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魔王、背中を押す7
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力なく項垂れる男を背にし、クリスは村人たちの方へ向かう。
「……ずいぶん辛辣なんだな」
「そうかい?」
ヨハンの言葉にクリスは少し首を傾げる。
「お前のことだから、許して仲間にすると思った」
「僕だって仲間にする相手は選ぶよ?」
「そうかもしれないけどなぁ……」
ヨハンは何か腑に落ちないようで首を左右にひねっている。
「……彼に話した内容は、僕らの国の初代国王が言ったことでもあるんだ」
「国王?」
1つ頷くと、クリスは話し始める。
「初めて勇者が襲撃してたくさんの犠牲が出た時、こちらからも人間たちを攻撃しようという意見があったそうなんだ」
当時のヒオン国は、国というより少し大きな町程度の規模だったが、魔力の強い魔族やエルフ、力の強いオークや獣人、他にも多種多様な魔物や種族が住んでいた。
それらの力を合わせれば、人間たちなんて簡単に駆逐できるという意見だ。
「そ、それで……?」
ヨハンは息を飲んだ。
「賛同者はたくさんいたそうなんだけど、初代国王シリウスが止めたんだ」
「なんでだ?」
「泥の掛け合いになるからだよ」
ヒオン国が人間を襲撃した場合、「それ見たことか」と人間たちはヒオン国を危険な国だからと、嬉々として襲撃するだろう。今度はいかにも正当な理由を持って。
そしてそれは、どちらか破滅するまで繰り返される。
それによってたくさんの犠牲は出るし、当時活発だった国造りも滞る。
「そして、なによりシリウスは人間が嫌いで、それと同類になることが嫌だったそうだよ」
襲撃した者に対し、身を守るために攻撃するのは構わない。
だが、それ以外の者を攻撃するのは、何もしてないのに異種族だからという理由で襲ってきた勇者と一緒だと。
人間が嫌でできた国だったから、この説得は大変有効だった。
これにより、ヒオン国の人間たちへの攻撃はやめになった。
クリスの話が終わると、ヨハンは俯いていた。
「どうしたんだい?」
クリスが聞くと、ヨハンは顔を上げる。
「お前も、人間が嫌いなのか?」
クリスの目がわずかに大きくなった。
ヨハンの目はどこまでも真摯で、少し悲しそうだった。
クリスは少し考えてから、答える。
「正直、よくわからない」
「は?」
予想していなかった答えに、ヨハンは呆気にとられた。
クリスは首をひねりながら続ける。
「僕がこの世界に来るまで、会ったことのある人間は勇者ぐらいだったからね。
勇者は嫌いだし、人間に対していいイメージはない。けど、嫌いかって言われるとそこまで会ったことはないから、よくわからないんだ」
「……勇者は嫌いなのか」
ちょっと残念そうなヨハンに、クリスは淡く微笑む。
「ヨハンのことは嫌いじゃないよ。
ただ、勇者と同類にはなりたくないと思うくらいには、勇者というものが嫌いなだけで」
「それってすごく嫌いってことじゃね?」
基本的に、クリスの主義は「勇者と同類になりたくない」という気持ちからできている。
勇者が話を聞かないならクリスは話を聞くし、勇者が濡れ衣ばかり着せるならクリスはしっかり調査するよう心掛ける。
発端は馬鹿馬鹿しい理由かもしれないが、勇者の嫌いなところを反面教師にして自己の行いが良好になるなら、それでいいと思っている。
閑話休題。
「君だって魔族にいいイメージはないけど、サーニャのことは嫌いじゃないでしょ?それと一緒だよ」
ヨハンは納得したようなそうでないような顔をした。
だが、再び真っ直ぐな目でクリスを見た。
「1つ言っておく。
俺はお前のことが嫌いじゃない。
ムカつくとは思っているけど、なぜか嫌いだとは一度も思ったことがない。不思議なんだけどな」
クリスは目を丸くした。
そして微笑む。
「そっか」
そうこうしている内に、村人たちが集まっているところに着いた。
「……ずいぶん辛辣なんだな」
「そうかい?」
ヨハンの言葉にクリスは少し首を傾げる。
「お前のことだから、許して仲間にすると思った」
「僕だって仲間にする相手は選ぶよ?」
「そうかもしれないけどなぁ……」
ヨハンは何か腑に落ちないようで首を左右にひねっている。
「……彼に話した内容は、僕らの国の初代国王が言ったことでもあるんだ」
「国王?」
1つ頷くと、クリスは話し始める。
「初めて勇者が襲撃してたくさんの犠牲が出た時、こちらからも人間たちを攻撃しようという意見があったそうなんだ」
当時のヒオン国は、国というより少し大きな町程度の規模だったが、魔力の強い魔族やエルフ、力の強いオークや獣人、他にも多種多様な魔物や種族が住んでいた。
それらの力を合わせれば、人間たちなんて簡単に駆逐できるという意見だ。
「そ、それで……?」
ヨハンは息を飲んだ。
「賛同者はたくさんいたそうなんだけど、初代国王シリウスが止めたんだ」
「なんでだ?」
「泥の掛け合いになるからだよ」
ヒオン国が人間を襲撃した場合、「それ見たことか」と人間たちはヒオン国を危険な国だからと、嬉々として襲撃するだろう。今度はいかにも正当な理由を持って。
そしてそれは、どちらか破滅するまで繰り返される。
それによってたくさんの犠牲は出るし、当時活発だった国造りも滞る。
「そして、なによりシリウスは人間が嫌いで、それと同類になることが嫌だったそうだよ」
襲撃した者に対し、身を守るために攻撃するのは構わない。
だが、それ以外の者を攻撃するのは、何もしてないのに異種族だからという理由で襲ってきた勇者と一緒だと。
人間が嫌でできた国だったから、この説得は大変有効だった。
これにより、ヒオン国の人間たちへの攻撃はやめになった。
クリスの話が終わると、ヨハンは俯いていた。
「どうしたんだい?」
クリスが聞くと、ヨハンは顔を上げる。
「お前も、人間が嫌いなのか?」
クリスの目がわずかに大きくなった。
ヨハンの目はどこまでも真摯で、少し悲しそうだった。
クリスは少し考えてから、答える。
「正直、よくわからない」
「は?」
予想していなかった答えに、ヨハンは呆気にとられた。
クリスは首をひねりながら続ける。
「僕がこの世界に来るまで、会ったことのある人間は勇者ぐらいだったからね。
勇者は嫌いだし、人間に対していいイメージはない。けど、嫌いかって言われるとそこまで会ったことはないから、よくわからないんだ」
「……勇者は嫌いなのか」
ちょっと残念そうなヨハンに、クリスは淡く微笑む。
「ヨハンのことは嫌いじゃないよ。
ただ、勇者と同類にはなりたくないと思うくらいには、勇者というものが嫌いなだけで」
「それってすごく嫌いってことじゃね?」
基本的に、クリスの主義は「勇者と同類になりたくない」という気持ちからできている。
勇者が話を聞かないならクリスは話を聞くし、勇者が濡れ衣ばかり着せるならクリスはしっかり調査するよう心掛ける。
発端は馬鹿馬鹿しい理由かもしれないが、勇者の嫌いなところを反面教師にして自己の行いが良好になるなら、それでいいと思っている。
閑話休題。
「君だって魔族にいいイメージはないけど、サーニャのことは嫌いじゃないでしょ?それと一緒だよ」
ヨハンは納得したようなそうでないような顔をした。
だが、再び真っ直ぐな目でクリスを見た。
「1つ言っておく。
俺はお前のことが嫌いじゃない。
ムカつくとは思っているけど、なぜか嫌いだとは一度も思ったことがない。不思議なんだけどな」
クリスは目を丸くした。
そして微笑む。
「そっか」
そうこうしている内に、村人たちが集まっているところに着いた。
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