているのだが、言ったところで無駄だろう。
こういうことには慣れている。
「違う!」
シャルルが叫んだ。
「こいつはそんな奴じゃねぇ! ここに来たのだってただ単に……」
「シャルル、ややこしくなるから黙って」
クリスはポンッと軽く叩いてシャルルを黙らせる。
ナオは目を見開いていたが、すぐにさっきよりも険しくクリスを睨み付けた。
「なぜ、その剣を魔族が持っている? それは勇者が持つべきものだ」
「それはこいつが……」
「シャルル!」
シャルルの説明をクリスは遮った。
何を言ったところで無駄だからだ。むしろ、敵意が増すだけだろう。
見ると、ナオの後ろに武器を持った男たちが、こちらを非友好的な眼差しで睨んでいる。
「あ、あのさ!」
不穏な空気が流れる中、ヨハンが声を上げた。
「こいつは確かに魔族だけど、別に俺らを騙しているわけじゃない!
それに、こいつは火を消してくれたんだぞ!」
必死にクリスに対する誤解を解こうとするヨハンに、ナオは憐れみを込めた顔を向けた。
「あなたは騙されているのです。魔族が理由もなくそんなことをするはずがないでしょう。
何か裏があるに違いありません」
「そんなわけ……」
「いいえ、そうに違いありません」
ヨハンの言葉を遮り、ナオは後ろの男たちに目で合図する。
「この魔族を捕らえなさい。おそらく、持っている聖剣もこの方から奪ったものでしょう」
「おい!」
「なんでそうなるんだ!」
ヨハンとシャルルの抗議の声をナオと男たちは聞いていなかった。
ぞろぞろ出て来た男たちはそれぞれの武器を構える。
だが、クリスが魔族だからか、腰が引けている者が多い。
「大人しく捕まるなら、お前を信用しよう。
抵抗するなら、敵と見なして、殺す」
あまりにも理不尽なナオの要求に、クリスはため息をついた。
「どれもやだね」
クリスは冷めた目でナオを見る。
「大人しく殺されるつもりはないし、捕まるつもりもない。それに、君たちの信用は必要ない。
そもそも、そんな馬鹿馬鹿しい提案なんか乗るつもりはない」
きっぱり言いきったクリスを、ナオは睨み付ける。
「それなら、こちらも遠慮しない」
「やれ」と傍らの屈強な男にナオは命じた。
男は戸惑いつつも「うおおー!」と言いながら、クリスに剣を振り下ろす。
クリスは体をひねって躱すと、そのまま背を向いて駆け出した。
「おい、待てよ! このまま誤解されてていいのかよ!」
ヨハンがクリスの背に向かって叫ぶと、クリスは振り返って悲しげに微笑んだ。
「大丈夫、慣れているから」
まるで自分が傷ついたような顔をしたヨハンを背に、クリスは村から逃げ出した。
その村人の中から、1人の小柄で白い髪の壮年の男が進み出た。
「ここの村長のナオと申します。
このたびは、村を守ってくださり、ありがとうございます」
そう言ってナオは頭を下げた。
ヨハンは慌てる。
「いや、当たり前のことをしただけだから……」
照れてわずかに顔が赤くなるヨハンにナオは微笑む。
そして、真顔で聞いた。
「それで、なぜ、あなたのような方が、魔族なんか連れているのです?」
ヨハンは硬直した。おそらく、先ほどのクリスと男の会話を聞いた者が、報告したのだろう。
ナオは苦々しげに息を吐く。
「あなたのような勇敢な若者が、魔族なんかとつるむのは良くないことです。魔族は凶悪で野蛮で欲望のままに動く、とても信用できるような者ではありません」
ナオの言葉に、ヨハンの顔がひきつる。
それに気づかず、ナオはクリスを睨んだ。
「もしや、お前がこの方を誑かしているのか? この方の善良なことをいいことに、利用しようと目論でいるのか?」
クリスはそっとため息をついた。実際にはヨハンたちが勝手について来ているのだが、言ったところで無駄だろう。
こういうことには慣れている。
「違う!」
シャルルが叫んだ。
「こいつはそんな奴じゃねぇ! ここに来たのだってただ単に……」
「シャルル、ややこしくなるから黙って」
クリスはポンッと軽く叩いてシャルルを黙らせる。
ナオは目を見開いていたが、すぐにさっきよりも険しくクリスを睨み付けた。
「なぜ、その剣を魔族が持っている? それは勇者が持つべきものだ」
「それはこいつが……」
「シャルル!」
シャルルの説明をクリスは遮った。
何を言ったところで無駄だからだ。むしろ、敵意が増すだけだろう。
見ると、ナオの後ろに武器を持った男たちが、こちらを非友好的な眼差しで睨んでいる。
「あ、あのさ!」
不穏な空気が流れる中、ヨハンが声を上げた。
「こいつは確かに魔族だけど、別に俺らを騙しているわけじゃない!
それに、こいつは火を消してくれたんだぞ!」
必死にクリスに対する誤解を解こうとするヨハンに、ナオは憐れみを込めた顔を向けた。
「あなたは騙されているのです。魔族が理由もなくそんなことをするはずがないでしょう。
何か裏があるに違いありません」
「そんなわけ……」
「いいえ、そうに違いありません」
ヨハンの言葉を遮り、ナオは後ろの男たちに目で合図する。
「この魔族を捕らえなさい。おそらく、持っている聖剣もこの方から奪ったものでしょう」
「おい!」
「なんでそうなるんだ!」
ヨハンとシャルルの抗議の声をナオと男たちは聞いていなかった。
ぞろぞろ出て来た男たちはそれぞれの武器を構える。
だが、クリスが魔族だからか、腰が引けている者が多い。
「大人しく捕まるなら、お前を信用しよう。
抵抗するなら、敵と見なして、殺す」
あまりにも理不尽なナオの要求に、クリスはため息をついた。
「どれもやだね」
クリスは冷めた目でナオを見る。
「大人しく殺されるつもりはないし、捕まるつもりもない。それに、君たちの信用は必要ない。
そもそも、そんな馬鹿馬鹿しい提案なんか乗るつもりはない」
きっぱり言いきったクリスを、ナオは睨み付ける。
「それなら、こちらも遠慮しない」
「やれ」と傍らの屈強な男にナオは命じた。
男は戸惑いつつも「うおおー!」と言いながら、クリスに剣を振り下ろす。
クリスは体をひねって躱すと、そのまま背を向いて駆け出した。
「おい、待てよ! このまま誤解されてていいのかよ!」
ヨハンがクリスの背に向かって叫ぶと、クリスは振り返って悲しげに微笑んだ。
「大丈夫、慣れているから」
まるで自分が傷ついたような顔をしたヨハンを背に、クリスは村から逃げ出した。
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