その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

文字の大きさ
上 下
57 / 179

魔王、背中を押す6

しおりを挟む
 目を覚ました男はしばらく目を彷徨わせたあと、クリスとヨハンを睨む。

「お前、何考えてんだ?」
「何のことだい?」

 クリスは聞き返すと、男の眼光は鋭さをました。

「なぜ、殺さなかった? いや、そもそもなんで魔族のお前が人間を助ける?」
「それはさっき答えたと思うけど」

 クリスが答えると、男は「はっ!」と失笑する。

「主義だのなんだのっていうやつか? じゃあ、お前はその主義で同族を縛り上げるのか?」
「必要ならね」

 即答したクリスを男はまじまじ見る。

「同族に対する情はないのか?」
「情はあるけど、同族かどうかは関係ない」

 男は目を細める。

「人間が俺たち魔族に対してどういう扱いをしたか知らないのか?」
「知らないけど、想像はつくよ」

 クリスは息を吐いた。
 おそらく、ろくな目に合わなかったのだろう。
 シャルルから神話や魔王のことを聞いていたし、ここに来るまでの人間の態度から想像はつく。

「なら、俺たちが同じことをしても文句言えないとは思わないのか?」

 嗤う男に、クリスは聞く。

「君たちの住んでいたところは、焼かれたのかい?」
「ああ、そうだ」

 男の目がここではないどこかを見る。

「俺たちは、人間や魔王に隠れてひっそりと生きていただけだった。
 だが、魔族だという理由で俺たちの住みかは人間に焼かれた。親父もお袋も、そこにいた奴らのほとんどが殺された」

 「グスッ」と鼻をすする音がしたので、見てみると、ヨハンがもらい泣きをしていた。

「た、大変だったんだな」

 目に涙を溜めているヨハンを男はおかしなものを見る目で見た。

「人間のくせに魔族に同情するなんて変な奴だな」

 そして、クリスを睨む。

「わかっただろ? 俺はされたことをやり返しただけだ。俺にはそうしてもいい権利がある。
 そう思わないか?」

 そう聞く男にクリスはキッパリ答える。

「悪いけど、そうは思わない」

 男の表情が険しさを増す。

「なぜだ! こっちは被害者なんだぞ!」
「けど、ここでは加害者だ」

 男の剣幕に、クリスは動じなかった。

「人間の村だからっていう理由で、君はこの村を焼く必要はなかった。けど、君は何の目的もなく、大した理由もないのにそれやった。
 それは許されることではない」

 クリスの目は氷のように冷ややかだった。
 男の顔が怒りで赤くなる。

「理由はあるだろ! やられたことをやり返して何が悪い!」
「君たちの村を焼いたのはここの住人なのかい?」
「違う! けど、あいつらだって何の理由もないのに俺たちの住みかを焼いたんだ!」

 クリスは息を吐く。

「で、君はその人間たちと同類になったわけか……」

 男の目が見開かれた。

「どう、るい?」
「だってそうでしょ? 人間の村だからっていう理由だけでこの村を焼いたんだから」

 男はワナワナと震えた。

「違う!」
「違わない」
「俺には正当な理由がある!」
「その人間たちも魔族に住みかを襲われたかもしれない」
「それは俺たちじゃ……あっ」

 男は硬直する。
 クリスの男を見る目は相変わらず冷ややかだ。

「わかった? 君はその人間と全く同じことをしているんだよ。
 つまり、君はその人間たちと同類ってわけだ」

 情け容赦のないクリスの言葉に、男は魂が抜けたように蒼白になった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...