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魔王、背中を押す6
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目を覚ました男はしばらく目を彷徨わせたあと、クリスとヨハンを睨む。
「お前、何考えてんだ?」
「何のことだい?」
クリスは聞き返すと、男の眼光は鋭さをました。
「なぜ、殺さなかった? いや、そもそもなんで魔族のお前が人間を助ける?」
「それはさっき答えたと思うけど」
クリスが答えると、男は「はっ!」と失笑する。
「主義だのなんだのっていうやつか? じゃあ、お前はその主義で同族を縛り上げるのか?」
「必要ならね」
即答したクリスを男はまじまじ見る。
「同族に対する情はないのか?」
「情はあるけど、同族かどうかは関係ない」
男は目を細める。
「人間が俺たち魔族に対してどういう扱いをしたか知らないのか?」
「知らないけど、想像はつくよ」
クリスは息を吐いた。
おそらく、ろくな目に合わなかったのだろう。
シャルルから神話や魔王のことを聞いていたし、ここに来るまでの人間の態度から想像はつく。
「なら、俺たちが同じことをしても文句言えないとは思わないのか?」
嗤う男に、クリスは聞く。
「君たちの住んでいたところは、焼かれたのかい?」
「ああ、そうだ」
男の目がここではないどこかを見る。
「俺たちは、人間や魔王に隠れてひっそりと生きていただけだった。
だが、魔族だという理由で俺たちの住みかは人間に焼かれた。親父もお袋も、そこにいた奴らのほとんどが殺された」
「グスッ」と鼻をすする音がしたので、見てみると、ヨハンがもらい泣きをしていた。
「た、大変だったんだな」
目に涙を溜めているヨハンを男はおかしなものを見る目で見た。
「人間のくせに魔族に同情するなんて変な奴だな」
そして、クリスを睨む。
「わかっただろ? 俺はされたことをやり返しただけだ。俺にはそうしてもいい権利がある。
そう思わないか?」
そう聞く男にクリスはキッパリ答える。
「悪いけど、そうは思わない」
男の表情が険しさを増す。
「なぜだ! こっちは被害者なんだぞ!」
「けど、ここでは加害者だ」
男の剣幕に、クリスは動じなかった。
「人間の村だからっていう理由で、君はこの村を焼く必要はなかった。けど、君は何の目的もなく、大した理由もないのにそれやった。
それは許されることではない」
クリスの目は氷のように冷ややかだった。
男の顔が怒りで赤くなる。
「理由はあるだろ! やられたことをやり返して何が悪い!」
「君たちの村を焼いたのはここの住人なのかい?」
「違う! けど、あいつらだって何の理由もないのに俺たちの住みかを焼いたんだ!」
クリスは息を吐く。
「で、君はその人間たちと同類になったわけか……」
男の目が見開かれた。
「どう、るい?」
「だってそうでしょ? 人間の村だからっていう理由だけでこの村を焼いたんだから」
男はワナワナと震えた。
「違う!」
「違わない」
「俺には正当な理由がある!」
「その人間たちも魔族に住みかを襲われたかもしれない」
「それは俺たちじゃ……あっ」
男は硬直する。
クリスの男を見る目は相変わらず冷ややかだ。
「わかった? 君はその人間と全く同じことをしているんだよ。
つまり、君はその人間たちと同類ってわけだ」
情け容赦のないクリスの言葉に、男は魂が抜けたように蒼白になった。
「お前、何考えてんだ?」
「何のことだい?」
クリスは聞き返すと、男の眼光は鋭さをました。
「なぜ、殺さなかった? いや、そもそもなんで魔族のお前が人間を助ける?」
「それはさっき答えたと思うけど」
クリスが答えると、男は「はっ!」と失笑する。
「主義だのなんだのっていうやつか? じゃあ、お前はその主義で同族を縛り上げるのか?」
「必要ならね」
即答したクリスを男はまじまじ見る。
「同族に対する情はないのか?」
「情はあるけど、同族かどうかは関係ない」
男は目を細める。
「人間が俺たち魔族に対してどういう扱いをしたか知らないのか?」
「知らないけど、想像はつくよ」
クリスは息を吐いた。
おそらく、ろくな目に合わなかったのだろう。
シャルルから神話や魔王のことを聞いていたし、ここに来るまでの人間の態度から想像はつく。
「なら、俺たちが同じことをしても文句言えないとは思わないのか?」
嗤う男に、クリスは聞く。
「君たちの住んでいたところは、焼かれたのかい?」
「ああ、そうだ」
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「俺たちは、人間や魔王に隠れてひっそりと生きていただけだった。
だが、魔族だという理由で俺たちの住みかは人間に焼かれた。親父もお袋も、そこにいた奴らのほとんどが殺された」
「グスッ」と鼻をすする音がしたので、見てみると、ヨハンがもらい泣きをしていた。
「た、大変だったんだな」
目に涙を溜めているヨハンを男はおかしなものを見る目で見た。
「人間のくせに魔族に同情するなんて変な奴だな」
そして、クリスを睨む。
「わかっただろ? 俺はされたことをやり返しただけだ。俺にはそうしてもいい権利がある。
そう思わないか?」
そう聞く男にクリスはキッパリ答える。
「悪いけど、そうは思わない」
男の表情が険しさを増す。
「なぜだ! こっちは被害者なんだぞ!」
「けど、ここでは加害者だ」
男の剣幕に、クリスは動じなかった。
「人間の村だからっていう理由で、君はこの村を焼く必要はなかった。けど、君は何の目的もなく、大した理由もないのにそれやった。
それは許されることではない」
クリスの目は氷のように冷ややかだった。
男の顔が怒りで赤くなる。
「理由はあるだろ! やられたことをやり返して何が悪い!」
「君たちの村を焼いたのはここの住人なのかい?」
「違う! けど、あいつらだって何の理由もないのに俺たちの住みかを焼いたんだ!」
クリスは息を吐く。
「で、君はその人間たちと同類になったわけか……」
男の目が見開かれた。
「どう、るい?」
「だってそうでしょ? 人間の村だからっていう理由だけでこの村を焼いたんだから」
男はワナワナと震えた。
「違う!」
「違わない」
「俺には正当な理由がある!」
「その人間たちも魔族に住みかを襲われたかもしれない」
「それは俺たちじゃ……あっ」
男は硬直する。
クリスの男を見る目は相変わらず冷ややかだ。
「わかった? 君はその人間と全く同じことをしているんだよ。
つまり、君はその人間たちと同類ってわけだ」
情け容赦のないクリスの言葉に、男は魂が抜けたように蒼白になった。
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